51
「これは神殿と言うのかしら?」
田舎の小さな休憩所に気持ちばかりの祭壇。
ちんまりと置かれた石像を見てカミラが肩をすくめた。
「石像があれば神殿だよ!」
「王都以外は本当に雑ね、おまえの国の信仰は」
カミラが大袈裟にため息をついたが、セドリックとグレンもその意見には概ね賛成だ。
王都でしか触れたことがないから知らなかったが、都市部以外の場所での聖女にまつわる話は、なぜかいつもどこか人間臭い。
「俺たちの知っている神聖さがないっていうか…」
「民間療法みてぇな感じか?」
例えば薬草があるとする。
この葉っぱは熱冷ましに良い。なぜかは知らないけど、誰もが知っている。そんな感じだ。
「それはなんか違う気もするけど…」
アイリスが苦笑しながら、老婆から預かったクゥ・ルーイを石像の前に置いて祈りを捧げた。
アイリスを金色の光が包み込む。
「これが…聖女の祈り…」
アイリスの治癒以外の魔法を初めて見たセドリックが、声を詰まらせる。
何者も寄せ付けない僅かな静寂の後、ふわりと舞い上がっていた長い髪が、祈りの終わりと共にさらりと落ちた。
「うん。ここも問題ない!」
アイリスは元気よく頷くとカミラを抱き上げ、立ち上がる。
「さぁ!カミラのおうちに突撃しよう!」
「おまえは、能天気で良いわね?」
悩みごとなど全く無いようなからりとした声に、カミラが苦笑した。
村を出るときに、老婆がいくつかのクゥ・ルーイと、加工したクゥ・ルーイのランタンを持たせてくれた。ランタンは蝋燭がなくても仄かに香り、馬車酔いを防いでくれると言うことだ。
「アイリスは鈍いから、馬車酔いなんてしないだろうがね!」
最後まで憎たらしい口を利き、老婆が送り出してくれた。
「あんなこと言っておきながら、お菓子を持たせてくれたのよ。やっぱりあれもお人好しね」
アイリスの膝の上でカミラがふふっと体を揺らした。碌に材料も手に入らない村で、お菓子なんて高級品もいいところだ。
「これ、グレンにって言ってたもんね。グレンのことも気に入ったんだねぇ」
「口と態度が悪いところがそっくりだもの、孫だとでも思ったんではないかしら」
「ほほほ」と高らかに笑うカミラに、アイリスが口元をモゴモゴさせた。
(…カミラもそっくりだよ!!)
言ったら絶対怒られるので、言わない。
危機回避を覚えたアイリスは口先だけで「そうだね?」と曖昧に相槌を打った。
馬車の外では御者台で、セドリックが肩を震わせていた。
「ははっ!良かったなグレン。素敵なおばあ様で」
「言ってろ、くそが」
グレンが眉間に皺を寄せて悪態をついた。多分照れ隠しだろう。
セドリックはグレンの肩を軽く叩き、分かったような顔で頷く。グレンが舌打ちをして、馬車の手綱を一打ちした。
やがて村の外れの小さな検問所が見えてきた。
簡易的に、申し訳程度に置かれたそこでは、村人が交代で入出国の記録をつけている。
交易があるわけでもない大国との行き来に訪れる人は少ない。
のんびりと検問所に向かってくる馬車に気がつくと男が寄ってきた。
乗っているのが、アイリスだと分かると目を細める。
「おお、アイリスじゃないか。元気だったか?聖女のお仕事はどうだい?」
ルウイ村はみな顔見知りだ。男が気軽に声をかけてきた。
「元気だったよ。おじさんも元気そうだね!」
軽い雑談を交わしてエルダリア国の軽すぎる検問を通り抜ける。
そして少し進むと、今度はアマンディアス皇国の立派な検問所が見えてきた。
「ここからが、本番だよ?」
セドリックの声にアイリスの体が固くなる。
「ここを踏ん張るのはセドリックよ。おまえは気楽にしてなさいよ」
緊張で思わず手を握りこむアイリスの膝に、カミラがそっと手を置いた。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。




