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老婆にこき使われて、ようやく家の片付けが一区切りした。
「だらしないのぅー」
「ほほほ、これで騎士ですって」
おいしそうな湯気を立てる鍋の前でぐったりとするグレンを、老婆とカミラがケラケラと笑う。
「ばばあとクマがムカつく…」
「もう!おばあちゃんも、カミラもそんなこと言わないの!」
ひとりアイリスがグレンを庇うが、性悪が二倍になって楽しんでいるのだ、止まるわけもない。アイリスは頬を膨らませるが、焼け石に水だ。
「まぁまぁ。グレンもお疲れさん。ご夫人が食事を作ってくれたよ、頂こう?」
セドリックが宥めるように口を挟むが、目の奥の笑いが堪えきれていない。
「どいつも、こいつも!」
グレンが差し出された椀に口を付ける。ほんわかとした優しい味がした。
「ばばあの飯がうまいとうまいで、なんか癪に障る!!」
「そこは素直に『美味しい』で、良いんじゃない?」
悔しそうなグレンにセドリックが堪えきれずに吹き出した。
「何がなんでも褒めたくねぇ…」
「ほほほ、なんて器の小さい男かしらねー?」
「まったくじゃのー」
カミラと老婆のダブルコンボに振り回されるグレンを気の毒に思いながらも、アイリスは老婆の様子を窺い見た。
(おばあちゃん、すごく楽しそう!)
久しぶりによく喋る老婆に、アイリスの心が温かくなる。
「やっぱり、カミラは神様のお使いなんだ!」
「違うわよ! わたくしは侯爵令嬢だったでしょうが!!」
「この娘が神の使いじゃ、あたしがもう、おっ死んじまうじゃろが!」
わいわいと騒がしい三人にセドリックがしみじみと頷いた。
「女性が三人揃うと姦しいというけど、あれ、本当なんだね…」
「ばばあとクマは女じゃねぇよ」
眉間に皺を寄せたグレンの暴言に老婆とカミラが顔を見合わせて、ふふんと揃って鼻をならした。
「ほほほ。ちっちゃい男が何か言っているわ」
「声まで、ちーっちゃいのぅ!」
手にしたスプーンをへし折りそうなグレンの肩に、セドリックがぽんと手を置いた。
「諦めろ。あれは勝てない…」
「こら!おばあちゃんも、カミラも意地悪しないの!!」
楽しそうなのは良いけど、それはそれだ。アイリスの可愛らしい怒鳴り声が響く。
それを聞いて老婆とカミラは、またころころと笑った。
「ダメだ、話にならねぇ…」
「もー。明日の話するからね!」
アイリスが強引に舵を切った。
セドリックが面白そうに目を細めながら見つめた。
「明日、どうするの?」
首をかしげるセドリックに目を向けたアイリスが、セドリックに向き直る。
「あのね、昔からの神殿があるから、一度そこの石像にお祈りしたいの」
アスコット村の祈りは王都からちゃんと届いていた。アスコット村からルウイ村も問題はないだろう。それでも自分の目で確かめてみたかった。
「ふーん。あとは?」
セドリックが優しく頷く。
「あとは、サイファ様は王都では使わないっておっしゃっていたけど、ルウイ村だけでもクゥ・ルーイをお供えしておこうと思うの」
「…へぇ?」
セドリックは思わず小さく声を出していた。
神殿がやらないと言ったことに、アイリスは従わないということだ。
大袈裟だが、神殿の言う通りにしか動けなかった少女だったことを思えば、大きな変化だ。
「やっぱり、好きな物も食べたいんじゃないかな?」
アイリスがふんわりと笑った。
「そうかもね?」
セドリックが柔らかく肯定すると、アイリスは嬉しそうに頷いた。
「それに。この時期っていつもクゥ・ルーイの事ばっかり考えちゃって、何か落ち着かないんだよね」
神事は大切な聖女達の行事だ。
毎年のことなら、身に染み付いてしまっているのだろう。
「この時期は夢まで見ちゃうくらいなんだもん。せめて、ここだけでも置いておかないと落ち着かないよ!」
「おまえは、本当に骨の髄まで神殿の下僕なのね」
屈託の無いアイリスの笑顔にカミラがやれやれと深くため息を吐いた。
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