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「クゥ・ルーイの実を使った神事って手間がかかるでしょ?」
アイリスが老婆の前にぺたりと座った。
「取った実を一週間かけて寝かせたりさ。そもそもルウイ村でしか取れないから運んでくるのも面倒だし…」
だから、別の入手しやすいもので代用しようと言うのだろう。カミラは王都の大司祭の顔を思い浮かべた。
実にサイファらしい効率重視の判断だと納得する。
「神の好物だから、クゥ・ルーイを供えるんだ!」
だが、老婆はぷりぷりと怒り狂う。
「別のモンを使うなんて、辛党のお偉いさんに甘味を差し出すようなもんだ。そんなことも分からんとは!」
「まぁ、おばあちゃん、落ち着いて」
アイリスがどうどうと肩を叩く。
すると老婆はアイリスを睨み付けた。
「おまえもおまえだ!こんな時でもなきゃ売れもしない村の特産なんだ、嘘でもなんでも押し売りゃ良いものを…!」
今度は宥めるアイリスにグチグチと文句を付ける。
まぁ、アイリスに押し売りは無理だろう。必要なものすら無駄なものとして逆に切り捨てられたくらいなのだ。
「おまえの言い分は分かるけど、少し落ち着きなさいよ。その、クゥ・ルーイとやらは他に使い道はないの?」
カミラが見かねて助け船を出す。
老婆がカミラを見下ろすと、再びにたりと笑った。思わず一歩下がってしまうカミラだったが、たぶんこれがこの老婆の笑顔なのだろう。
「食ってみるか?」
「いやよ!凄く不味いって聞いたわ!」
カミラが叫ぶと、老婆はつまらなそうに舌打ちした。
「なんじゃ、つまらん。…そっちの男前どもはどうだ、食ってみるか?」
今度はセドリックとグレンに狙いを定めた。
「や、いらね…」
「香りは良いようですが…ねぇ?」
二人は即座にお断りする。
老婆は心底つまらなそうにもう一度舌打ちした。
「なんつぅ、性悪…」
「なんじゃと、小僧!」
グレンが小さくこぼすと老婆がグレンの口に無理やりクゥ・ルーイの実を突っ込もうと襲いかかってきた。
「悪かった!悪かったから、止めろ!!」
力で負けることは絶対にないのに、勝てる気が全くしない老婆の迫力にグレンが必死で抵抗した。
「ふん。若造が…」
「もう! おばあちゃん!!」
アイリスが強めに声を上げると老婆が悪びれもせずに肩をすくめた。
「冗談じゃろが」
「もう!!」
アイリスに宥められて老婆は渋々座り直した。
「コレの実は食えたもんじゃない。せいぜい皮を加工してランタンにするくらいだね」
老婆の周りのランタンがそうなのだろう。
カミラは色々と覗き込んでアイリスを見上げた。
「ふーん?」
「いい匂いがするの。安眠効果もあるんだよ!」
ぬいぐるみのカミラが両手で抱えられるくらいの卵形の実だ。大型の鳥の卵くらいの大きさがある。
残念ながら匂いは分からないが。
カミラがセドリックを見上げる。
「どんな香りなの?」
「柑橘系をベースに甘い花の匂いが微かにするね、上品な感じ?。熱で広がるのかな?」
蝋燭が入っているものと、いないものを比べている。
「えー、何でセドに聞くの?」
「平民の雑な感性が信用できないからよ」
膨れてアイリスがカミラを抱き上げると、カミラはアイリスを見上げながらふふんと笑った。
「ひど!!」
アイリスがカミラに文句を言うのを見て老婆はおや、と目を瞬いた。
(あのアイリスが珍しい…)
その様子を見てグレンがほんの少し目元を緩めた。
アイリスも予想外の時によく瞬きをする。老婆とアイリスはそういう癖が似ていた。
「まぁ、いいわ」
カミラがアイリスの不満など気に留めるわけもなく、すとっと腕から抜け出すと老婆に向き合った。
「わたくし、これから実家に帰るのよ。この実をお土産にいただいても良いかしら?」
老婆はにたりと笑った。
「勿論、良いとも。生は銅二枚、ランタンは銅五枚だよ」
商魂たくましい老婆にカミラが笑った。
「つまらないこと言わないで。金一枚よ!」
「ええええ!!!」
「待て待て待て!!」
アイリスとグレンが慌てて止めた。
老婆はヒヒッと腹を抱えて、カミラを見つめた。
「世間知らずのお嬢ちゃんだね。田舎でそんな大金いらないよ」
楽しそうに笑う老婆は、どうやらカミラを気に入ったようだ。
カミラとセドリックは不思議そうに目を合わせた。
珍しくアイリスとグレンの二人が頭を抱えた。
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