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アイリスの言葉で気を取り直したカミラが、アイリスの隣に移動し、そのまま横を見上げた。


「それにしても、ちょうど国境沿いの村が、おまえの出身地だったなんて驚きね?」


「うん。死ぬまで戻れないって聞いてたから帰れるの嬉しいな」


ちょっと何かを聞くと、とんでもない規則が返ってくる。つくづく碌でもない話だ。

カミラがむっつりと黙り込む。そんなカミラに気がつかないまま、アイリスが村のことを話し始めた。


「ルウイ村はクゥ・ルーイっていう神様の実が取れるところなの」


「クゥ・ルーイ?」


聞きなれない植物の名前にカミラが首を傾げる。だが、アイリスの記憶から拾った情報を思い出して軽く頷いた。


「ああ。神殿の神事に使うお供え用の実ね?」


「そうそう。それね、滅茶苦茶まずいの!」


「なんで、そんなに嬉しそうなのよ…」


まずいものだという割にはアイリスの顔は明るい。

思い出を掘り起こすように懐かしい顔をした。


「その代わり、すごく良い匂いがするの。それでね、神殿のお供え以外の実は持ち帰ってランタンを作るんだよ。中に蝋燭を入れて部屋の明かりにするんだ」


「ふうん?」


「近所のおばあちゃんがすっごい上手で、綺麗なランタンを作るんだよ」


楽しい思い出なのか、弾む声が故郷への思いを表していた。

カミラが、ぽふっとアイリスに寄り掛かって頭を預ける。


「それは楽しみね」


「カミラも気に入ると思うよ!」


揺れる馬車の中でアイリスたちは村の話を続けていた。

馬車の外では御者台の二人の騎士がこの後の打ち合わせを進めている。


「アマンディアス皇国ってそんなに簡単に入れるのか?」


「軽い検問はあったと思う。向こうはうちの国なんて歯牙にもかけてないだろうけど、あっちは大国だからね。防犯はしっかりしているはずだよ」


アイリスは簡単にカミラの家に押し掛けるくらいのつもりで言っていたのだろうが、実際の事実だけを並べてみたら、行方不明の侯爵令嬢の情報を提供しますと言って入るようなものだ。


「控えめに見ても、相当怪しいからな」


「まあ…。そこは俺が何とかするよ」


セドリックが珍しく重たい息を吐いた。

飄々としていることが多い彼にしては珍しいことだ。相当気が重いのだろう。


「そんなに嫌なら他の方法を考えれば良いんじゃねぇの?」


「いや。これが一番無難で問題ない。…分ってるんだけど」


やりたくないというよりは、自分を納得させるのに手間取っているという感じなのだろう。

グレンは肩をすくめて、手綱を握りなおした。


「今まで、実家の権力に頼らずきたんだから、名前を使いたくねぇんだろ?」


「でも、騎士団の部隊長より侯爵家の人間の方が、話を聞いてもらえる可能性は格段に上がる」


セドリックがここまでアイリスたちに肩入れするとは思っていなかったので、グレンはセドリックのその葛藤を意外だと思っていた。


「アイリスって放っておいたら馬鹿正直に突っ込んでいって、どっかで捕まりそうで怖いんだよね…」


「そうか?クマ女いるから平気だろ」


グレンが一瞬だけ後ろを振り返ると、また真っ直ぐ視線を戻して鼻で笑った。

その様子を見たセドリックの方こそ、グレンの態度は意外だと息を吐いた。


「グレンはカミラ嬢の評価が高すぎると思う」


「はぁ?そんなことねぇだろ」


御者台の二人の間に沈黙が落ちた。

お互いの思考を邪魔しないようなそんな時間だった。

しばらくして、グレンが口を開く。


「まあ、どっちにしろ放っておいたらこっちがストレスだってことだろ」


「まあ、そうだね」


あたりも暗くなってきた。

そろそろ、このあたりで一泊になるだろう。


「まだ少し時間もあるし。どうしても嫌なら他の方法を考えればいいさ」


グレンは何でもないことのように軽くセドリックの肩を叩いた。

そのまま後ろの箱の中の二人に声をかける。


「今日はここまでだ。お疲れさん、休憩しようぜ」


声をかけられた二人の返事が響く。

グレンの何気ない気遣いに感謝しながら、気の軽くなったセドリックはようやく自分を納得させた。


セドリックは馬車の扉を開くと、いつものようにアイリスに手を差し出して馬車から降ろした。アイリスに抱きかかえられたクマと目が合う。


「使えるものは使ったらいいのよ」


御者台での会話が聞こえていたのか、カミラも何でもないことのように言った。

その言い方が、先ほどのグレンと全く同じなことに気が付いてセドリックは小さく笑う。


「本当に、そっくりだね?」


クマのぬいぐるみからムッとした気配がする。

よく分かっていないアイリスが、きょとんとしながらカミラを抱きしめた。


「どうしたの?」


「どうもしないわ!!」


アイリスの故郷、ルウイ村まであと少しだ。


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!


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