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目映い光と共に現れた夫と息子に、侯爵夫人セリーヌはおっとりと膝を折って出迎えた。
「お帰りなさい、あなた」
どんな時でも揺らぐことのない静かな目がエドワードを捉えた。
「カミラは…?」
エドワードの問いに夫人は静かに首を振る。エドワードは忌々しげにカミラの部屋へ足を向け、その後をレオニスが追った。
ばんっ!!
大きな音を立てて扉を開けると、艶やかな黒髪を持つ美しい少女を閉じ込めた氷の柱が、部屋の中心で光を反射していた。
「カミラ…」
氷の冷気で部屋の温度はかなり低い。
冷えた部屋のなかで侯爵は手を伸ばしそっと触れた。
「凍結魔法『氷中麗華』は問題ないわ。…でも、あの子の魂だけが見つからないままよ…」
「そうか。魔法で呪いの進行は食い止めているが…」
氷を見上げたエドワードが、魔力の流れを確認するように氷をなぞった。
「あの子の呪いが、解呪されるまでの仮初めの体も用意したというのに…」
「どこに行ってしまったんだ…カミラ」
夫人が部屋のテーブルの上に置かれた美しい人形を抱き上げる。その人形を、エドワードは眉を寄せて眺めた。
不安を抑え込むようにレオニスが強く拳を握り締めている。
「まぁ、あの子は生まれるときも元気良く暴れまくって逆さまに出てきたような子ですもの…」
夫人が人形を撫でながら、それでもおっとりと微笑んだ。
「魂だけを分離魔法で人形に移そうと思ったけど、勢いあまって飛んで行ってしまったのね」
「なんと、やんちゃな娘だ!!」
「お転婆が過ぎるよ、カミラ!!」
苦悩する侯爵家の面々は至ってまじめだ。
優秀な魔法使いである父と兄は呪いの解呪の方法を血眼になって探しているし、母は娘の魂の行方を懸命に探していた。
それなのに。
何故だか緊張感が共有できない状況である。その事を、皇城で息子の不始末に頭を悩ませる皇帝に知る術がないことは、ある意味幸せなことでもあった。
――――
「っ、くしゅん…!!」
そのカミラは、可愛らしいクマのぬいぐるみの姿でアイリスの腕の中にいる。
「ぬいぐるみなのに、無性にくしゃみをしたくなったわ!何故なの!?」
「誰かが噂してるんじゃない?」
娘は娘で緊張感のかけらもない旅を続けていた。
御者台で二人の騎士が苦笑している。
「でも、結局セドもグレンもカミラが魔法を使えることは知ってたんだね?」
「そうね。できればもう少し秘密にしたかったけどしょうがないわね」
昨日、宿で情報交換を行った際にセドリックから聞かされた話は、アイリスにとっては驚くことばかりだったのだが、カミラはそうでもないらしい。
「二人だけの秘密だったのに」
「あら、やだ。おまえ、そんなことが気になっていたの?」
少しだけ膨れたアイリスをカミラが見上げた。
どうやら本当に不満らしく、珍しくしかめっ面だ。
「だって!!」
「二人だけの秘密なんて、これからいくらでもできるわよ」
アイリスが目をぱちぱちと瞬かせた。
「…そうなの?」
「そうよ。それに、おまえはこれからどんどんワルになっていくのでしょう?この程度でオタオタしてどうするの」
カミラが悪戯っぽく言うと、アイリスが目を丸くした。
そして、すっかり機嫌の良くなった満面の笑顔で頷いた。
「そうだね!私ったらワルになるんだったよ!」
明るい大声が御者台まで聞こえて、セドリックが噴き出した。
グレンが手綱を引きながら遠い目をしている。
「ワルって昨日言ってたアレか…」
「アレだろうね…」
宿でカミラの正体について、こちらの情報を提示した。
情報だけで判断するなら、カミラは間違いなくアマンディアス皇国の貴族の娘だろう。
例え状況が恐ろしく受け入れがたい現象だったとしても。
アマンディアス皇国へ向かうことを決めたのはアイリスだった。
「意外だったな、アイリス」
グレンが昨日のことを思い出して呟いた。
セドリックは黙って頷くだけだった。
馬車の中では、カミラがアイリスの膝の上に乗り上げ、視線を合わさないように座るとジッと正面を向いたまま小さく声をかけた。
「本当に皇国の侯爵家に乗り込むつもりなの…?」
「だって、カミラのおうちでしょ?」
「信じてもらえるかなんて分からないわよ…記憶だってないんだし」
少しだけ俯くカミラを抱き上げて、アイリスはカミラを正面から真っ直ぐ見つめた。
そしてキラキラとした目で、太陽みたいに笑った。
「大丈夫だよ、カミラ。大体のことは気合とはったりだよ!」
カミラは抱き上げられたまま、アイリスをぽかんと見つめた。
「私、立派なワルになるんだよ。はったりは任せて!」
その良く通る大きな声は、勿論御者台の二人にも届いた。
「あはははは!!!」
セドリックの爆笑が馬車から大きく響きわたったのだった。
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