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第三章スタートです。
カミラの体を取り戻せ!編。
今日だけ少し雰囲気が違いますが、明日からはいつものコメディですよ。
大国アマンディアス皇国を統べる皇帝リカルド・フォン・アマンディアスの眉間に深く皺が寄った。
大きなデスクを挟んで正面に立つアシュトレイヤ侯爵の、臣下にあるまじき冷たい怒りを宿した赤い目が、リカルドを貫く。
「親愛なる陛下の、暗愚なご子息の落とし前をどのようにつけるおつもりか、お伺いしたいのですが?」
ことさら丁寧な言葉遣いが侯爵の怒りを強く示していた。
アシュトレイヤ侯爵家の当主エドワード。
古い友人でもある彼の、家族愛が重たすぎることはリカルドでなくとも周知のことだ。
「エド…」
「友としてお伺いしているのではありません、陛下」
きっぱりと線を引かれて、リカルドは重く息を吐いた。
「君の…侯爵の娘が、皇子との茶会で倒れたのは承知している」
リカルドの言葉に黙って耳を傾けるこの男が、全く引く気がないことを感じながらも、リカルドは続けざるを得なかった。
「無論、調査も行った。皇子はなにも知らされておらずマイヤード侯爵家の独断での犯行であった…」
アシュトレイヤ侯爵家と長く因縁を持つ名家が、政治的理由で皇子の婚約者であるアシュトレイヤ侯爵令嬢に呪いをかけた。
「陛下は、それを私に鵜呑みにしろと仰るので?」
「…事実だ」
じっとりと手のひらに汗が滲む。
リカルドの目の前のこの男は、たとえ皇帝であろうと噛み殺そうとする明確な殺意を辛うじて押さえ込んでいる。
それが分かるだけにリカルドも腹に力を入れて応じなくてはならなかった。どれほど見え透いていようとも、これを「事実」として押し切らねば確実に国が乱れる。
「…私が、この皇国に今すぐに牙を向かないのが、せめてもの忠義だとお考えください」
低く唸るエドワードにリカルドは重く頷いた。
「心得よう…」
エドワードは優れた政治家だ。リカルドの心中など簡単に見通しているはずだ。
「私は領地に戻ります。だが、娘がこのまま目を覚まさない時は…」
再びリカルドに冷たい刃物のような視線が突き刺さる。
「無事を…願っている」
カラカラに乾いた口からは掠れた声が漏れた。
エドワードは、慇懃に皇帝の執務室を後にした。
重苦しい緊張から解放されたリカルドの体から力が抜けていく。
リカルドは、デスクに肘をつき両手を組むと苦い顔で俯き、長い息を吐いた。
「バカ息子め、国を滅ぼす気か…」
こぼれ落ちた言葉は、執務室の重い空気の中に飲み込まれて消えた。
――エドワードは皇帝の執務室を退出すると、苛立ちを隠しもせず大股で歩いた。しばらくすると、廊下の柱に背中を預けた物憂げな青年が視界に入る。
「父上、いかがでしたか?」
「レオニス…。皇帝は、皇子は無関係で通すつもりのようだ」
「バカな!皇子殿下が何も知らないはずがないではないですか!」
激昂する息子に侯爵が冷徹な目を向ける。
「…まずは解呪が先だ。領地に戻る許可を得た。戻るぞ」
「くっ…承知しました。準備はできています」
納得はできないが、一刻を争うのも確かだ。レオニスは父を城に併設されている研究棟へ案内した。
「…っ!! レオニス様、転移魔法の発動は皇帝陛下の許可が必要です!」
部屋の中央に置かれた魔鉱石が薄く発光していることに気がついた研究員が声を上げた。
「陛下の許可など知ったことか!」
冷静な彼とは思えない、苛立った声に研究員が怯む。
「帰還の許可は得ている。緊急時だ、使わせてもらう」
「…アシュトレイヤ侯爵」
レオニスの隣から口を挟んだエドワードに研究員は頼りなく視線を泳がせた。だが、アマンディアス皇国において、最も力をもつ貴族にこれ以上言葉を重ねることはできなかった。
「き、緊急事態とのこと、承知いたしました」
か細い声で頭を下げる。
エドワードとレオニスは発光した魔鉱石に手をかざし、自らの魔力を注ぎ込んだ。
カッ!!!!
部屋を白く塗り潰す閃光に研究員が思わず目をつぶる。
そして、恐る恐る目を開くと、そこに二人の姿はなかった。
「まさかこの目で魔法が見れるとは…」
――皇国で唯一魔法が使える一族。
それがアシュトレイヤ侯爵家だった。
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