表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
41/87

41 メンズナイト

話は少し遡る。


アスコット村の酒場での騒動のあと、アイリス達を部屋に送り届けたセドリックは、そのまま宿のバーに足を運んだ。

カウンターの奥でグレンが琥珀色の酒をグラスの中で揺らしている。店に入ってきたセドリックに気付くと、軽く右手を上げた。


「お疲れさん。どうだった?」


「まぁ、寝たんじゃないかな…」


どこか疲れた様子のセドリックに、喉の奥で笑ってグレンがメニューを渡した。

さっと目を通してカウンターの中の男に注文をする。


「本部に出した報告書の返事が来てる…」


セドリックが低い声で、明日の天気の話をするようにグラスを傾けた。

カウンターバーの向こうから差し出された酒を受け取り、セドリックもグラスに口をつける。


「……それで?」


「今のところはそれだけだ。アイリスの方はある意味、神殿が身元を保証しているようなもんだから問題ねぇ。カミラの方は…」


グレンが珍しく言い淀んだ。

セドリックが黙って、その先を待つ。


「お前がアイリスとカフェに行ったことがあるだろう?」


「ああ。パフェの時の?」


「あん時、俺がお前に報告したこと、覚えているか?」


セドリックが静かにグラスを回す。

カランと氷のぶつかる音が小さく響いた。

少し間をおいて、思い出したように頷いた。


「『社交界の至高の薔薇』だっけ…?」


御大層な二つ名だと思って笑ったが、念のためとオルガへの報告事項にさらっと載せておいた件だろう。


「いたんだよ…」


「……え?いたんだ」


セドリックの間の抜けた返事にグレンが微妙な顔をする。

グラスの中の液体を揺らしながら、セドリックは記憶をなぞるように宙を見つめた。社交界の、ということは貴族だろう。だがそんな令嬢に心当たりはない。そう…国内には。


「どこの国?」


「……アマンディアス皇国」


短い返事にセドリックの目がわずかに見開かれた。

いくつかの可能性の中でも全く想像していない国だった。


「あんな大国が何のために…?」


「目的があるのかどうかは分かんねぇよ。その女、病気療養中で完全に領地に引きこもってるらしいから」


得られ情報も詳細はここまでで、それ以上のことは調査中とのことだった。だがオルガが自ら調査したのならその療養中の女のことで間違いないだろう。


「あんだけ、お人好しで短絡的で高飛車な女がスパイなんて高等なことができるとは思えねぇが…」


「ふふ、グレンはずいぶんカミラ嬢の肩を持つね?」


「そんなんじゃねぇ…」


とはいえセドリックも、本質的な部分はグレンと同意見だ。

だからこそ、「何のためか」が分からず眉を寄せることになる。

セドリックの判断が「問題なし」でも上がそう判断するとは限らない。


「引き続き、様子見だね…」


「まぁ、それしかねぇだろうけど…」


「一応、オルガ様が懸念していた聖女の悪魔付きっていうのだけは否定しておくか。どっちも現実的じゃないけど、スパイ説の方がまだ信憑性があるし」


グラスの最後の液体を一気に飲み干した。グレンもそれに続くと空になったグラスを置き、手早く支払を済ませる。

そして再び村の男たちが騒いでいたあの酒場へ向かう。


「なぁ、オルガ様はどうすると思う…?」


グレンがまっすぐ前を向いたままセドリックに話しかけた。

セドリックは少しだけ首を捻る。だが、すぐに両手を広げてその首を振った。


「どうだろね。あの人の常識の中では悪魔もスパイも非常識の範疇だ。まだ用心深く観察を続けるんじゃない?」


グレンの顔は見えないが、少し張り詰めた空気が伝わった。

セドリックがその肩を叩く。


「悪魔はないけど、スパイはもっとない。多分ただの迷子だよ」


「非常識な迷子だな…」


グレンが呆れたようにかすれた声で笑った。

少なくともセドリックはカミラが何者かを見極めることを優先している。

根拠もなしに排除することはないだろう。


「めずらしいね。そんなに気に入ってるの?」


「気に入ってるわけじゃねぇ…」


グレンは面白くなさそうな顔で低く唸った。セドリックはグレンのよく知る面白がるような目をして、唇の端を引き上げた。


「まあ、そういう事でもいいけど」


アスコット村へ向かう途中の泉で、手の平の上で小さな炎を灯したカミラが視界に入りグレンが目を見張った。

だが、敢えて見ていたことに気づかれないように声をかけた。


あの時は、まだ真相に触れてはいけない気がした。


―――王都にて


騎士たちからの報告を受けたオルガは、その内容を見つめながら頭を悩ませた。


『社交界の至高の薔薇』と呼ばれる『カミラ』と名乗る女性が聖女アイリスの体を乗っ取っている。


事実を端的に並べてみても、意味が分からない。

非常に扱いに困る情報であった。


「とりあえず、神殿の不始末には違いない。サイファにも責任を取ってもらわんとな」


そのサイファは、最近神殿に納められた古い伝書の精査に追われて自室に閉じこもりっぱなしのようだ。仕方なくオルガは渋々と神殿に向かうのだった。



第二章はここまでです。第三章はカミラの実家へ突撃です。ちんたらしていた恋愛パートも仕事を始めますよ!


いつも読んでくださり、本当にありがとうございます!


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ