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「お邪魔します~」
セドリックが部屋の扉を開ける。
アイリスはカミラを抱きしめたまま、ちょこっと頭をさげて部屋に入った。
旅の荷物をセドリックとグレンの部屋に集めて置いているので雑然としているのかと思ったが、部屋の隅に整然と積み上げられている。
「朝も思ったけど、きちんとしてるよね?」
「騎士だからね。こういうことは叩き込まれるんだよ?散らかってたら動きにくいでしょ?」
セドリックがアイリスに椅子をすすめる。
「そうなんだ。なんか騎士団は男所帯って感じだからもっと雑然としてるイメージだったよ」
「安心しろ。そういうやつらの方が多い。こいつ几帳面すぎるんだよ」
グレンが面倒くさそうに息を吐いた。
「え、みんな叩き込まれるんじゃないの?」
「第三部隊の一部、こいつの直下だけ叩き込まれてる」
それは大分意味が変わってくるのでは…。
アイリスが思わず噴き出した。
「じゃあ、セドがちゃんとしてるってだけなんだね」
「自分でやらねぇのに口喧しいんだよ」
グレンにあっさり暴露されてセドリックは悪戯っぽく笑う。
全く悪びれていないところに二人の関係性が見えてアイリスは羨ましそうに目を細めた。
「仲良しだね!」
能天気なアイリスの態度にカミラが呆れる。
「お前は『可哀想』と『仲良し』しかないの?」
「酷い!そんなことないよ」
膝の上のカミラにぷくっと膨れて見せるアイリスに、今度はセドリックが吹き出す。
「アイリスとカミラ嬢も仲良しだと思うよ?」
アイリスは目を瞬かせると、カミラを高く持ち上げて声を弾ませた。
「本当!?嬉しい!!」
「分かったから、降ろしなさい!振り回さないの!!」
きゃあきゃあとはしゃぐアイリスを怒鳴りつけて、カミラは膝の上に戻る。
そして顎を上げてセドリックを見上げる。
それは話を進めろという指示のようでもあった。
「カミラ嬢はやっぱり命令し慣れていると思うんだよね」
セドリックはベッドの端に腰を下ろす。グレンも自分のベッドの端に腰を下ろし、四人は向かい合うような形でそれぞれの場所に落ち着いた。
「わたくしが『何者か』という話かしら?」
自分が何者かも分からないのに、カミラはずいぶんと落ち着いている。
その点だけ見ても精神力が普通ではない。
セドリックはカミラについてそう認識していた。
「そうだね。…確認だけど、カミラ嬢は俺達に話していないことがあるよね?」
セドリックの探るような視線にカミラは当然だと頷いた。
「お前たちがわたくしにすべてを話しているわけでもないのに、なぜわたくしがお前達にすべてを話さなくてはいけないのかしら?」
挑発するような口調にアイリスが戸惑った。
アイリスの感覚では、セドリックやグレンとはかなり仲良くなったと思っている。
だが、カミラの態度は全くそんなことを感じさせるものではなかった。
「やらせておけ。貴族が腹を割るための儀式みてえなもんだと思え」
アイリスの不安を感じ取ったのか、グレンが小さくアイリスに声をかけた。
グレンの声が聞こえなかったわけでもないだろうが、セドリックとカミラはそのまま話を続ける。
「アイリスの力は我が国の最重要軍事機密だ。不確定要素を放置できないよ」
「だからといってこそこそ嗅ぎまわられるのは不愉快だわ」
お互いの間に沈黙が落ちる。
「無礼を詫びよう。その上で、情報共有をしてほしい」
「……仕方ないわね。何か掴んだのならそれと引き換えに話してもいいわ」
カミラがゆっくりと頷いた。
頼まれて話をするという状況が作れれば問題ない。間違ってもカミラからお願いして騎士達に協力を願うという状況だけは避けたかった。
なぜか分からない。とにかく自分が下手に回ることだけは許されないと、強迫観念にも近い思いがカミラを支配していた。
(思考回路が支配階級の貴族のありかたなんだよな…)
セドリックは度々感じたカミラの態度を改めて振り返っていた。
「グレンから聞いたよ。『社交界の至高の薔薇』と呼ばれる女性、そう滅多にいるものじゃないよね」
アイリスがグレンを見る。
グレンは黙って首を振った。
「貴族の社交界ってそういう人たちって沢山いそうだけど…」
アイリスの貧困な想像力では、貴族はやたらキラキラした二つ名を持っているイメージだ。
「氷の宰相」とか「白百合の騎士」とか。
「そんな御大層な呼ばれ方する人なんて、実際はなかなかいないよ」
セドリックが苦笑する。
「え、じゃあ、セドにはないの?『白百合の騎士』とか…」
「ないよ…。ない、と思うけど…なんかごめんね?」
ないのか…。
心なしかアイリスがしょんぼりとしているので、セドリックは自分のせいでもないのに申し訳ない気持ちになる。
「どうでもいいのよ、そんな話は!先を進めなさい!!」
がっつりと話の腰を折られてカミラが癇癪を起こす。
はっとセドリックが気を取り直して、あらためてカミラに向き直る。
「とにかく、その珍しい二つ名の持ち主がアマンディアス皇国の侯爵家にいたんだ」
「アマンディアス皇国?」
「この国と隣り合わせになってる大国だよ!」
アイリスが叫んだ。
「そのアマンディアス皇国の侯爵家令嬢、カミラ・フォン・アシュトレイヤ嬢は今、病に臥せって領地で療養中らしい…」
「病に臥せって…?」
カミラが声を落とした。
人前に出られない状況になった令嬢ということだ。
「名前も一致しているし…」
皇国のアシュトレイヤ侯爵家はかの国で唯一魔法を使える家系の一族だ。
セドリックからそう聞かされてカミラは自分の手を見つめた。
「…君、魔法が使えるよね?」
セドリックの静かな声は問いかけではなく、事実の確認だった。
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