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鐘楼が昼の時間を告げた。
セドリックとグレンが鐘を見上げる。
かつて見張りの塔だったという鐘楼が、平和になった今、どことなく風情を出している。
「爺さん、ありがとよ」
「…ふん」
グレンが肩を叩くとザックは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
苦笑しながら一礼して神殿に戻る。
そのころ、神殿の資料室で鐘の音を聞いたアイリスが窓から顔を出して鐘楼を見つけた。
髪の色は明るいブラウンだ。
「見て、カミラ!あの鐘楼、時間を知らせる鐘なんだね!」
「呑気な子ね。まあ、あの司祭が来る前に戻れてよかったわ」
カミラがほっと息を吐いたその時、扉がノックされてノアが入ってきた。まさに、ぎりぎりセーフだ。
「鐘楼…ですか?そうですね。今も現役なんですよ?」
自分に話しかけられたと勘違いしたノアが優しく教えてくれた。
アイリスはおたおたとクマのぬいぐるみを抱き上げた。
「す、すいません。図々しい口を利いてしまって…!」
「構いませんよ。ところでお連れの騎士達が戻っていらっしゃいましたよ?」
二人はノアの案内でセドリックとグレンの待つ応接室へ急いで向かった。
「二人ともお待たせ!」
「やあ、何か見つかった?」
セドリックがにこやかにアイリスを迎えた。
グレンは腕の中のカミラに目を向けたが、知らん顔でぬいぐるみを気取っているので一度アイリスに目を戻す。
「昼飯、食いに行くか…」
「よろしければ神殿の食堂もありますよ?」
アイリスはまた目を瞬いて首を傾げた。
「神殿の食べ物は限りがあるから、私達が頂いてしまったら皆さんの分が無くなりますよね?」
「…いえ?近隣にも開放しておりますので大丈夫ですよ?」
「地方神殿すごい!」
アイリスの言葉に、カミラはここ数日でかなり吐き出したため息を、また吐き出した。
セドリックはアイリスを見つめると、にっこりと笑って頷いた。
「せっかくだから神殿の食堂も行ってみる?」
「うん!」
アイリスの腕からさりげなくカミラを抜き取ったグレンが小声でささやく。
「おまえ、露骨に態度に出てたぞ。ぬいぐるみが動くなよ…」
「うるさいわね、ため息もつきたくなるってものよ」
アイリスの何気ない言葉で、王都の神殿の粗末な食事が頭をよぎった。細切れにした野菜や肉の味気ないスープと固いパン。アイリスの記憶を見た限りそれがほぼ毎日続いていたのだ。
最低限の生活で閉じ込められた聖女達。そんな今代の聖女達の扱いにカミラは下を向いた。
大司祭サイファは貴族だ。その方針がどこから来るものなのかも想像がつき嫌気が差した。
(平民だから贅沢をさせる必要はない…貴族としては普通だわ)
衣食住の保障で十分と判断したのだろう。確かに先ほどの資料の通りなら、大聖女に掛かる費用は莫大だ。その予算を他に回すのは合理的な気もする。
それでも国の根幹的な防御の要に違いはないだろうに、その働きへの敬意が足りない気がする。
「嫌になるわね…」
「後で聞く…」
カミラの小さな呟きにグレンが短く応え、アイリスにぬいぐるみを手渡した。
「リボンが曲がってた」
「グレン、そんなことまで気になるのね!お気に入り?」
「そんなわけあるか!」
のんびりとしたアイリスにグレンは差し出したクマを押し付けた。
「グレン?」
セドリックの目を見たグレンは軽く首を振った。ここでする話でもなさそうだ。
「メシ、食いにいこうぜ。腹が減った」
セドリックは察したように頷いた。
「そうだね。すいません、ありがたく神殿の食堂を使わせていただきますね」
「そうしてください。味にも自信があるんですよ?」
笑顔で案内するノアに続いた。
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