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一方、アイリスたちと別れたセドリックとグレンは昨晩、酒場で聞いたザック爺さんに話を聞こうと、村の鐘楼の下に足を運んだ。

九十歳を超えた老人で、午前中は散歩のあと、この鐘楼の下で休憩しているらしいのだ。


「あれじゃねぇ?」


ベンチに腰を下ろした老人を見つけて、グレンがセドリックに耳打ちした。

聞いていた特徴とも一致するようだし、間違いないだろう。


「おはようございます、良い朝ですね?」


セドリックが人当たりの良い笑顔でザックに近づいた。

その一歩あとにグレンが続く。


「…ふん、神殿に来た色男達か」


気難しそうな顔でザックはそっぽを向いた。

話に聞いた通りの頑固な様子に苦笑しながらセドリックは隣に腰を下ろす。


「大聖女のミーナ様についてお話を聞きたかったんですよ」


「なんじゃ、おまえら。ミーナさんの話を聞いてどうする」


村の若い連中は、ザックの話の面白いところだけ聞いてミーナを男好きの聖女だと笑う。ザックが言いたいのはそんなことではないのに。

どうせこいつらも同じだろうと、ザックは渋い顔で遠くを見つめたままだ。


「大変お綺麗な方だったと伺って、是非詳しくお聞きしたいと思ったんですよ」


「ふん。お綺麗だったとも。おまえらみたいな色男が大好きでな!」


吐き捨てるように言うザックにセドリックは困ったようにグレンを見上げた。

セドリックの肩に手を置いてグレンが代わる。


「そう、カッカすんなよ、爺さん。俺達はあんたのマドンナがどんだけ美人さんだったか聞きてぇだけだよ。王都の別嬪さんなんかよりずっと綺麗だったっていうじゃねぇか」


少し背を丸めてザックを覗き込む。

ザックの口元がむずむずと動いている。


「どうせ、ミーナさんの悪口を言いたいんじゃろう?」


「そんなわけねぇじゃん。どんな女だったんだ?キレイ系?可愛い系?」


被せるようにグレンがザックに詰め寄った。

セドリックは、グレンの相手の懐に入り込む素早さに内心で舌を巻き、その様子を見守った。

多分、田舎の年寄りはグレンの得意分野だ。


「バカ者が。ミーナさんは両方だよ。美人だと思ったら可愛い一面があってな。お菓子作りなんかもうまくて、村の男はみんなミーナさんに夢中じゃったよ」


「へえ?あんたその中の一人か?それとも付き合ってたの?」


「わしはそん時ゃ、まだ十二歳くらいだったからな。あと十年、いや五年早く生まれてれば、都会の色男なんかに負けなかったのに…」


悔しそうだがどこか懐かしむような声でザックが語った。


「マジか、ガキじゃん」


「ガキも年寄りもみんな夢中じゃったよ」


「モテモテだったんだ」


本気で悔しがっているザックに相槌を打ちながらグレンがセドリックと目を合わせる。

アイリスとは大分タイプの違う聖女だ。


「でも急に聖女なんかになっちまったんだろ?大聖女ってどうやって決まるんだ?」


「ああ、ありゃぁ驚きの光景じゃったな。ミーナさん()もミーナさん()の周りもぱぁぁぁって光っての」


「その辺一帯が光ったんだ?」


聖女がどうやって誕生するのかは初耳だった。

セドリックもグレンも目を丸くする。


「おうよ。そんであの辺の女たちみんなに不思議な力が生まれたってんで、神殿から人が来てなぁ」


「すげぇな、すぐ来たのか?」


「何でも先代さんがこの村に出現するって預言したんじゃとよ。そんでそいつらが一番美人だったミーナさんに聞いたんじゃよ」


ザックはもう随分と誰にも話していない昔の話を思い出して目を細めた。

記憶の中の初恋の人は今でも美しいままだ。


「…ん?美人だから聞いたのか?」


「美人だから聞いたんじゃろ」


グレンが僅かに引っかかりを覚えて、ザックに問いただすとザックは当たり前だという顔をして頷いた。


「神の声を聞いたかと、その騎士が聞きよってな…」


おかしい。聖女のうち最も聖力の高いものが大聖女なのではないのか。

たまたま来た騎士が見た目で選ぶのか?


「ミーナさんはその騎士がタイプだったんじゃろうな。めちゃくちゃはっきりと『はい』って答えてたよ」


続くザックの言葉にますます信憑性が薄くなっていく。

セドリックはこれは参考程度にしておこうと、心に決めた。


「ミーナさんはもともと色男がタイプの女じゃったが、田舎者と王都の騎士様じゃなぁ…」


肩を落とすザックの背中を叩いて、グレンが慰める。


「気を落とすなよ、爺さん。ミーナさんってのはその騎士と出て行っちまったんだな」


「ああ。そのあとも王都でいろんな色男と浮名を流していたらしいがな」


浮名を流す聖女…。少なくとも王都でそんな噂を聞いたことはない。

王都で聖女と言えば「清廉潔白」が共通認識だ。

神殿のイメージ戦略なのだろうか。


聖女に関する情報操作の片鱗は、アイリスやカミラが資料室で見つけた事実とも矛盾しないのだが、セドリックとグレンが知る由もない。


「爺さんはなんでそんなことまで知ってんだよ」


「ミーナさんと一緒に都会に連れていかれた聖女のうちの何人かは王都の水が合わなくてミーナさんが亡くなったときに村に帰ってきたんだよ」


(大聖女の崩御とともにそれを補助する聖女たちの力も失われるのか)


セドリックは次々と出てくる事実に内心複雑ではあったが、全て信じてよいかどうかの判断はいったん保留にした。神殿でアイリスとカミラも何か調べているはずだ。


一度情報共有した方が効率がよさそうだ。


(……思ったよりはっきりしないな、神殿の構造)



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