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「分からない?」
アイリスが首をかしげた。
カミラは肘をついてアイリスにも見えるように本を横に回した。
「いいこと?大聖女の前提は『神の声』が聞こえることなのでしょう?」
「うん。そうだね?」
「でも、おかしいのよ」
カミラがページを捲る。
「この本によると、神の声で指示を受けてるのは初代の大聖女だけなの」
「え、他の大聖女様達も聞いてるはずだよ?」
アイリスが目をぱちぱちと瞬いた。
大聖女が神の声を聞くから、次代の聖女の出現が分かるのだ。
「そこなのよ。自分の代が終わるときに、次の大聖女の誕生の場所だけは神から聞いているけど、それ以外ははっきりしないのよ」
「…どういうこと?神様の声は聞いてるよね?」
カミラに言われて本を覗き込む。確かに初代大聖女と他の大聖女達では神託の数が大きく違っているが、一応全員が神の声は聞いている。
「次の大聖女生まれる場所以外の具体的な神託を受けてる人がいないの。なんならその一回しか神託がない人もいるくらいよ?」
アイリスが読んでみると、確かにそうなっている人もいる。
「ああ!本当だ!!あれ、でも大聖女様達はみんな『聞こえました』って仰っていたらしいよ?」
「そうね。だけど言うだけなら誰でもできるわ。力に目覚めた少女達のうち、もっとも力のあるものが自己申告で『私は神の声を聞いた』って言っても確認のしようが無いのよ」
「えぇー?そんな嘘つくかなぁ」
不思議そうなアイリスにカミラが息を吐く。
「...吐くわ。おまえは知らなかったみたいだけど、大聖女に保障された生活ってかなり贅沢よ?」
「ええ!?」
カミラが細い指で一つ一つ大聖女達の名前をなぞる。
「これとこれはもともと大貴族の娘たちだから、保障とは関係なく贅沢ね。この辺りが騎士の中から護衛を選ぶ決まりを作ったのね」
「へぇー」
パラリとページを捲る。続く人名もゆっくりと確認していく。
「この辺りは平民だけど、一人はめちゃくちゃ美食家だし、一人は宝石マニアになってるわ」
「なんか、すごいねぇ」
そして、カミラの指がアスコット村の大聖女、ミーナの項目で止まった。
「この村の娘は王都で色男を侍らせた挙げ句、その中でもっとも身分の高い貴族と結婚してるわ…」
「すごい人生!!!」
すごい人生と言うよりは、すごい人選だ。カミラが額を押さえた。
聖女と言うから、みんなアイリスみたいにくそ真面目なお人好しなのかと思ったら、むしろアイリスが珍しいタイプだったのだ。
「おまえ、大聖女かどうか聞かれたことがあると言ったわね…?」
「うん」
おそらく、ほとんどの大聖女がそこで「はい」と応じるのだ。神の声を聞きました、と。そして、そこでバカ正直に「いいえ」と返事をしたから今代の大聖女は不在なのだろう。
カミラは自分の立てた仮説のしょうもなさに、頭を抱えた。神殿は一応この歴代大聖女については学んでいるはずではないだろうか。
(いいえ、あのサイファとか言う大司祭…これっぽっちも神を信じてないようだったわ)
王都の大司祭を思い浮かべる。
大聖女などでなくても、結界を維持できるなら問題ない。むしろ大聖女でないなら金を使う必要もない。おまけに「清廉潔白」なイメージを拡散する手間も必要ない。
(そもそも神も信じていないなら、大聖女という存在そのものも信じてないわよね。結界魔法の強化ができる特殊能力とでも思ってるんだわ)
「カミラ、大丈夫? 頭が痛いの?」
ぽふっとカミラの頭に手を当ててアイリスが覗き込んできた。
「…そうね。神殿がおまえを大聖女として扱わないなら、おまえも自由になるべきだわ」
「……カミラ?」
わざわざ籠の中に閉じ込めるために、神殿に真実を教えてやる必要もないような気がした。
「おまえが望むなら、もっと自由になれるわ。おまえが選ぶべきなのよ」
カミラの言葉にアイリスは不思議そうに首を傾けた。




