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「祈りの間も俺達は同行しなくても大丈夫かな?」
ノアの人柄と周辺を警備する修練生たちの動きから、危険はないと判断したセドリックがアイリスに確認した。グレンの方も特に問題を感じていないようなので自分の観察眼とグレンの直感を信じる。
「うん。祈りが届いているかとか、綻びがないかとかの確認だから大丈夫」
「分かった。では、よろしくお願いいたします」
ノアに頭を下げると、セドリックとグレンは神殿を後にした。
残されたアイリスはノアに向き直るとぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそ。どうぞこちらです」
ノアは神殿の奥へ進み、やがて祭壇の置かれた小さな部屋の前で止まった。
アイリスが覗き込むと、祭壇には小さな石像が置かれていた。本部の神殿と同じような形だ。
「こちらが支部の石像なんですね…近くに行ってもいいですか?」
「勿論です」
足を踏み入れると、アイリスがよく馴染んだ柔らかな光を感じる。
アイリスが石像の前に立つ。すると部屋がふわりと仄かな光に包まれ、ノアが目を細めた。
「聖女様の力をこの目で拝見できるとは思いませんでした」
「ふふ。大聖女様がお見えになったらもっとすごいんじゃないかしら?」
ノアの目が少しだけ見開かれたのを、振り返るアイリスに抱かれたカミラは見逃さなかった。
やはり神殿関係者でも違和感のあるセリフなのだろうか。
ノアの一瞬の変化はすぐに穏やかな色にかき消され、その真意を知ることは難しそうだ。
「特に問題はなさそう…。ターニャ達の祈りはちゃんと届いているわ」
アイリスは一人満足そうに頷く。
最後に石像にもう一度祈りをささげるとノアを振り返った。
「祈りは問題なく届いているし、綻びも全くないです!」
「それは何よりです。あとは…資料室でしたね、ご希望は」
嬉しそうに報告したアイリスにノアが頼まれていた場所の確認をする。
アイリスは元気よく頷いた。
「はい!」
「資料室といっても、特別なものはあまりないと思いますよ?」
関係者以外立ち入り禁止などと、決まり文句のため騎士二人には遠慮してもらったがと、ノアは少し申し訳なさそうにアイリスを連れて資料室に向かった。
小さな部屋の壁に本棚があり、確かに本部と比べるとかなり規模は劣っているように見えた。
腕に抱いたカミラにも見えるように本棚の前に立ち、アイリスが背表紙を確認する。
「何冊か、興味深いものがあるわね…。わたくしも読めるようにあの司祭を追い払いなさい」
司祭に聞こえないようにカミラがアイリスに指示を出した。
アイリスは戸惑いながら、ノアを振り返る。
「あ、あの…ここの資料を少しちゃんと読みたいので一人にしてもらっても良いですか?」
「ええ、構いませんよ?何か気になるものがありましたか?」
「え、ええ、まぁ?あはは…」
アイリスには全くないので目が泳ぐ。ノアは一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに穏やかに頷いた。
「では、私は執務室の方に戻りますのでごゆっくりなさってください」
「あ、ありがとうございます」
「お昼ごろにまた戻りますが、そのくらいでよろしいですか?」
ノアの気遣いに感謝しつつ、アイリスは頷いた。それを確認してノアが資料室を後にする。
残されたのはアイリスとカミラだけだった。
「カミラは何が気になったの…?」
「そうね。とりあえずそっちの歴代聖女をまとめた本と、この村の大聖女ミーナとその周辺聖女の本は目を通したいわね」
「この二冊でいいのかな?」
アイリスが本棚の前のテーブルに本を置き、カミラが読みやすいようにカミラもテーブルの上にそっとおろした。
にこにこと見守るアイリスに、カミラが一喝する。
「ぬいぐるみのままじゃ効率悪いでしょうが!おまえの体をお寄越し!」
アイリスに座るようにと椅子を差し示し、カッと怒鳴りつけた。
かくんっとアイリスの力が抜け、すうぅっと髪の色が変わっていく。
そしてすっと背筋を正す。本に手を伸ばしたその少女の瞳は、真っ赤なルビー色だった。
机の上のミルクティー色のクマが「ひゃぁぁ」と声を上げるのを無視して、カミラが恐ろしいスピードで本を捲り始めた。
「前も思ったけど、カミラって読むの早いよね」
「資料の速読なんて基本の『基』よ」
顔も上げずにカミラが答えた。
どこの世界の基本だろうか…。アイリスは感心したように「へぇ」と頷いた。
しばらくページを捲る音だけが響いていたが、やがてその音も止まる。
「なるほど…。大聖女というのはよく分からないものなのね」
静かにカミラが呟いた。




