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「だめだ…気持ち悪い…」
セドリックの珍しい様子にグレンが意地悪そうに唇の端を持ち上げた。
「自業自得だ、バーカ」
部下の生意気な態度に言い返す気力もない。
あの後、ご機嫌なアイリスを宿に送り届け、再び飲み屋に戻った。
可哀想なリックを慰めながら、村の男たちと交流を深めたのだ。…朝まで。
「飲みすぎだろ、明らかに」
滅多なことでは羽目を外さない男の、珍しい醜態にグレンは機嫌良く鼻を鳴らした。
「うるさい、分かってるよ…」
うなだれるセドリックをグレンが鼻で笑っていると、部屋の扉が軽やかにノックされた。
「おはよう、二人とも!」
アイリスの元気の良い朝の挨拶に、セドリックが頭を押さえて突っ伏した。
「セド!どうしたの、大丈夫!?」
「うん、大丈夫…大丈夫だから耳元で大声出さないで…」
「カミラ!どうしよう、セドが具合い悪そう!!」
更なる大声に、セドリックが完全にベッドに沈んだ。
「…あれは何なのかしら?まさかとは思うけど騎士なの?」
「言うな…いつもじゃねぇ…」
呆れたような声に、自分がバカにするのは良いが人に言われるとムカつくのは何故だろうと、グレンが苦い顔をする。
「どうせ二日酔いよ、情けない。放っておきなさい…って、何をしてるの!?」
セドリックは置いていこうと判断し、カミラがアイリスを振り返ると、アイリスがそのセドリックに手をかざしていた。
ぽぅ……
アイリスの手の平から白い光が零れ、セドリックを包み込んだ。
「大丈夫?」
アイリスがセドリックを覗き込むと、セドリックがポカンとアイリスを見つめた。
(ふふ、子どもみたいな顔してる…)
珍しい表情にアイリスも思わず見つめ返してしまう。少しだけ間が空いた。だがすぐに、セドリックがばっとアイリスを抱き締める。
「気持ち悪くない!すごいよ!!」
「きゃぁっ!」
急なことでアイリスが思わず声を上げる。間髪を入れず、大して痛くもないカミラのパンチと息が詰まるようなグレンの拳がセドリックの腹に入った。
「痴漢よ、この男!」
「何やってんだ、おまえ!!」
再びベッドに沈んだセドリックにアイリスは改めて治癒魔法をかける羽目になった。
「ごめんね、あんまり楽になったからつい」
「つい、じゃないわよ。騎士としての精神はどうしたのよ!」
「ら、楽になったんなら良かったよ」
アイリスがカミラを宥めながら腕に抱きしめる。カミラはまだ言い足りないのかバタバタしていた。それを一生懸命押さえながらグレンに助けを求める。
「そ、それより、そろそろ時間じゃない?」
話を逸らすようにアイリスが時間を確認する。
「あ?ああ、そうだな。先に降りててくれ、すぐ行く」
アイリスの言葉に乗っかったグレンが即座に外へ促す。アイリスはカミラを抱えて軽やかに階段を降りていった。
「あいつ、二日酔いもなしか…」
「酒豪かぁ…」
「おまえは、今後は控えろよ?」
手厳しいグレンの言葉にセドリックが苦笑する。さすがに少しは反省しているようだ。
「でも、酒場で聞いた先々代の聖女の話はなかなか興味深かったよ?」
「…まぁ、な。そのナントカっていう爺さんの話も聞きてぇな」
「聞いた話じゃ、朝は村の鐘楼の下によく居るらしいしね。後で行ってみよう」
酒が抜けて軽くなった頭を振り、セドリックが急いで身なりを整える。そしてグレンと共に階下で待つアイリス達と合流するべく部屋を出た。
アイリスは二人を待つ間、ドキドキしながらカミラに囁いた。
「私、初めて私利私欲で聖力を使っちゃったよ!」
「…そう。ささやかすぎるわね」
カミラは微妙なテンションで返事をする。私利私欲が小さすぎる…。
(それでも、自分でやりたくてやったことというなら、成長なのかしら…)
規模の小ささに全く共感できなかったカミラだが、とりあえずは褒めておくことにした。
「やればできるじゃない」
「ふふ。私ってばワルね!」
水を差したくはないが、なんとも小物すぎる。聞き流すべきか、指摘するべきか迷っていると、騎士二人が軽やかに降りて来たので、判断は有耶無耶になってしまった。
少なくとも「ワル」は自称しない方が良いと思うが、それも口に出すタイミングを逃し、やれやれと神殿に向かった。




