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宿から少し離れた場所にある酒場は村人たちで賑わっていた。雑に配置されたテーブルに陣取っている客達が、陽気にあちこちで乾杯の音を響かせる。
村の自慢の麦で作るエールだと豪快にすすめられて、グレンはジョッキとおすすめの料理を適当に盛り合わせを頼む。そしてチラリとアイリスを伺いみた。
「本当に飲むのか?」
「うん!!」
不安げにグレンが確認すると、アイリスは元気良く頷いた。グレンは諦めてため息をつくと、受け取ったジョッキをアイリスに手渡す。
「無理すんなよ?」
「グレンは心配性だなぁ」
「いつもならおまえがすることだろ!?なんでアイリスにはしねぇんだよ!」
セドリックはアイリスに乾杯の仕方を教えながらグレンに向かってジョッキを掲げる。
「え、だって何かこの子面白いんだもん」
「ええ!心外です!!」
「ははは。じゃあ、かんぱーい」
何が「じゃあ」なのかも不明だが、グレンも巻き込んで三人はジョッキを合わせた。
グレンも、さすがにここまできてダメとは言わないようで、手にしたエールを一気に喉に流し込む。セドリックも同じように飲み干すので、アイリスも真似をして両手でジョッキを支えると一気に飲んでみた。
「!!」
喉を通りすぎる爽快感にパッと顔が明るくなる。
「美味しい?」
「うん!!!」
セドリックが覗き込むと、アイリスから満面の笑顔が返ってくる。
「やばい、この子、ザルかも」
「潰されるなら一人で潰されろよ」
セドリックが飲みっぷりの良さに感心する横で、グレンが我関せずと料理に手を伸ばす。そして皿に取り分けた料理をアイリスに押し付けた。
「おまえ、ちゃんと食いもんも食えよ」
アイリスは受け取った料理の匂いに頬を緩ませる。
「グレン、俺のも」
「自分でやれよ…」
当たり前のようにセドリックが自分の皿を押し付けると、グレンが渋々と取り分ける。アイリスはそれを見てなんだか楽しくなった。
「グレンはお母さんみたいね!!」
「ぶっ……」
速攻でセドリックが吹き出す。
グレンはセドリックの腹に一撃いれるとアイリスの額を指で弾いた。
「誰がだ!!」
賑やかなテーブルに、近くで飲んでいた村人の一人が声をかけてきた。
「兄さん達、神殿のお客さんかい?」
「あん?…そうだけど?」
グレンがエールを飲みながら男を見ると、男は興味津々にアイリスに目を向けている。
「じゃあ、聖女様ってのはそっちの嬢ちゃんか?」
「うん…?まぁ、な」
男に向き直るようにしてアイリスを背に隠す。セドリックが人の良さそうな笑顔で警戒を強めた。
「はぁー!じゃぁ、ザック爺さんの話は本当だったってことか!」
「おい、リック!やめておけよ」
アイリスはよく分からずに首を傾けた。手の中にあるジョッキの中身は空っぽだ。
「聖女様っつーのは、とんでもねぇ男好きだって話じゃねぇか!」
酔っぱらっているのか、ガハハと豪快に笑いながらアイリスを眺めた。
「お、おとこ、ずき?」
アイリスが聞いたこともないような言葉に目を丸くする。
「あら、そうなの?」
「ち、違うよ!!…たぶん!!」
「多分じゃねぇ、『違う』だろ!」
衝撃が大きすぎたのか自信なさげに応えるアイリスを、グレンが怒鳴りつけた。セドリックがにこにこと笑いながらリックと呼ばれた男の隣に移動する。
男の空いてるジョッキを店員に預け、代わりに新しく注文したジョッキをリックに手渡す。
「で、ナニ爺さんが何て言ってるって?」
「だから、ザック爺さんだって!」
誰だ?
四人の疑問に応えるように、リックを宥めていた男がセドリックに頭を下げた。
「すまねぇな、兄さん達。ザック爺さんは、この村出身の大聖女ミーナ様のファンでよ…」
「いや、ファンだったとしたら、それはそれで言い方がおかしいだろ…」
グレンは疑問だらけの回答にどう応えて良いのか頭を悩ませた。
「えらい別嬪さんだったらしいんだけど、三度の飯より色男が好きな女で、都会の色男につられて出てっちまったんだと!!」
「は?」
セドリックとグレンが固まる。
情報収集は兼ねるつもりだったが、情報量が多すぎる。
「はっ! なるほど!!」
アイリスがようやく状況に追いついたのか、ポンと手を打つ。
セドリックとグレンが振り向くと、いつの間にかアイリスの前には空のジョッキが三つ並んでいた。
「つまり、男性から見てもこのお二人は色男に見えるってことですね!!」
「お、おい、飲みすぎじゃ…」
「ペース早!!」
アイリスの勢いにリックがテーブルを叩いて頷いた。
「そうよ、それそれ。色男を二人侍らせてご登場とは、爺さんに聞いた通りの男好きじゃねぇか!」
酔っぱらっているとはいえ、かなりの暴言だ。セドリックがさすがに止めようと動こうとしたが、その前にアイリスがパンッと胸の前で両手を合わせた。
実に楽しそうに。
「かっこいいですよね、ふたりとも!町でも女の人たちに囲まれてめちゃくちゃモテてました!」
「お、おい…」
興奮してるのか、可愛らしいが良く通る大きな声で歌うようにしゃべる。
「でもおじさんもヘコまないで!全然格好良くなくて、全くモテなさそうだけど奥さまがいらっしゃるでしょう?」
左手の指輪を指差す。
「まっったく色男じゃないけど、気を落とさないで!たった一人でも、愛してくれる素敵な奥さまがいれば幸せなことよ!!」
悪意のない暴言が、倍返しとなりリックの心を抉った。
「デリカシーのない男って、どうして自分がやり返されると、こんなに弱いのかしら?」
カミラが周りに聞こえないようにため息をつき、リックを囲んだ三人の男は、憐れみの目をリックに向けた。
アイリスは女性の店員からサービスでエールの追加を受け取りご機嫌だ。
この夜、様々な貴重な意見が飛び交ったのだが、犠牲者も多く出てしまったことは悲しい出来事だった。




