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コンコン…
村にある宿屋に案内され、部屋でセドリックとグレンが荷物を整理していると小さく扉を叩く音がした。
グレンが出迎えるとカミラを抱えたアイリスが立っていた。部屋の中へ促すとひょいと部屋を覗き込む。
「お邪魔しますー」
ベッドの端に腰を下ろしていたセドリックが、立ち上がり、部屋に置かれた椅子を引いた。
「どうぞ」
「ありがとう!」
ストンと腰を下ろすと、改めて部屋の中を見渡した。積み上がった荷物が視界に入る。それを見て何だか可笑しくなった。
「途中で商人さんから貰ったお菓子がお土産になって良かったね」
「あれは脅し取ったって言うんだよ…」
にこにこと笑うアイリスにあきれた目を向けながら、グレンがセドリックに倣ってベッドの端に腰を下ろした。
「どうでもいいでしょうが、そんなこと」
アイリスの膝の上でクマがしれっとしている。セドリックとグレンは顔を見合わせて肩をすくめた。
「あ、そうだ。せっかく薦めてもらったし酒場に行ってみる?」
「えぇ、お酒はちょっと…」
神殿の修練生が別れ際に教えてくれたことを思い出し、セドリックが話題を変えた。いまいち歯切れの悪いアイリスにカミラが口を挟む。
「あら、禁止されているの?」
「されてはないけど、飲んだことないし…」
「じゃあ、飲んでみたらいいじゃない。辛いものも好きだったんだし、案外酒豪かもしれないわよ?」
カミラがアイリスの膝の上で背伸びをして顔を近づけた。セドリックの目が面白そうに細くなる。
「確かにね。好きな食べ物とかあんまり分からないって言ってたし色々試してみたら?」
「えぇ……」
完全に面白がってるだけのセドリックを見て、グレンが呆れた顔になる。たまに顔を出すセドリックの悪い一面に一応釘を刺しておく。
「あんまり、無理強いするなよ?」
「人聞き悪いなぁ」
セドリックが不満そうな声を出す。グレンはそれを軽く聞き逃して、アイリスに声をかける。
「無理しなくていいからな?」
「む、無理とかじゃないんだけど…」
「んもう!焦れったいわね。飲みたいの?飲みたくないの!?」
せっかちなカミラがアイリスに詰め寄ろうとするのをグレンが首根っこを掴んで引き離す。
「無理強いすんなって言ってんだろ」
「えぇい、離しなさい!このくらいのこと、即決できなくてどうするの!!」
カミラがバタバタと暴れるのをグレンが抱き込んで押さえる。そんなカミラの言葉にアイリスはハッとする。
「そうだよね。私がやりたいかどうかなんだよね!?」
「いや、そんな御大層な話じゃねぇだろ…」
アイリスは重大な決定をする瞬間の張り詰めた空気を纏わせ、拳を握る。グレンが脱力しながら訂正しようとしたが、もはや愉快犯となったセドリックがその肩を叩き黙らせる。
「そうだね?大切なのはアイリスがどうしたいか、だよ」
「だよね!私、飲んでみたい!!」
グッと握りしめた拳に決意をのせてアイリスが決断した。
「そう。じゃあ、行ってみようか。初めての酒場に」
「うん!!」
完全に悪のりしてるセドリックを、グレンが半目で睨み付けた。村の酒場に行くのは元から想定されていた。
情報収集に一番手っ取り早い場所だからだ。
「わざわざ連れていく必要ねぇだろ…」
「どうせ情報収集もするのでしょう。だったら、わたくし達も連れていきなさい!」
グレンの腕の中のカミラは、その腕をペシペシと叩きながら命令した。
「あと、あの子が一人で晩ごはんを用意できるわけないでしょ!飲む飲まないに関わらず、酒場には連れていくのよ、このまぬけ!」
セドリックに呆れ顔だったグレンだが、ぽんぽんと出てくるカミラの罵倒に青筋が立つ。
「置いてくぞ、このクマ女!」
「そんなことが許されるわけないでしょう!!」
「ほら、出掛けるよ」
楽しそうにアイリスの手を取るセドリックが、怒鳴り合うグレンとカミラに声をかける。
「待て、このクマはおまえが持ってろ!」
グレンが慌ててアイリスにカミラを押し付けた。ぬいぐるみを受け取ったアイリスがグレンを見上げた。
「グレンが持ってても良いのに」
「お断りだ!」
「お断りよ!」
力一杯、拒否られた。




