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少し進んだところにある湖畔の小さな休憩小屋で馬車は停まった。
「ここで休憩にしょう?」
馬車の扉を開くとセドリックが手を差し出した。カミラはその手を取り優雅な足取りで馬車を降りる。
「ふぅん?悪くない場所ね」
湖に光が反射しキラキラと輝く。
腕の中のアイリスが少し身を乗り出して見とれていた。
「気持ちいい風だね!」
無邪気に見上げるアイリスにカミラが唇を持ち上げた。
「ぬいぐるみにそんなこと分かるかしら?」
「もう!気持ちの問題だよ!」
ゆったりとした足取りのカミラが設置された小屋のベンチに腰を下ろした。
そのままじっと手の平を見つめている。
「どうしたの?」
アイリスが覗き込むとカミラが小さな声で囁いた。
「そのまま聞きなさい…」
セドリックとグレンは馬車の荷物から昼食となりそうな品を選別しているところだ。
「おまえの持つ聖力はおまえの魂に宿っているでしょう?」
アイリスの体に入っても、カミラにはその力は使えない。結界強化の祈りがクマのぬいぐるみに移ったアイリスにしかできなかったことからも確かだ。
「そうだね?」
アイリスが首をかしげる。
「力は魂に宿るということなのよ。つまり…」
ポッ…
「……っ!?」
カミラが手の平に力を込めると、小さな炎が灯った。
「わたくしの力はわたくしの魂にあるということだわ…」
「カミラの…力?」
きゅっと手の平を握ると小さな炎はあっという間に消滅した。カミラはアイリスの目を覗き込んで人差し指を自分の唇に当てた。
「これはわたくしとおまえだけの秘密よ」
「私とカミラだけの?」
「力が使えるかもって思ったのはさっきの騒ぎの時なのよ、…使わずにすんだけど」
戸惑うアイリスにカミラの目が細くなる。そして、有無を言わさぬ強さでもう一度頷いた。
「あの二人だってわたくし達に言っていないことがあるはずよ?保険はかけておくべきだわ」
「私は良いの?」
「おまえは一蓮托生だもの」
アイリスはこくこくと頷いた。
カミラは何事もなかったように顔を上げ湖面を見つめた。
(わたくし、魔法が使えるのね…)
神殿や町の様子を見て分かったことはこの国では魔法を使う者はいないということだった。同じことを思ったのかアイリスがカミラを見上げて首をかしげた。
「カミラは魔法を使う国の人なんだね」
「そうかもしれないわね」
二人は何となく黙り込んだ。
だが、すぐ切り替えるようにカミラが立ち上がる。
「まぁ、今はここまででいいわ。さぁ、おまえも戻りなさい」
「え?」
「体を返すと言っているの、さっさとそこから出なさい!」
入れ替わった時と同様に、力を込めてミルクティー色のクマを視線で射貫く。
「おい、準備できたぞ!?」
グレンの声がする。明るいブラウンの髪のアイリスが黒いクマのぬいぐるみを抱えて応えた。
「分かった、今いくよ!」
グレンは目を瞬いてアイリスを見つめてから、肩をすくめた。
「自由自在かよ」
「いい加減に慣れると言うものよ!」
「順応力高すぎだろ」
アイリスの腕の中のクマが偉そうに顎を上げるので、グレンはとりあえず額の辺りを指で弾いておいた。
「何をするの、無礼な男ね!」
額を押さえるカミラをアイリスが宥める。
「まぁまぁ。痛くないんでしょ?」
「痛くなくても腹は立つのよ!」
眉を下げて笑いながら、アイリスは舌を出すグレンの後に続いた。そしてウッドテーブルに並べられた昼食を目にして声を弾ませる。
「美味しそう、ピクニックみたいだね!?」
楽しそうなアイリスにセドリックは紅茶を差し出した。
「そうだね?さぁ、食べようか」
「うん、ありがとう!」
嬉しそうにアイリスが手を伸ばした。




