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思わぬアクシデントで不幸に見舞われたのは、荷物を襲われた商人か、助けたのに御者台で説教されてるグレンか、はたまた馬車の中で叱られてるアイリスか。


「なんで俺まで説教なんだよ…」


「ゴロツキの撃退までは問題ない。その後だよ…分かるだろう?」


御者台でグレンは苦い顔をする。


商人があまりに太々しいので、反射で言い返したのはまずかったと自覚している顔だった。


「腕は問題ないんだから、騎士の精神も精進してくれ。今後はおまえの後に続く平民が増える予定なんだから…」


グレンがセドリックに対して敵わないと思うのはこういう時だ。

生まれや育ちではなく事実を判断する。それが貴族の中では珍しい価値観だとグレンは身をもって知っている。


「ぐ…っ、努力する…」


「まぁ、意見としては概ね俺も賛成だったけどね」


涼しい顔のセドリックにグレンががっくりと肩を落とす。


「…だろうよ。言い方がマズかったのは反省してる」


「まぁ、だからってカミラ嬢を手本にするのはやめてね?」


「するか!」


そのカミラはアイリスの体を乗っ取ったまま、ミルクティー色のクマを膝にのせて強く詰めよった。


「いいこと?おまえに足りないのは、はったりと気合いよ」


「は、はったり…?」


「そうよ。自信がないから、その場その場でオロオロするの」


カミラがきっぱりと言い切った。


自信が服を着たようなカミラならそうかもしれないけど…


アイリスの目が泳ぐ。


「人の目を気にしないの。自分のやりたいことをやるために必要な行動を取りなさい」


「私、やりたいことをやってると思うけど…」


しょんぼりとクマが俯く。

迷子の子どものように途方に暮れた小さな声になる。


「そう?だったら『可哀想だから』を止めなさい」


「……?」


カミラの言葉にアイリスが不思議そうに顔を上げた。


「『助けたいから』助けるって考えるのよ」


「なにか違うの?」


「違うわよ。自分がやりたくてやるんだもの」


アイリスが首をかしげた。


「助けた相手が悪い人だったと後から分かっても、可哀想だったからとか、私は知らなかったって言い訳はできなくなるわ」


「…怖いね」


「だから、ちゃんと考えるでしょう?助ける人かどうか、どう助けるべき人なのか」


カミラはそっとクマを抱き上げて目線を合わせた。


「闇雲に全て同じように助けるんじゃなくて、相手によく向き合うのよ」


「やっぱり難しいよ」


「難しくないわ!いけ好かないと思うヤツはほっとけば良いし、好きだと思ったら助けたら良いってことよ」


アイリスはまじまじとカミラの顔を見た。最終的な結論はいつも極端な気がする。


「そんなんで良いの?」


「良いのよ。そのためのはったりよ!もっともらしい理由を付けて、気合いで押しきるのよ。大体それでうまくいくわ」


アイリスがようやく少し笑った。


「いくかな?」


カミラが少し顎を上げて自信満々に言い切った。


「いくわ!」


薄く開けておいた小窓の隙間から聞こえてくる馬車の中の様子に、セドリックが思わず苦笑し、グレンは息を吐く。


「相変わらず無茶苦茶だな、あの女」


「アイリス、旅が終わる頃には全然違う聖女になっちゃってるかもねぇ」


小窓に手を掛け、セドリックが中を覗き込む。


「そっちの説教も終わったみたいだし、もう少ししたら休憩にしようか?」


アイリスがきょとんと視線を向けると、気配を感じたグレンは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「未熟なものを導くのも貴族の務めね!」


「誰が未熟だ!!!」


カミラの声にグレンが怒鳴り返す。隣に座るセドリックがグレンの肩に手を置いた。


「感情で喋るなって、今、言ったばっかりだよね?」


「……ぐっ」


笑顔の圧に押さえつけられたグレンをカミラが高らかに笑った。


「ほほほ、良い様だわ!」



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