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朝の風が気持ち良く頬を撫でた。
ガタゴトと揺れる馬車でアイリスはカミラを膝に乗せ、窓の外を流れるのどかな景色を眺めていた。
「昨日は楽しかったね~」
町での観光を思い出してアイリスが頬を緩める。
「そうね。連れがいるにも関わらず、女性に囲まれて身動き取れなくなってたのは面白かったわ」
「セドってやっぱりモテるんだね!」
馬車の中から聞こえる弾んだ声に、御者台のグレンが呆れた目をセドリックに向けた。
「何やってんだよ、おまえ」
「不可抗力だ…ちゃんと観光もした!」
セドリックの弁明を裏付けるようにアイリスはあれが可愛かった、これが良かったと楽しそうだ。
「まぁ、あいつらは楽しんだみてぇだから良いけど」
グレンに鼻で笑われたセドリックが、不本意そうに片眉を上げた。
「腹立つな…。で、そっちは?」
買い出しついでに、騎士団の駐屯所にも顔を出したはずだ。セドリックが短く促すと、グレンは肩をすくめた。
「特には…あ、おまえの仕事は当分、副隊長に任せるってさ」
本部からの新しい情報は無し。
セドリックが頷いた。
「当面ってことは、こっちは長期戦で構わないってことか…」
「今のところな。俺らもいまいち状況が良く分からねぇしな」
グレンが馬の手綱を引きながらぼやいた。騎士団にとっての最悪の事態は聖女の張る結界の消滅になるのだが、それは心配なさそうだ。
「今後、イレギュラーが起きないように、改めて調査しておきたいってことだろ」
セドリックがオルガを思い浮かべる。
多少慣例主義だが、無能ではない。
少なくとも騎士団を預かることの重さは承知している。
「まぁ、本来は神殿の内部の事は俺達には関係ないんだけどね」
「神殿の公表する聖女の話と実際の運用システムも食い違ってるしな…」
馬車の中の華やかな笑い声に、セドリックはチラリと目を向けて苦笑いした。
「また、結界を解除するなんて脅してくるような聖女が出てきても困るしね」
「あれは特殊すぎるだろ…」
グレンは微妙な気持ちで顔をしかめた。
――その時、先方から高い悲鳴が聞こえた。
ドォォン…!!
続く爆音に、グレンが手綱を引き馬を止める。
「きゃぁ!」
揺れる馬車の中でアイリスが小さく悲鳴を上げた。
「なるべく低い姿勢でじっとしてて!」
セドリックは素早く中の2人に声をかけ、御者台から箱馬車の屋根に飛び移る。胸元から小型のフィールドスコープを取り出すと、爆音の聞こえた方向を確認した。
「グレン、三人だ。武器は大したこと無い。爆音は荷物に着火した結果だ、爆発物の所持はない」
「分かった」
短い通達にグレンが頷き、素早く剣を手に取り駆け出した。
「あ、あの……っ」
「伏せてて」
戸惑うアイリスの声にセドリックが短く返す。
「言う通りにしなさい。足を引っ張りたくないでしょう」
アイリスの膝の上からカミラが小さく叱った。だが、アイリスがカタカタと震えているのに気が付くと綿の詰まった柔らかい体できゅと抱き締めた。
「大丈夫よ、怖くないわ」
そのままアイリスの頭を抱えて、外の音が遠のくように耳を押さえてやった。
コツコツ…
しばらくして、馬車の扉が小さく叩かれる。セドリックがいつもの優しい顔でアイリスを覗き込んだ。
「終わったよ?」
「何事だったの?」
カミラがアイリスの耳から手を退けて、セドリックを見上げた。
「野盗崩れかな。特に組織立ってるわけでもないゴロツキだった」
「……そう。物騒ね」
呟いたカミラをぎゅっと抱き締めたアイリスは、まだ震えている。
「終わったのよね?もう一人は何故まだ戻らないのかしら?」
首をかしげるカミラの耳に、グレンの怒声が届いた。
「だから、あんた達の荷物の保証は騎士団の管轄じゃねぇんだよ!!」
カミラとセドリックが顔を見合わせた。
「事後処理に手間取るなんて、騎士としてどうなのかしら?」
「面目無いね?」
アイリスは涙目のまま目をぱちぱちさせた。




