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「お待たせいたしました~」
丁度良いタイミングで店員が声をかけてきた。気持ちを切り替えるように料理が並んでいく。
一同は何事もなかったかのように料理に手をのばし、ランチを楽しむことにした。
「おいしい!!」
初めて食べる味付けに目を輝かせるアイリスの隣でセドリックの魂が抜けていた。
「辛……っっ!!」
アイリスは興味津々に真っ赤なスープを覗き込んむ。ほかほかと上り立つ湯気もさることながら、香りすらツンと刺激的だ。
「一口食べてみても良い?」
キラキラと覗き込むと、辛さのあまり水を流し込んでたセドリックが首を横に振る。
「やめときなよ。すごいよ、これ?」
「一口だけ!」
どうしても好奇心を抑えられないアイリスに押し切られ、セドリックが渋々皿を差し出した。
「本当に知らないからね?…あ、グレンは絶対に一口食べてもらうからな!」
「嫌だよ、おまえが責任もって全部食えよ」
他人事のように眺めてるグレンに釘を刺すが、ゲラゲラと躱された。
「……っ!!美味しい!!」
何としてでもグレンにも食べさせようとセドリックが何かを言いかけた時、遮るようにアイリスの弾んだ声が響いた。
「口の中に広がる強烈なしびれの中の爽やかな香辛料と、具材そのものの旨味が絶妙にマッチしていて、痛いほど刺激的な辛みがそれを後押ししてるよ!」
分かるような分からないような食レポを興奮して伝えてきた。
「マジか…」
「辛いの…好きなんだね?」
辛いもの好きも瞬殺の激辛メニューを嬉々として口に運ぶアイリスに二人の騎士は顔を引きつらせた。
「食べ物の好みが分かって良かったじゃない。そういう好き嫌いの発見も大事よ?」
カミラがアイリスの膝の上でのんびりと寛ぐ。
「カミラも食べれたら良かったのに、残念だね?」
「そうね。食べれたとしても遠慮したけれどもね」
美味しいのに、とアイリスが頬を膨らませた。信じられないものを見る目でそれを見つめるセドリックとグレンに、カミラは別のことを問いかけた。
「アスコット村というのはここから遠いのかしら?」
グレンが皿を横に押しのけ、地図を広げる。丸が付いているところがその村なのだろう。
「この町からだと明日の朝に出発すれば夕方前には到着するな」
「さすがに整備されてるとは言い切れないけど、比較的に馬車道はちゃんとしてるから安心して?」
アイリスも地図を覗き込みながら頷いた。
「先々代の大聖女様の故郷だよ。地方神殿はね、大聖女様の生誕の地に建てられていくの」
「あら、そうなの?そのうち神殿だらけになりそうね」
「うん。だから上限は七棟らしいよ。あと王都は本部だから大聖女様がお生まれになっても追加されないんだって」
全部で八棟。
根拠があるのかないのかわからない数字だ。
「少なくとも大聖女という存在が八代以上は続いているという事ね?」
分からないことはとりあえず保留にして、事実だけを確認した。
アイリスはにこにこと頷く。
「おまえ、知ってたか?」
「初耳だよ」
グレンが耳打ちすると、セドリックも初めて聞いたと目を瞬かせた。
神殿のある場所から大聖女が選ばれると思っていたが、違うらしい。
「大聖女様のことって基本的に外で話さないんだよね。禁止されてるわけじゃないけど」
カミラはまた少し沈黙した。
大聖女についての肝心な部分があまりにも曖昧過ぎる気がした。
偶然なのか意図的なのか…。
(そもそも、神殿自体があんまり把握していない可能性もあるわね)
話を聞く限り、かなり重要なポジションのように思える。それにもかかわらず、神殿は大聖女が不在ということに対して慌てている風でもない。
「まさか、居ても居なくてもいいのかしら…それとも」
大聖女の最も中心的な仕事は結界強化と維持だ。
現状、それはアイリスが肩代わりできている。
代わりがいれば問題ないという事なのか。
「いずれにしても、地方神殿はどれもこれも大聖女ゆかりの地なのね。だったらそこで今代の大聖女のヒントがあるかもしれないわね?」
「そうだね!何かあるといいね」
カミラと騎士二人は少なくとも違和感は感じているのだが、アイリスには全くそれがない。いつも通り屈託のない笑顔で手を叩いた。
「ま、今ある情報だけじゃ何とも言えねぇことばっかりだし、それは後で考えたらいいんじゃないのか?」
グレンが地図を小さく折りたたむ。そしてテーブルの端に寄せた料理を引き戻し、改めて料理を口に頬張りながらアイリスに目をやった。
「その辛いのが気に入ったんだったら、セドと交換すれば?」
アイリスがセドリックを窺い見ると、セドリックは満面の笑顔で頷いた。
「アイリスが良ければ是非そうして!!」
「いいの!?ありがとう!!」
どこか必死なセドリックに押し付けられたことには気が付かず、手をパチンと合わせてお礼を言った。
「素直に感謝されると、悪いことした気分になるな…」
「ん?」
「いや、何でもないよ」
多少の良心の呵責と引き換えに美味しく食べられる料理を手に入れたセドリックが、後ろめたそうに首を振った。
「食ったら、明日の移動に必要な食料と水を買う。その間なら、少しは遊べるんじゃねぇ?」
「本当!?嬉しい!!」
グレンがアイリスに提案するとアイリスが子どものように目を輝かせた。
特別な環境で過ごしすぎたアイリスが、少しでも『普通』に楽しめるといいとグレンが目を細めた。
「……おまえも結局『お人好し』なんじゃない」
アイリスの膝の上のクマがグレンを見上げて零した小さな声は、店の喧騒にかき消されて誰の耳にも届くことはなかった。
「護衛は連れて行くのよ!」
カミラ自身がその呟きを意識して漏らしたわけではない。なのでその事は特に気にすることなくアイリスに忘れずに忠告しておく。
「俺は買い出しに行くから、セドはそいつらを頼むな?」
「そうだね、アイリス。この町も面白いところが沢山あるから案内するよ」
セドリックはアイリスに町の観光スポットを聞かせて、行きたいところの確認をする。アイリスは興味深そうに説明に耳を傾けていた。
「カミラはどこに行きたい?」
「おまえ、ぬいぐるみを抱えて観光する気なの?」
「一緒の方が楽しいよ!」
カミラは深く息を吐いた。
こういうアイリスに逆らえたことがない気がするという、不本意な考えが頭をよぎった。




