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「ど、どうしよう、カミラ。ケンカだよ!?」
「どうもこうも、わたくし達には関係ないわ」
わぁわぁと騒ぐ子どもたちを見向きもせずにメニューを眺めている。
「だけどあの子泣きそうだよ。お母さんも困ってそうだし…」
「いいこと?」
カミラはメニューから目を上げるとアイリスの膝の上でアイリスに向き合うように体勢を変えた。
「あれはただの兄弟ゲンカだし、収めるのはあの場にいる母親の仕事だわ。ついでにマナーも叩き込んでほしいわね」
「でも…」
「なんでもかんでも首を突っ込むのはおまえの良くないところよ。だいたいなんと言って介入するのよ?」
淡々と諭されてアイリスは視線を迷わせる。
争いは良くない。
兄弟は仲良くしないと。
困ってる母親を見捨ててはいけない。
様々な感情が頭をめぐるが、解決策など思い付かない。
「私の食べてるものと交換とか?」
「見知らぬ人にそんなことされたら気持ち悪いわ。だいたい同じことが起こる度にそれをするつもりなの?無理でしょ」
きっぱりと言い切られてアイリスの眉が下がる。
「おまえが神殿でなんでもかんでもやれたのは、みんながおまえを聖女だと知ってたからよ。通りすがりの赤の他人にできることなど限られてるのよ」
カミラが言い聞かせるようにアイリスに詰め寄る。
「ケンカが気になるなら、そこのおバカな騎士二人を仲裁したら良いじゃない」
最後にカミラは兄弟ゲンカをそっちのけで、まだグダグダと言い争う二人を指した。
「え……?」
「あれもケンカよ?」
「でも、二人は元々が仲良さそうだし…」
セドリックとグレンがようやくアイリスの様子に気がつき、首をかしげた。
「どうした?」
「え、お腹すき過ぎちゃったの?急いでもらおうか?」
「ううん、そんなんじゃないの。ただ…」
自分の価値観がうまく説明できずにアイリスは口ごもった。また、良くないことをしてるのだろうか…。
「おまえ達があっちの子どもみたいに低俗な争いをしてるから、恥ずかしくなっただけよ」
カミラが挑発するように、グレンにため息をついて見せた。
「ああぁ、なんだと?」
グレンの目が細くなり、低い声とともにカミラを睨みつける。
「ほら、これはどうするの?これもケンカよ?」
「ええぇ…」
困ったように眉を下げるアイリスにカミラはもう一度告げた。
「なんでもかんでも首を突っ込むのはやめなさい。放っておいても良いこともあるのよ」
カミラがふんぞり返っていると、グレンが横からその頭を両手で挟み、むぎゅぅっと圧し潰した。
「ちょっと、やめなさい!なにをするの、本当に無礼ね!!」
「何の話してんだよ?」
グレンの問いかけにアイリスは曖昧に笑って誤魔化した。どう言っても何か違う気がして喋れなくなった。
「子どものケンカってあれ?」
セドリックに指を指されて、兄弟に目を向けると弟と兄がそれぞれのプレートから一品ずつ仲良く交換をして笑い合っていた。
「本当だ…」
アイリスがぽつりと呟いた。
カミラの言った通りだ。放っておいても大丈夫なものは大丈夫だった。これまでの判断基準が足元から崩れていく感じにアイリスは俯く。
(だとすると何が大丈夫で、何が大丈夫じゃないのかしら)
途方にくれていると、グレンから抜け出したカミラと目が合う。
「おまえは深く考えすぎなのよ。自分に関係ないことは放っておきなさい」
アイリスは目をぱちぱちと瞬いた。
「それで良いのかな…」
「手の届く範囲なんて限られているわ。顔の見える相手から考えていけば良いのよ。それなら少し分かりやすいでしょう?」
カミラははっきり言い聞かせた。
「おまえはやらなくて良いことをやらない練習が必要ね?」
「ふふ…なにそれ。そんな練習あるの?」
確かに仲がいい人同士のケンカを止めなきゃとは思わなかった。手を出す必要がないと信じられるからだ。そういうことだろうか。
「お人好しには必要な訓練よ!」
セドリックとグレンは顔を見合わせて首をかしげた。
「ねぇ、何の話をしてるの?俺等も混ぜてよ」
「子どもみたいなケンカをしてるおバカさん達と話すことはないわ」
カミラがいつもの調子でツンとするのをみてアイリスの張り詰めた気持ちが少し軽くなる。
カミラは間違っててもちゃんと教えてくれる。それが嬉しかった。
(まだ良く分からないけど…。私、やり過ぎてたのかな…)




