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王都の門を抜け、整備された道を馬車が走る。神殿からすぐの町にすら出掛けたことのなかったアイリスは活気のある町並みをキラキラした目で眺める。
「賑やかだね!」
「おまえ、田舎の村と神殿しか知らないものね」
ぬいぐるみでなければ鼻を鳴らしていただろう。そんな様子でカミラがアイリスに応じた。
カタッ。
小さな音がして御者台の小窓からセドリックが顔を覗かせた。
「ここは王都に一番近い歓楽地だよ。この町を出たら、いよいよ田舎道になるからね?」
「あら、今でも十分揺れていたけど、さらに酷くなるの?」
「黙れ、クマ」
カミラが不満を漏らすとグレンが被せ気味に言葉を遮る。反射神経でカミラが高い声を上げた。
「誰がクマよ!!」
「はっ、おまえなんかクマで十分だ」
座席から飛び出しそうな勢いのカミラを慌ててアイリスが抱きしめる。
「落ちちゃうよ、カミラ!」
「離しなさい!あの無礼な男をぶん殴ってやらなきゃ気が済まないわ!!」
「全然ダメージ与えられないから止めといた方がいいって!中身、綿なんだよ!?」
「んもうっ!!!」
騒がしい馬車の中の様子を背中で感じてグレンが舌を出した。セドリックが肩をすくめて、もう一度小窓を覗き込む。
「町を出たらしばらく買い物はできないから、ここで一泊しようと思うけど、良いかな?」
「そ、そうなんだ!じゃあ、そうしよう!!」
暴れるカミラを一生懸命押さえながらアイリスが頷いた。
「俺たちだけなら野宿でも良いけど、レディが二人もいるからね?」
片目をつぶって、セドリックが笑った。アイリスは目をぱちぱちさせてから、カミラを見た。
「レディだって!初めて言われたよ!」
「…ああ、そう。そうでしょうね」
不貞腐れたカミラにはあしらわれてしまったが、アイリスは嬉しそうだ。
「なんか不憫になるほど幸せの沸点低いよね、アイリス」
可哀想な子を見る目になってしまうのは仕方ない。セドリックはため息をついた。
「おまえのいい加減な社交辞令を真に受けるくらいだからな」
「失礼だな。さっきのは本気で言ってるよ」
「田舎娘とクマだぜ?」
グレンが興味無さそうに鼻を鳴らす。セドリックは残念なものを見る目を隠しもせずに首を振った。
「だから、おまえはモテないんだよ」
「モテたくねぇよ」
吐き捨てるように言いながら、目当ての宿屋の中庭に馬車を進めた。
ゆっくりと馬車を停車させる。セドリックがアイリスの手を取って馬車から降ろすのを確認して、グレンは近づいてきた馬夫に数枚の硬貨を手渡し馬車を預けた。
「お姫様みたい!」
セドリックのエスコートにアイリスがはしゃいだ。セドリックは楽しそうに手を取ったまま、恭しく頭を下げた。
「それでは中に参りましょうか、姫?」
「姫!!!」
楽しそうにお姫様ごっこを始めた二人をグレンが半目で見つめた。アイリスの腕の中のクマも、ぬいぐるみでなければ同じ顔をしてただろう。
「アホか。バカやってないで行くぞ」
「グレンは口が悪いなぁ」
「せめてアホかバカのどちらか一つにしてほしいですよね?」
ノリが悪いと肩をすくめたセドリックに、アイリスが耳打ちした。
「行くぞ、アホども!」
「統一された!!」
のんきな姫一行は宿に足を踏み入れる。グレンが素早くカウンターでチェックを済ませた。
「一人部屋と二人部屋、一つずつな。できれば部屋は隣にしてくれ」
「一緒じゃないんですか?」
おっとりとした感性でアイリスが首をかしげた。神殿のお金を無駄遣いして怒られないだろうか。
「はっ!!そうか、セドが貴族…んぐっ!」
手を打ち、納得したと声を上げるアイリスの口をセドリックの大きな手が塞いだ。
「俺も平民……ね?」
笑顔の圧にアイリスがコクコクと頷いた。それを見てセドリックが長い息を吐きながら手を外す。
「あと、俺じゃなくて君のためだよ?」
「雑魚寝でも構いませんよ?床とか?」
「俺らが構うんだよ。それ以上言ってると、その腕の中のクマがそろそろキレるぞ」
はっとアイリスが腕の中を見ると、カミラがふるふると震えていた。
ここで暴れられたらまずい!
アイリスは慌てて案内された部屋に向かった。だが、残念なことに一歩部屋に入った瞬間、カミラに怒鳴りつけられた。
「安宿でも耐え難いのに、同室なんて無理に決まってるでしょうが、このおバカ!!」
「えぇ!!折角『アホ』に統一されたのに、また『バカ』が増えた!」
両手を頬に当ててショックを受けるアイリスにもう一度カミラが怒鳴り付けた。
「このおバカ!!!」
隣の部屋から盛大な笑い声が聞こえた。




