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大司祭サイファの許可が下りたので、アイリス達は明日にでも神殿を出発できることになった。
「思ったよりあっさりだったわね…」
サイファが退室したあと、応接室に残った四人はほっと一息ついた。
「マニュアル、作っておいて良かったよ!」
アイリスの能天気な言葉にカミラは、グレンの腕から身を乗り出す。
「それ!何でそんなもの作ってあるのよ!それさえなければもっと困らせることも出来たのに!」
キャンキャンと文句を並べるカミラをグレンが押さえ付ける。
「うるせぇ、落ち着け!」
「うるさいとは何よ!というか、いつまで抱えているつもりなの、無礼者!」
「はぁぁぁ!?お前が連れていけって言ったんだろうが、このクマが!!」
ぬいぐるみとイケメンの口喧嘩。
なかなか愉快な絵面にセドリックが背を向けた。
「セドリックさん!?大丈夫ですか?」
アイリスが心配して覗き込むと、片手で口元を押さえて震えている。
「あぁ!!やっぱり具合が…っ」
「笑ってるんじゃないわよ、このキラキラ詐欺師!!」
手を伸ばそうとしたアイリスの行動を遮るようにカミラの金切り声が響く。
「ダメだ、面白すぎるっ!!」
呆気にとられるアイリスの前で腹を抱えて笑い出した。
「笑い上戸なの、この男は!?」
「セド、笑いすぎだ!」
綺麗に揃ったグレンとカミラの声に、さらに痙攣を起こすほど笑い続けた。
「え…っと……、お元気ということで?」
「見たらわかるでしょう!!」
カミラに怒鳴られてアイリスはほっと息を吐いた。
「だよね、良かった!」
「このお人好し!!」
しばらく時間がかかったが、指先で涙をぬぐいながら、ようやくセドリックが息を整えた。
「はぁー、しんどかった」
「落ち着いて良かったですね?」
どこまでも人の良いアイリスの顔を、セドリックはじっと眺めて、にっこりと微笑んだ。
「そうだね、心配かけてごめんね?」
アイリスはもう一度「良かったです」と屈託なく笑った。
「あれぇ?ときめいたりしない?」
「え?…しないです、けど?」
一刀両断のアイリスの返事に、今度はグレンが「ぐっ…」とくぐもった声を出し横を向いた。
「騎士には笑い上戸しかいないのかしら」
カミラは刺のある言葉と共に、グレンの腕から飛び降りた。
テーブルの上に着地するとアイリスを見上げる。
「まずは自由の第一歩よ。喜びなさい」
アイリスは目を瞬き、カミラを眺める。そして言葉の意味を噛み締めて、パッと顔を輝かせた。
「町とか行けるかな!?」
「行けるわね」
「嬉しい!行ってみたかったの!」
ささやかすぎる願いに、セドリックとグレンが眉を寄せた。
アイリスの言葉は裏を返せば、それすら許されてなかったということだ。
「自由へのお祝いよ。平民はこういう時、どうするのかしら?」
「そうだな…やっぱ、祝杯だな」
カミラがグレンに問いかけると、短い返事が返ってきた。
アイリスが慌てて顔の前で両手を振った。
「ええっと、お酒はちょっと…」
「そこはなんでもいいのよ!おまえ、行きたがってたスイーツ食べ放題があるでしょ!そこで紅茶でも何でも良いから乾杯してくるのよ!」
カミラがアイリスの記憶から、小さな願い事を拾い上げた。
「いいの!?」
「勿論一人はダメよ、護衛は連れていきなさい」
キラキラした目でアイリスが両手を合わせる。カミラが二人の護衛騎士に目を向けた。
「…俺は行かないぞ」
「当たり前でしょう!お前みたいな目付きの悪い男が行ったら悪目立ちするでしょうが!」
とっさにグレンが拒否すると、秒で言い返された。
「え、じゃあ俺?」
「他に誰がいるというの!?」
セドリックが自分を指差すと、カミラが無能を叱るように怒鳴り付けた。
「無駄に甘いその顔ならカフェでも浮かないわ。アイリス、この詐欺師を連れて行きなさい!」
「わぁ!嬉しい!よろしくおねがいします!」
「うん、まずは『詐欺師』を否定してくれないかな?」
セドリックが諦めたように微笑んだ。
(聖女を知る良い機会かもしれないな…)
アイリスの印象が当初より大分変わったのは確かだ。一度自分の目で確認するのも悪くないはずだ。
セドリックはグレンに目配せした。
グレンはセドリックの視線を受けて小さく頷く。
(聖女はセドに任せるとして…)
視線の先の黒いクマを捉える。
いまいち掴みどころのない、このクマを見極めるのが自分の仕事か、と息を吐いた。




