12
「アイリス!」
神殿の中庭にアイリスが駆けつけると、同僚の聖女が悲痛な声を上げた。
彼女が治療を施している患者の息が荒い。
「治癒魔法が全然効かないの…どうしよう…」
「大丈夫よ、間に合うわ」
落ち着かせるようにアイリスは笑った。
少女から引き取った患者の顔色がどす黒く染まっている。
アイリスは、その患者の肩を抱きしめ、ぎゅっと力を込めた。
ふわりとアイリスの明るいブラウンの髪が舞い上がり、真っ白い光が二人を包み込む。
その優しい光を目の当たりにして、駆けつけたセドリックの息が止まった。
(あれが聖女の力…!)
数秒の短い間だった。
舞い上がっていたアイリスの髪がゆっくりと落ちていく。
患者の呼吸が落ち着き、顔色に赤みが戻る。
アイリスの隣で緊張の糸の切れた少女が崩れ落ち、泣きじゃくった。
「ごめんなさい、私の力が足りなくて…っ」
「大丈夫、大丈夫よ。あなたのせいじゃないわ」
駆けつけたセドリックに腕の中の患者を預けて、少女の背中を優しくなでた。
落ち着くまでの間、「大丈夫」と繰り返す。
追いついたグレンの腕の中でカミラが舌打ちをした。
「まずいわね。いま、あの子の力の強さを見せつけたくないのに…」
「グレン、そのクマ…」
小さな声を耳にしてセドリックが振り返った。グレンとその腕の中の黒いクマのぬいぐるみを見て絶句する。
「…カミラだ」
セドリックの頬が再び引きつった。
顔がつりそうだ…。
「アイリスを応接室に連れ戻して、この場はなかったことにしないと…」
他の聖女に任せられない仕事があると思われたら、また利用されて閉じ込められる。
カミラが苛立ちを抑えきれずに呟いた。
「この患者の治療をしたのがアイリス嬢じゃないって誤魔化せれば良いんだね?」
セドリックがグレンの腕の中のカミラに確認した。
「そうだけど…」
何か方法がないか思案しているカミラにセドリックが短く「任せて」と囁いた。
そして泣きじゃくる少女の前に膝をつくと、甘い声で少女の手を恭しく掬いとる。
「素晴らしいお力ですね?」
ぽかんと見つめる少女に微笑み掛ける。
「僕は確かに見ました。アイリス嬢が手を差し伸べる前に、あなたの力でほぼ彼は治っていた…間違いない!」
ものすごく白々しい。
だが、誰の突っ込みも受け付けない強烈なキラキラしさを放っている。
セドリックはさらに距離を詰める。
「え?え?…あ、あの…」
「あなたのように可憐な少女の祈りならば、そのような奇跡も起こるのですね…」
金髪にアイスブルーの涼やかな瞳。
セドリックが両手で少女の手を包み込んだ。
とんでもないイケメンに手を握られて、熱のある目で見つめられる。
少女の思考回路が完全にショートした。ゆでダコのように真っ赤になり「あ…」だの「…うっ」だのしか、声が出せなくなっている。
「…あの男、いつもあんなことをしてるのかしら?」
カミラがグレンを見上げた。
「いつもじゃない。必要なときだけだ…多分…」
「呆れた!!」
やがて少女は、何を言いくるめられたのか、コクコクと頷きながら顔色の良くなった患者をつれて、ふらふらと治療室へ戻って行った。
「ほらね、俺が居て良かったでしょ?」
「詐欺師なの、おまえは?」
良い笑顔のセドリックにカミラが冷たく言いはなった。
隣ではアイリスが、自分がされたわけでもないのに、セドリックの行ったお色気作戦の流れ弾を食らって顔を真っ赤に染めていた。
「とにかく、さっさと戻るわよ!」
カミラに急かされて慌てて四人は応接室に戻った。
「入れ替りはわりと自由っぽい…ね?」
「理屈とかあんまり無さそうだな…」
セドリックとグレンが小声で囁きあった。




