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セドリックが落ち着くのを待って、部屋に戻ると潰れたヴァージルとアルノー、そしてリュカは使用人達によって回収されており、ソファーではカミラとメリッサが食後のお茶を楽しんでいた。
ぐるりと視線を巡らせると、グレンは執事とテーブルの端でそっと宴会の続きをしている。
あれは、この惨状を片付けたことのお疲れ様会だろう。
「グレン、ごめんね。一人に任せちゃった?」
「いや、手伝ってもらった…」
「いえ、お客様にお手伝いいただいてしまって恐縮でございます」
薄々感じていたが、思ったよりグレンがこの屋敷になじんでいてなんだか面白い。
アイリスが、ふふっと息を漏らした。
「笑い事じゃねぇぞ、お前もこれから付き合ってくんだから」
眉間にしわを寄せてグレンが文句を言った。
セドリックはすました顔でグレンの言葉を聞き流す。
敢えて、ここでそこに突っ込んで墓穴を掘る必要はない。
「おかえりなさい、アイリスさん」
「ほほほ。なんだか良いことがあったのではなくて?」
ソファーに座るメリッサとカミラがアイリスに手招きをする。
アイリスが分かりやすく真っ赤になるのを、楽しそうに見つめて二人は手にしたティーカップに口をつけた。
「いいから、こっちにいらっしゃいよ」
カミラが、ぽんぽんとソファーの空いているところを叩いてアイリスを呼ぶ。
アイリスがセドリックを少し見上げた。
セドリックが優しく背中を押してくれたので、タタッとソファーに向かった。
「意外と手が早かったわね、あの男」
「あら、私はわが息子ながら随分奥手だと思ったけれど?」
「な、なんで見てるの!!!」
こそこそと淑女たちが話し始めたが、さすがに女性の話を盗み聞きする趣味はないらしく、セドリックはグレン達の輪に入っていく。
「カミラは、これからどうするの?」
揶揄われて顔を赤くしたまま、カミラに目を向ける。
カミラはすっと顎を上げると、視線の先のグレンをその目に映した。そしてツンと顔を背ける。
「あの男が正式に叙任されて叙爵されるまで何も起こらないわ」
「あら、そうなの?」
メリッサは目を輝かせて首をかしげる。
叙任されて叙爵されたら何かが起こるということだ。
「基本的には、意気地がないのよ」
「もう!そんなこと言ったらまたケンカになるよ?」
不貞腐れたような顔をしているから、単に照れているだけだろう。
そう察しながらアイリスは苦笑した。
「まあまあ、二人ともかわいいのね!」
メリッサはかわいらしい二人にすっかり骨抜きにされて、こっそりとグレンの叙任の手続きを急がせる計算を始めた。
こういう時、夫に権力があるのは大変便利だ。
華やかに笑い声をあげているソファーを胡散臭そうに見ながら、グレンが使用人たちが置いて行ってくれた料理に手を伸ばす。
最後のほうは酔っぱらいの相手でほとんど何も食べていない。
「おまえ、アイリスにちゃんと言ったのか?」
「ん。言ったよ」
「あ、そ…」
それ以上は聞くこともなく、グレンはまた料理を口に運ぶ。
セドリックが幸せそうなので特に言うこともない。
「おまえは?」
「ん?」
「ちゃんと言うんだろう?」
グレンは口を動かしたまま、セドリックに視線を流した。
ごくん、と喉を鳴らすと、手にしたフォークをセドリックに向ける。
「行儀悪いな…」
「何度も言わせるなよ。条件が揃ったら、だ。あと、あのうるせえ身内を黙らせてからじゃねぇと、勝算がねぇだろ」
「…そんなこともないと思うけど?」
グレンの根っこは完璧主義だ。
確実に獲りに行く算段を立てているのだろう。
恋愛事情が狩りのようだな、とセドリックが笑った。
「あんまりのんびりしてると、カミラ嬢に先を越されちゃうよ?」
「分かってるよ。あいつ、勝手に乗り込んできそうだからな」
何故か時間との闘いのようになっていて笑える。
既にお膳立てはされているのだから、適当にやっておけばいいものをきちんと段取りを組みたいのは、きっとカミラのためだろう。
「それも言ってあげたらいいのに」
「言えるか…」
この部下を友人だと思い始めたのは、いつからだろうか。
その不器用な友人にセドリックは笑った。
「カミラ嬢のお迎えが来る一週間後までに、全部整えてあげるよ」
どうせ、セドリックの家族もグレンを気に入っている。
協力してくれるだろう。セドリックの言葉にグレンが悪態をついた。
「おせっかいめ」
素直じゃない返事にセドリックは肩をすくめた。
ソファーの華やかな声が、自分たちを呼ぶ声に変わった。
セドリックとグレンが顔を上げると、カミラが手招きをしている。
「ちょっと、カミラ!良いってば!!」
「良くはないわ!」
何事かと、二人は席を立ってソファーに近づいた。
メリッサが何やら手元の便箋を見つめながら笑いを堪えている。
「この子の両親、冒険者なんですって!」
先ほど聞いたばかりなので知っているが、セドリックは黙ってうなずいた。
その先を待って首をかしげると、便箋を夫人から受け取ったカミラがセドリックの前に突き出した。
よく見ると、かわいらしい字で「お父さん、お母さんへ」と書かれている。
(…手紙?アイリスか…?)
その先に視線を落とす。
『お父さん、お母さんへ
お元気ですか?私は…
聖女ですが、突然現れた狂犬のような令嬢に「お人好し」とダメ出しされ、ひと癖ありそうな騎士に面白がられています。』
便箋に書かれた内容を目にして思わず吹き出した。
「こんなセンスのない手紙ってあるかしら!?おまえもちゃんと一緒に考えなさい!この子の両親に笑われるわよ!」
「ひどいよ、カミラ!ちゃんとみんなのことを報告しようと思ってるのに!!」
「黙りなさい!大体『狂犬』って何なのよ、失礼ね!」
目の前で大騒ぎする二人に、セドリックの息も絶え絶えだ。
何とか息を吸って、もう一度手紙を眺めてみる。
「アイリス、これじゃグレンが抜けてるよ?」
「俺のことは抜いておいてくれて構わない…このままいけ」
アイリスはセドリックから手紙を奪い返すと、胸に抱え込む。
リンゴみたいに真っ赤な顔で、大きな声を出した。
「もう!!人の手紙を勝手に見ないで!」
アイリス以外の三人は顔を見合わせた。
自分が何をしたらいいかも分からないような少女だったのに、しっかり言い返せるようになっている。
「ちゃんと、自分の意見が言えるようになったじゃない!」
カミラが顎を上げた。
その様子にアイリスは目を瞬いた。
そして三人の視線が自分に集まっているのに気が付くと、満面の笑顔で胸を張った。
「私、大聖女だからね!!」
その自信満々な態度に、四人は顔を見合わせて声を上げて笑ったのだった。
完
本編はこれにて完結です。
最後までアイリスやカミラ達の成長を見守っていただき、本当にありがとうございました!
応援してくださった皆様のおかげで、最後まで楽しく書き終えることができました。
次回作も準備中ですので、またそちらでもお会いできたら嬉しいです!
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