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窓際に気配を感じたものの、面倒くさそうな父や兄の気配ではなかったので、セドリックはとりあえず気が付かなかったことにして、そのままアイリスと空を見上げた。
「私ね、セドのことは好きだけど、やっぱり良いのかなって思っちゃうんだ」
「それは身分が、とかってこと?」
「…うん」
アイリスが空を見上げたまま返事をする。
「グレンだってカミラに気持ちを告げるのに爵位が必要なんでしょう?」
アイリスもカミラも自分達のことは全く意識できないのに、お互いの感情の機微にだけは異常に敏感だ。それが面白くてセドリックは口元を抑える。
だが、今はそれより優先させることがある。
「アイリスはピンと来てないと思うけど、大聖女ってすごく偉いんだよ?」
「…そうなの?それもよく分からないんだよね」
「俺は三男だから、ゆくゆくは父上の持っている男爵位を継ぐことになると思うんだよね?」
アイリスがよく分からないという貴族の身分について、なるべく分かりやすいようにセドリックが言葉を選んで伝えていく。
「そうなの?」
「そう。だから俺は立場としてはグレンと同じ男爵だね」
アイリスが目をパチパチと瞬かせた。
セドリックはずっと手の届かない偉い人のままだと思っていた。
(…男爵でも偉い人だけど)
アイリスがぼんやりと思っているとセドリックはさらに言葉を続けた。
「大聖女っていうのは役職名だけど、立場としては侯爵相当くらいは偉い人になるんだよ?」
「ええ!そうなの!?」
「うん」
驚くアイリスにセドリックは頷いた。
アイリスはその目の奥に、いつものアイリスを揶揄うような色が強くなってきたことに気が付き身構えた。
「カミラ嬢は多分男爵夫人になるから、アイリスが一番偉くなるね?」
「そんなことってある!?」
実際はそんなに単純な話でもないが、身分だけを気にしているのならこのくらい丸め込んでおけばいいだろうと、セドリックは笑った。
気持ちが同じなら、逃がす気はない。
「あ、グレンは聖騎士だから俺よりはもっと上かな?」
アイリスが両手を頬にあてて、「えええ」と狼狽えている。
いつか、世の中の仕組みを覚えたときに叱られそうだが、今はかわいいからこれで良しとする。
「それより、さ」
セドリックがアイリスに逆に切り出した。
セドリックとしても、ちゃんとしておきたいところがあるのだ。
「アイリスのご両親にも、ご挨拶したいけど…どうされてるの?」
ルウイ村で紹介されたのは、お世話になっていたという老婆と村の知り合いの女だった。家族についての話を聞いたことがない。
セドリックは慎重にアイリスに問いかけた。
アイリスはいつものように目を瞬くと、指先を顎に当てて首を傾げた。
「…そういえば、今、どこにいるんだろう?元気だと思うんだけど…」
「…?」
「お父さんとお母さん、冒険者なの」
セドリックの目が丸くなった。
聞いたことないと思ったが、冒険者だったとは驚きだ。
「うちの村、あんまり裕福じゃないから働きに出られる人は外に出ていくんだよね」
恐らくアイリスの世界ではそれが普通なのだ。
聞かれなかったから答えなかった、それだけだろう。
無邪気に笑っている。
「ターニャのお父さんも、腕のいい鍛冶職人だからずっと町に出稼ぎに行ってたし、子どもは大体まとまって手の空いてる大人が面倒を見るんだよ」
アイリスの目の中に負の感情は一切見て取れない。
ただそういう環境で育ったんだと、楽しそうに教えてくれた。
その態度に、村全体で大切に育てていたということが感じ取れてセドリックはほっと息を吐いたが、王都以外の生活に実際触れてみてほんの少し思うところが生まれたのも確かだ。
「そうか。それじゃ、手紙とかでお知らせできるといいな」
「そうだね。そのうち送金記録とか出てくるだろうから、そしたら手紙も出せるもんね!」
アイリスはパチンと胸の前で両手を合わせて笑った。
「お父さんとお母さんを、驚かせてしまうかな?」
セドリックが少し眉を下げる。できれば第一印象は大事にしたい。
そんな計算も働いてる。意外と小さいことを気にする自分に少し驚く。
「大丈夫じゃないかな。人生は何があるかわからない~!!とか言って半分趣味で外を駆け回ってる人達だから」
それは、娘が聖女になって、しかも大聖女に選定されて、挙句の果てに貴族の男を連れてきたと知っても動じないだけの肝が据わったご両親だと期待したいところだ。
セドリックは、今度は堪えることなく爆笑した。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
「狂犬聖女」は、次回が最終回です。
本日、14:00頃に公開予定ですので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
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