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「お飲みになるかな、アイリスさん?」
ヴァージルの申し入れにアイリスの目が輝いた。
「良いんですか!?」
「勿論ですとも」
素直な様子にヴァージルが喜ぶ。自慢のワインを一緒に楽しめるのが嬉しいようだ。
「あなた、あまり無理をさせてはダメよ?」
心配そうに声をかけるメリッサの声に、セドリックとグレンが気がつきアイリスに目をやると、ヴァージルがなみなみとアイリスのグラスにワインを注いでいた。
「父上、あまり飲ませないでください!」
「おや、セドリックは心配性だな?」
慌てて止めようとするセドリックに面白そうにヴァージルが目を向けた。
(こうしてみると、あの目の感じはお父さんもなんだ!)
見た目が違いすぎて気付きにくいが、ヴァリエール家の面々の思わぬ共通点にアイリスは目を瞬いた。
「違います!うちのワインセラーが空になる心配をしているんです!」
「ひど!そんなに飲まないよ!」
だが、続くセドリックの言葉にムッとして、その事は頭のすみに追いやって、思わず言い返す。
二人のやり取りにヴァージルがまた豪快に笑い、二人の兄達の目が煌めいた。
「何!?そんなに飲むのか!!」
「見た目によらないね、大聖女アイリス!」
興味津々にアイリスに視線を投げると、控えていた執事に指示を出す。
「アイリスさんが満足するまで、ワインをお持ちしろ!」
「構いませんよね、父上?」
「ちょ…っ、本当に空になるから!!」
セドリックが止めようとするが、アルノーとリュカは全く聞く気がない。
兄弟達が騒ぎ出すのを夫人が笑いながら見守った。
「ごめんなさいね、騒々しくて。驚くでしょう?」
少女達に困ったように詫びるが、二人は首を振った。
「お酒、楽しみです!」
「わたくしはこういう賑やかなのにも結構慣れていますのよ?」
この旅で酒を覚えたアイリスと庶民の居酒屋を経験したカミラは、全く問題ないと軽やかに告げた。
ヴァリエール侯爵夫妻と二人の兄達は、その言葉に爆笑した。
「全員、笑い上戸だわ」
「すごくよく似たご家族だよね」
カミラとアイリスはテーブルを挟んで小声で囁きあったのだった。
「セドリックもだけど、あんた達もアイリスに付き合って飲みすぎるなよ!」
グレンがアルノーとリュカにも釘を刺すのを見てアイリスはまた笑った。
「グレンはこの家でもお母さんみたいだね」
「あの男は相手が誰でも、ああなるのね?」
かなりの身分差をものともしないオカン根性にカミラが肩をすくめた。
それをヴァリエール家の人間が誰も気にしていないあたり、良好な関係を築いているのだろう。
(たまに帰るというのは、意外と部下を家族に紹介するためなのかしらね?)
セドリックの分かりにくい配慮に苦笑する。
それでも、それもカミラにとっては好都合だった。
(国内の侯爵家とも懇意にしているなら、それもお父様達に考慮してもらいやすくなる材料だわ!)
カミラは酒は飲んでいない。
だが、宴会の空気にあてられて思考は少し散漫になっている。
一体、何を自分の家族にプレゼンしようとしているのか、その本質には目を向けずに手段の算段だけを積み上げていた。
自分の考えに満足して、ふとアイリスに目を向けるとアイリスがご機嫌でグラスを傾けている。
すでに二本目だった。
「だから、おまえはペースが早いんだよ!その酒、すげぇ高いんだからな!!」
気付けばグレンの説教も飛んでいた。
部屋に控えた執事は想定外のスピードでグラスを傾けるアイリスにも即座に対応し、使用人をセラーに向かわせる頻度を加速させている。アルノーとリュカは嬉々としてアイリスに酒を注ぐ。
ヴァージルは機嫌良く、アイリスにワインの講釈を始めた。
「賑やかだこと!」
カミラは素面の侯爵夫人と、優雅に微笑みあった。
カミラの声を聞いて、アイリスがハッと手元を見た。
いつまでたってもグラスが空にならないことに、ようやく気がついた。
「セド、このグラスずっと空にならないよ!」
「それはね、兄さん達が足しまくってるからだよ…」
驚いた顔をするアイリスに、逆にセドリックが驚く。そのセドリックの顔が酒でほんのりと上気していて、呆れたように吐き出した息が熱い。
無駄に色気を振り撒いている。
セドリックの甘い声と視線に、アイリスは思わずグラスをテーブルに置いて、セドリックの手を取った。
「セド。一旦、外の空気を吸いに行こう?」
絶対に酔っている…。
お読みいただきありがとうございます。
本作は明日の更新(第109話)を持ちまして、本編完結となります。
あと3話になりますが、アイリスやカミラたちの物語の結末を、ぜひ最後まで見届けていただけると嬉しいです!
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