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「図々しいお願いで恐れ入りますが、そうさせていただけると助かりますわ」


悲鳴を上げたアイリスを置き去りにして、カミラがメリッサに視線を投げた。

二人の視線が合わさると何やら意味ありげに頷く。


「わ、私は神殿に部屋があるから…っ」


「あら、わたくしを他国に一人で放っておくの?」


カミラのわざとらしい表情に、アイリスが言葉を詰まらせる。

眉が下がっているのに目が笑っている。


「…酷いわ、冷たいわ。心細いわ…」


「か、カミラ…?」


「カミラさん、大丈夫よ。アイリスさんは優しい方だもの。お友達を一人になんてきっとしないわ」


目の前で繰り広げられるなんだか分からない三文芝居に、アイリスの手が開いたり閉じたりしている。

男達は巻き込まれないようにそっと見守るだけだ。


「わたくし達、お友達なのに冷たいのではなくて?」


「お、お友達!!!」


アイリスがあっさりとカミラのその言葉に食いつき、結局カミラと共に泊まることになった。

メリッサはカミラと顔を見合わせて満足そうにもう一度頷きあう。


「では、決まりね!」


「そうですわね!!」


どうやら話がまとまったようなので、改めてヴァージルがグラスを掲げて宴の始まりを告げた。


「お前は飲み過ぎるなよ?」


グレンに釘を刺されてセドリックは苦笑する。

アスコット村でのことを言われているのだろう。


「分かったよ」


だが、言ったそばからアルノーとリュカがそれぞれ、グレンとセドリックに酒を勧めてくる。正確には酒と食事をありえない量で突き出してくるのだ。


「お前たちは細すぎる!」


「いいから、たくさん食べておけ」


次から次に差し出される料理を、受け取ったり押し返したり忙しい。

メリッサはそれを見ながら、頬に手を当てて笑う。


「男ばかりだと、こんなことばっかりなのよ」


困ったような顔をしているが、どこか楽しそうなので本気で悩んでいるわけではないのだろう。

アイリスもそうだが、カミラも家ではあまり見ない光景なので面白そうに眺めている。


「カミラのお兄さんも、実はあんな感じになるの?」


「うちのお兄様があんなことをしているところは、見たことないわ」


アイリスがカミラの兄を思い浮かべて聞いてみる。

氷の貴公子と言われるような美青年が、酒瓶を持って迫ってくる様子は確かに想像がつかない。


「色々だねぇ…」


「そうね。こうしてみると、あのキラキラ詐欺師も意外と年相応の青年に見えるわね」


「カミラ、セドはずっとその呼び方でいくつもりなんだ…」


アイリスの言葉にカミラが片眉を上げた。

僅かに顎を上げると、鼻で笑う。


「ケース・バイ・ケースよ。決まっているでしょう」


「ふふ、絶対に変えなそうだよ?」


少女たちの無邪気な会話にヴァージルが目を細めた。

というより、ヴァージルもむさ苦しい息子しかいなかったので、可憐な少女たちが何をしても「かわいい」という感想しか持てない。


「セドリックもなんだかんだといっても男だからな…。娘…いいな」


うっかりポロリと漏れる言葉を向かいに座るメリッサは聞き逃していない。

満面の笑みで夫を見つめて深く頷いている。


「お兄さま方はご結婚されていませんの?」


「そろそろ式も挙げさせようとは思っているんだけど、二人ともなかなか忙しくてね」


カミラの問いかけにヴァージルが笑った。

侯爵家の嫡男ともなれば、婚約者はいて当然だろう。次男もまたそうだ。


(そう考えると、三男とはいえかなり自由ね…)


それだけ家に問題がなく、安定しているということでもある。

カミラは大きくうなずいて、ヴァージルにだけ聞こえるように耳打ちした。


「大聖女アイリスは田舎の小さな村の出身ですが、わたくしの大切なお友達ですわ」


アイリスにアマンディアス皇国の大貴族の後ろ盾があることをほのめかす。


「アシュトレイヤ家は彼女に返しきれないほどの恩がございますの」


貴族の三男であればそこまでこだわらないかもしれないが、いらぬ軋轢を生まないためにも「釣り合い」は大切だ。


自分の気持ちには全く名前を付けないくせに、アイリスの気持ちはなぜか確信しているカミラがこっそり手を回す。


…カミラ本人が意識してやっているかどうかはともかくとして。


ヴァージルは少しだけ目の奥に意外そうな色を浮かべたが、すぐに鷹揚に頷き唇を引き上げた。


「うちの三男にも良いご縁があるといいと思っていたところですよ、カミラ嬢」


「きっと素敵なご縁が結ばれますわ」


ヴァージルはカミラとアイリスが予想以上にしっかりと友情を育んでいることを微笑ましく思った。


(セドも平民のグレンとは仲良くやっているようだし、これからはこういう風が吹いてくるのかもしれないな…)


新しい時代の流れの予感に、気分よくグラスを煽った。

それを見たアイリスがことりと首をかしげる。


「美味しそうですね、そのお酒…」


それを聞いたヴァージルの目が大きくなり、豪快に笑った。



いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。


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