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「大聖女様は、今日は大変なお勤めを果たされたと聞いているわ。お疲れでしょう?」
歓迎の宴に整えられた部屋のテーブルの上には料理がずらりと並んでいる。
目の前の色とりどりの皿に目を奪われていたアイリスだったが、メリッサの言葉に目を瞬くと、小さくはにかんだ。
「あの…わたし、あんまり慣れてないんで…」
もじもじと指先を合わせて、眉を下げながらメリッサをうかがう様子は、小動物のように愛らしい。
口元を綻ばせてメリッサが優しく促した。
「あら、なにかしら?」
「失礼でなければ、私のことはアイリスとお呼びくださいっ」
いまだに貴族との適切な距離感が分からないアイリスは、こんなことを侯爵夫人にお願いして良いのか迷った。だが、「大聖女様」と呼ばれ続けるのも落ち着かない。
思いきってお願いを口にした。
メリッサは目を丸くした。
そして直ぐに胸の前で両手を合わせて明るく頷いた。
「うれしいわ!それなら、そうさせてもらうわね、アイリスさん」
優しい笑顔にアイリスは、ほっとする。
「私のことは『お義母さん』と呼んで良いのよ?」
だが、続くメリッサの言葉に「へぇぇう??」という謎の奇声を上げてしまった。
隣でうっかり聞いてしまったセドリックも咳き込む。
「母上!!」
むせたままセドリックがメリッサに声を上げると、メリッサがつまらなそうな顔で息子を眺めた。
「なによ、冗談じゃないの」
「やめてください、アイリスが困っているでしょう!」
セドリックの言葉に、メリッサはアイリスに視線を投げて首を傾げた。
その目は楽しそうに、細められている。
(セド、何から何までお母さんにそっくりだ!!)
たとえセドリックがどんなに不本意であろうと、アイリスのことを面白そうに見つめてくる目が全く同じなことに気が付いて、アイリスは戦慄した。
(私、お母さんにも絶対勝てない!!)
思わずセドリックの袖をつかんで、助けを求めるように見上げる。
セドリックは困ったように眉を下げたが、父母と兄達の期待するような視線に気が付くと、視線を強くして威嚇した。
「セドは思ったより恥ずかしがり屋だったな」
「女性への対応はもっとスマートだと思っていたが、まだまだだな」
だが、二人の兄たちは全く意に介することもなく弟の反応を楽しむように観察する。
その様子があまりにものんびりしているので、アイリスは思わず息を漏らした。
「ふふ、セドはおうちにいるときはこんな感じなのね。かわいい…」
楽しそうなアイリスに、セドリックは複雑な顔をした。
アイリスにかわいいと笑われるなんて、全く不本意だ。
末っ子の機嫌が急降下しているのを察してヴァージルがそっと話題を変えてやる。
「アシュトレイヤ嬢とグレンは、魔法で移動してきたのだったね?」
「あら、わたくしのこともカミラとお呼びくださいな」
「おや、光栄だ」
珍しいセドリックの様子を見ることができたので、カミラは上機嫌だ。
なんとなくいつも余裕な顔をして、こちらを揶揄ってやろうという思惑が見え隠れしていたのが、もともと気に入らなかったのだ。
良い反撃のチャンスになると思うと、口元も緩むというものだ。
機嫌の良いカミラにグレンは深く息を吐いた。
相手はセドリックだ。調子に乗ってると痛い目に合うと、忠告してやるかどうか迷っている。
その間にもヴァージルとカミラの話は進んでいく。
「お帰りはどうされるのかな?」
「うちからの迎えを待つ予定ですわ」
カミラが微笑みながら、グレンに視線を投げた。
グレンは眉間にしわを寄せたままだが、黙ってうなずく。
「家の方も、やはり魔法でお見えになるのかい?」
「ほほほ、ご安心くださいませ。魔鉱石ももうございませんし、父も兄も今回の転移魔法でかなり魔力を消耗いたしました…。そもそも今回はアイリスの強力な聖力があってこその強行突破ですし…」
カミラは安心させるように、魔法でエルダリアに侵入するための手段は使えないと説明した。
ヴァージルはカミラを注意深く見つめる。
「通常の手順で参りますわ。アマンディアス皇国のわが領地から、エルダリア王国の王都までは馬車で四日ほどですが、皇国内での手続きもございますから、一週間ほどでしょうか?」
「え、じゃあ、カミラはその間どこに泊まるの?」
アイリスが思わず割って入ると、メリッサが優雅に提案した。
「それなら、お迎えが見えるまでうちに滞在なさって。もちろん、アイリスさんも一緒に!!」
「ええええ!!」
平民のアイリスには敷居の高すぎるお誘いに、思わず悲鳴を上げた。
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