103
アマンディアス皇国のご令嬢は、艶やかな髪と薔薇色の唇、真っ赤なルビー色の目の美少女だと聞いている。
それならば、隣の優しい亜麻色の髪にエメラルドグリーンの瞳の可憐な少女が大聖女アイリスだろう。
メリッサは、普段はむさ苦しい男しかいないこの屋敷に、花のような少女が二人もいることに歓喜した。
「ようこそ、お越しくださったわね。皇国のご令嬢と大聖女様ね!」
両手を広げて歓迎すると、カミラがスッと立ち上がって優雅に膝を折った。
「急なお訪ねをお許しいただき、恐縮ですわ」
動作の一つ一つに洗練された上品さを纏わせて微笑むカミラに、メリッサは目を輝かせる。
「カミラ・フォン・アシュトレイヤでございます、ヴァリエール夫人」
「まぁ!とっても素敵なお嬢さんね!」
「恐れ入ります。そしてこちらが…」
そっとアイリスの背中を押した。
「はじめまして。あ、アイリスです」
ガチガチに緊張するアイリスに、そんなことだろうと思った、とカミラがその両肩に軽く手を置く。
「夫人がお綺麗だから、この子は緊張してしまってるんですわ」
カミラがメリッサに微笑みながら、アイリスの手を握ってやると、アイリスは安心したようにカミラの手を握り返して、夫人に頭を下げた。
「私、あんまりお行儀に慣れてなくて…その、すいません」
「あら、気にしていないわ。気楽になさって」
下を向いてしまったアイリスの空いている手を取って、メリッサの両手で包み込む。
「あなたに会えるのを楽しみにしていたのよ?」
いたずらっぽい目がセドリックとよく似ている。アイリスはその目を見てほっと力を抜いた。
「セドはお母さんにそっくりね…」
気が緩んだついでに、ポロリと思ったことも口にしてしまった。
カミラといえば、扉の向こうから逞しい筋肉隆々の男たちが入ってきたことに気がつき、アイリスの隣で猫のように目を細めた。
恐るべき観察眼と直感で、正しくセドリックのコンプレックスを見抜くと、こっそりとアイリスに囁く。
「あの男、それをきっと気にしているのよ」
カミラがあんまり楽しそうなので思わずアイリスは苦笑した。
「そんな鬼の首を取ったみたいな顔をしなくても…」
「良いじゃないの。普段、すました顔をしている男の弱みよ。握っておいて損はないわ」
「カミラっていつも何と戦ってるの?」
好戦的に口元を吊り上げているカミラに、アイリスがしょうがないなと眉を下げた。
「別に何とも戦ってないわよ。何があっても良いように、いつでも備えているだけよ」
(いつでも戦えるように、かな?)
カミラがいつも通りなことにも安心して、アイリスから固さが抜けた。
どやどやと入ってきた男達が次々にセドリックの肩を叩く。
ついでにグレンも巻き込まれていた。
「セド!久しぶりじゃないか、ちゃんと食べているのか?」
「なんだ、また細くなったんじゃないのか!?」
「おう、グレンも久しぶりだな!おまえも相変わらず細いな!!」
バシバシと乱暴に叩かれ、セドリックが嫌そうに声を上げ、その隣ではグレンが頭を下げている。グレンも顔見知りのようだった。
「食べてるよ、うるさいな!」
「…どうも」
大男達の洗礼に四苦八苦している。
それでも、どこか楽しそうな様子にアイリスの口元が緩んだ。
「セドはおうちだと雰囲気が変わるね」
「ほほほ。すまし顔が作れずに、素が出ているわ」
見守る二人の少女達が、息子に対して少しも遠慮してないことに、メリッサは目を輝かせる。
どうも、外面の良い三男は外ではそつなく過ごしすぎるようで、これといった色好い話を聞いたことがない。
闇雲に憧れの的になっており、戯れにお付き合いはあるようだが、耳にする噂は軽薄なことこの上ない。
そう思っていたところに、こんな可愛いお嬢さんを連れてきたのだから、期待してしまう。
ふと、妻の浮かれた様子に気がついた侯爵が、軽く片眉を上げた。
意外と拗らせやすい末っ子に、軽い気持ちでちょっかいを出して、色々なことを台無しにしてはあとで恨まれるに決まっている。
ヴァージルは、すっと妻の隣に移動する。
「あまり、口を出しすぎるとセドが怒るぞ…」
「失礼ね、分かってますわ」
メリッサは少しだけもの足りなさそうな顔をしたが、控えていた執事に視線を投げた。
メリッサの合図を受けて執事が頭を下げる。
「お食事の用意が整ってございます。皆様、どうぞこちらへ…」
ヴァリエール家での歓迎の宴が始まろうとしていた。
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】から応援していただけると、毎日の執筆の励みになります。よろしくお願いします。




