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思わぬ宿題を抱え、王太子レイヴァンドはゆったりと王家の馬車に揺られて王城へ戻っていた。
(国の結界の仕組みと大聖女選定の考察は、最重要事項だな…)
国王陛下への報告内容を思案する。
揺れる馬車の中で一つ一つ思い起こし整理すると、それは概ね一つの線となった。
そこで漸く深く息を吐き出した。
神殿から大聖女の不在は聞いていたが、結界に問題がないという神殿の報告を鵜呑みにしたことは王家にとっても致命的な落ち度だ。
何かが起こる前に解決したのは偶然の賜物にすぎない。
(いや。これも神の配慮なのか…)
重なりすぎた偶然に、ふとそんな思いが胸をよぎった。
だが、セドリック達の話を思い返して首を振った。
彼らの辿り着いた神は、恐らくそんな配慮を、人間に対してしないだろう。
しいて言うなら、サイファが供物を変えてしまったことに、文句を付けてきたといったところか。
「聖女の記録については、見直しが必要だな…」
誰に言うわけでもなく呟いた。
だが、どういう経緯であれ皇国の有力者に恩を売った上に、そこのご息女を取り込むことができるのは、国にとってはまたとない好機だ。
「平民の叙爵は、うるさいのを黙らせるのにちょうど良いかもしれないな…」
華々しいニュースの一つでも欲しいと思っていたところに、ちょうど良い。
皇国の令嬢が後ろに付いているのも、嬉しい誤算だ。
貴族主義の頭の固い古参どもを丸め込む際に、皇国の貴族さえも認めているのだ、と言える。それは実に好都合だ。
(あの令嬢は令嬢で強かそうだが…)
それでも時折見せていた、少女らしい一面に口元が緩む。
まだ、可愛らしい年頃だということだ。
その少女は、セドリックの実家ヴァリエール侯爵家に来客として招かれている。宿の手配もなく文字通り飛んできたのだ。格の合う宿の手配も難しい。
「あんなに嫌がっていたのに、一連の騒動では、家の力を借りまくりだな」
セドリックが、ことさら家の名前を使うことを渋っていることを知っている身としては、面白い限りだ。
今回の件では、随分と驚かされたのだから、このくらいを楽しむくらいは構わないだろう。
レイヴァンドはセドリックが何と言ってカミラを実家に連れていき、説明するのか、想像して喉の奥でクツクツと笑った。
そのセドリックは、アイリスとカミラ、そしてグレンを連れて王都のヴァリエール侯爵邸に戻ってきていた。
豪華だが品の良い調度品が整えられた応接室のソファーに腰を下ろし、アイリスが物珍しそうに、飾られた高価な花瓶を見ている。
「セドは実家に帰るのも久しぶりなんだってね?」
カミラに然るべきおもてなしをするにはヴァリエール侯爵家が相応しかろうと言ったオルガの顔を思い出して、アイリスが隣のセドリックを見上げた。
にこやかに笑っているが、あんまり機嫌が良くなさそうなセドリックに首をかしげる。
「オルガ様も言ってたけど、そんなに帰ってないの?」
「…一年くらいかな?」
同じ王都にいるにしては、寄り付いてないと思うが、それがどのくらいの頻度なのか分からずアイリスは曖昧に頷いた。
カミラが腕を組みながらアイリスに耳打ちする。
「すごく仲が悪いか、すごく仲が良いかの二択ね」
「分かるの?」
「多分、後者よ」
カミラの目が面白そうに細くなった。
(貴族ってなんでみんな、人が隠そうとしてることを見つけると、こんなに楽しそうな顔をするんだろう…)
分かり合える気のしない疑問を抱えながらアイリスはグレンを見た。
こういう時、価値観の近い人がいるとホッとする。
「セドは、もともと家の力なしで伸し上がりたいタイプだからな…」
グレンはひょいと肩をすくめた。
「今回は大分、家の名前を使っちまったから、それが気に入らねぇんじゃねぇの?」
恐らく核心をついたグレンの言葉に、セドリックが、笑ったまま圧をかける。
「口の軽い騎士は、信用されないよ?」
「俺に当たるなよ」
セドリックがグレンにもう一言、何か言ってやろうとしたその時、応接室の扉が開き明るい声が響いた。
「お帰りなさい、セド!」
セドリックに良く似た顔立ちの、美しい侯爵夫人だった。
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