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「ところで、聖騎士に叙任されて爵位も賜ったら、当然領地も頂けるのかしら?」


カミラは買い物先で林檎を一つ追加するくらいの気軽さでレイヴァンドに尋ねた。


平民にはあまりになじみがなさ過ぎて、アイリスはぽかんと口を開ける。

ちなみに同じく平民である当事者のグレンもついていけていない。

セドリックは面白そうに目を細めていたが、何も口を挟まなかった。


「…領地か。そこまではまだ考えていなかったな」


レイヴァンドが穏やかな口調で返事をする。

名誉職に名誉の爵位。それ以外に実質的な土地となると面倒だな、という事務的な感情も動いていた。


「でしたら、ルウイ村を検討してみてはいかがかしら?」


「あの田舎を?」


カミラの目が細くなり、口元は綺麗に引きあがる。


「平民の大出世ですもの、土地は小さな田舎の村ひとつで十分でございましょう?」


「国境沿いで、アシュトレイヤ家の領地とも近いですね?」


「うちからの支援が期待できましてよ?」


カミラの申し入れにレイヴァンドが目を瞬いた。

政治の話のはずなのに、一瞬だけ何か違う気配がしたのだ。


「おい、こら。待て!!」


カミラの後ろからグレンが手を伸ばし引き寄せた。

その腕の中に閉じ込められたカミラが、振り返って噛みつく。


「何度も何度も言わせないでちょうだい!今、大切な話をしているのだからおまえは黙っていて!」


「その大切な話、絶対、俺が絡んでるだろうが!!!」


グレンに怒鳴られてカミラがふいと目をそらす。


(絡んでいるんだ!!)


アイリスが目を丸くした。


セドリックを見ると、良く分らないけどめちゃくちゃ楽しそうな顔をしている。

これまでの経験で学んだことを活用して、アイリスは一生懸命考えた。


(カミラ、もしかしてグレンと!!!)


思い至った結論に、アイリスの顔が真っ赤になる。

実際、カミラの考えはまだそこまで至っていないのだが、似たようなものだろう。


「つまり、この男を聖騎士にして、男爵にして、実家の近くに領地を持たせたいのですわ!」


まったく「つまり」に繋がっていない申入れにレイヴァンドが噴き出した。


大声で叫ぶカミラの口を、勢いよくグレンが抑えて黙らせる。

カミラはくぐもった声を出して、グレンを睨みつけ不満を告げている。


「分かった。おまえが言いたいことは分かったから少し黙ってくれ!」


ついにグレンが折れた。

カミラは少しだけ大人しくなり、グレンを見上げる。


「聖騎士の称号と爵位と土地。もし全部揃ったらちゃんと俺が言うから…」


カミラの耳元で、カミラにだけ聞こえるようにグレンが囁いた。

カミラがぴたりと止まった。


アイリスは色々と察して両手で顔を覆ってじたばたしている。

セドリックはレイヴァンドに目をやってにんまりと笑った。


レイヴァンドは何を見せられているのか、一瞬考えを巡らせた。

だが、どう考えても何だか甘酸っぱい。


先程までは国防と国益の最重要項目の会談だったはずだ。

なんなら、クゥ・ルーイの取引の話までは政治だった。

レイヴァンドは一度大きく息を吐いた。


「……うちの騎士が、お気に召したんですね?」


すべてを考慮した上で弾き出された答えが、こんなもので良いのか。

そう思わなくもないが、一応話をまとめてみたのだった。


「そんなことは言っていないわ!!」


だというのに、そんなレイヴァンドの心の葛藤を台無しにするようなカミラの返事に脱力する。だが、それも含めてエルダリア国には損がない。


とはいえ、例え心でそう言い聞かせたとしても、このモヤモヤは吐き出したい。


「セド…」


「何ですか?」


とにかく誰かに愚痴を言いたくなって級友に振ってみる。

セドリックは元通りすました顔に戻っている。


「面白い話は一つずつ持ってきてくれ…」


「殿下もお忙しいでしょうから、まとめさせていただきました」


残念ながら、僅かな希望も聞いてもらえそうもなかった。


今、レイヴァンドの疲れた気持ちを共有してくれそうなのは、ずっと置物のように声を殺して部屋に控えている大司祭サイファと騎士団長オルガだけだった。


アイリスは堪えきれない好奇心でカミラにこっそり耳打ちした。


「どうしてルウイ村なの?」


「実家から馬車で一時間の土地ならお父様とお兄様を説得しやすいもの…」


つんと顔をそむけたカミラの耳が赤くなっている。

アイリスは思わずぱぁっと破顔した。


(カミラったらお嫁に来る気なのね!!!)



いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。


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