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「それでは、こちらの二人を騎士団からの護衛としてアイリス様に就かせますな」
事情を聴き終えた二人の騎士が、護衛の任務に納得したことを受けて、オルガが書類に承認印を押した。
大司祭と騎士団長のトップダウンという異例の手順のため、恐ろしい早さでの決裁完了だった。
「書類決裁がこんなに早く進むの、初めて見たぜ…」
グレンが思わず呟いた。
カミラの腕の中でクマが気付かれないようにこくこくと首を縦に振った。
「やるべきことをやってなかったのだから、このくらいは当然だわ」
相変わらずカミラは偉そうだ。
「さぁ、神殿に戻って、神殿の決裁もぶん取るわよ!」
団長の決裁により、早々に護衛に決まったセドリックとグレンは苦笑しながらカミラに従う。
嵐のような聖女訪問に、オルガはほっと息を吐き、素晴らしい笑顔でカミラ達を本部の出口へ案内する。
恭しく馬車に押し込むと、清々しい顔で手を振った。
「ちゃんとお仕えするんだぞー!」
走り出した馬車でカミラとアイリスは顔を見合わせた。
「…思ったより図太い男ね、オルガ・トレイスト」
「面白い人だったね?最後はお土産までくれたし、いい…」
「まさか、『いい人』とか言い出さないわよね?」
アイリスは言葉を遮られて困惑したように首をかしげた。
「いい人だったよね?」
「なんておバカ!!!!」
カミラの罵声が馬車の外まで響く。
馬車と並走して馬を走らせていた二人の騎士は顔を見合わせた。
「グレン、おまえはどう思う?」
セドリックがグレンを見る。
少し沈黙したあと、グレンは短く答えた。
「…分からねぇな」
セドリックが苦笑した。
「そうだよな、俺も同意だ」
馬車の様子を窺い見るが、ぬいぐるみに向かってキーキー言っているカミラから何かを察することは難しい。
「判断材料が少なすぎるね…」
「だから、わざわざ神殿に出向くんだろ…」
オルガから神殿の動向を確認するように指示が出ている。
元からそのつもりだったが、念を押されたということはそういうことだろう。
「神殿の言いなりだって言うから放っておいた聖女が、急に牙を向いたんだもんねぇ」
「牙って言うのか、あれ」
「まぁ、正当な要求なんだけど、乗り込み方が普通じゃないのは確かだね」
いずれにせよ何が起きているのか、情報収集は必要だろう。
「見えてきたよ、神殿だ…」
「…ああ」
緩やかにスピードを落とし、馬車が停車する。
慌ただしく飛び出してきた司祭たちが、馬車の扉に手を掛けた。
「あら?気が利くようになったじゃないの」
差し出された手に、優雅に自らの手を重ねて馬車から降りる。
「完璧な淑女の所作だ…」
「おまえが言うなら、相当なんだろうな」
「少なくとも下級貴族ではない。まぁ、一応、神の使いって可能性もまだあるけどね?」
司祭たちの戸惑った視線が、アイリスの様子がただならぬものだと言うことを物語っている。
「いずれにせよ、あの図太さは驚異的だな」
「聞こえているわよ、失礼ね!」
カミラに怒鳴られてグレンが飄々と肩をすくめた。
「あと、そこらの貴族並みにヒステリーだな」
「何ですって、この無礼者!!」
手にしていたぬいぐるみでグレンを叩く。
「待って!それ、アイリス嬢なんじゃ…」
「目が回りますぅぅぅ」
セドリックの制止も間に合わず、振り回されたアイリスから小さな悲鳴が漏れる。
はっとカミラは手を止めて、アイリスをきゅっと抱き締めた。
「何て酷いこと!!」
「いや、おまえのせいだろ」
「お黙り!!」
とんだ茶番だ。
セドリックが思わず吹き出した。
落ち着きなく三人が(正式には四人だが)騒いでいると神殿の奥から大司祭サイファが現れる。
これまでアイリスには無関心とも言えるほど、関わりがなかったはずだ。
それがわざわざ出迎えに出てきた。
セドリックはその意味を素早く計算する。
「お帰り、アイリス。そちらの二人が君の護衛になるのかな?」
「ええ、そうよ。こっちの平民が目当ての騎士。もう一人はおまけね?」
サイファはグレンの横を素通りすると、セドリックに丁寧に腰を折った。
「まさかヴァリエール家のご子息にお護りいただけるとは…」
「はは。この場ではただの部隊長です。あなたの方が身分が高いのだから畏まらなくて良いですよ」
ちらり。
カミラに視線を流す。
「それに、聞いての通り私はグレンのおまけだからね?」
サイファがカミラに向き直る。
「そうなのかい?」
「最初に言ったでしょう。平民の騎士にすると」
揺るぎない笑顔にサイファが首を振った。
「いや、この方は…」
「私は構わないよ?聖女の希望に無理やり割り込んだのはこちらだ。もっとも、あなたの許可は必要になりますけど」
やんわりとサイファを制してセドリックは人好きのする笑顔を浮かべた。
「あなたがそうおっしゃるなら…」
「セドリックの許可は必要ないのよ、さっさとしなさい」
大司祭にすら物怖じしなくなったアイリスを見て、司祭たちが囁き合う。
「本当にあれがアイリスか?」
「あのおとなしく従順だった娘が…」
ひそひそと交わされる小さな声は、意外と人の耳に届くものだ。
「大司祭様にまで噛みつくなんて…」
誰の口からというわけでもなくさざ波のように広がっていく。
――あれでは、狂犬だ。
そして、それが耳に届いた瞬間、二人の騎士達は爆笑した。
「ぶは…っ!犬だと!?悪魔ですらないじゃねぇか!!」
「狂犬聖女!!面白すぎる!」
「さっきからうるさいのよ!舌を引き抜くわよ!」
カミラの怒鳴り声が響き渡った。




