【095】ゼインが誇る仲間たち
ビアトリクスは、寝起きに見知らぬ天井を見上げた時、自分がどこにいるのかわからなかった。
しばらくして、ここがリューベックにあるアリステアの屋敷だと思い出した。
四日ほどの強行軍だったが、自分ではそれほど疲れていないつもりだった。
しかし、柔らかい布団で眠るのは久しぶりだったこともあり、思っていた以上によく眠れた。
ビアトリクスは着替えを済ませると、一階の食事が用意されている部屋へ向かった。
扉を開けると、すでにエルヴィスたちが席についていた。
セミラミスが、部屋に入ってきたビアトリクスに声をかける。
「おはよう。よく眠れた?私はよく眠れたわ」
「おはよう、セミラミス。思っていた以上に疲れていたのかもしれない。
朝まで一度も目が覚めずに眠れたわ」
「今、朝食の準備をしてくれているみたい。
もう間もなくできるそうよ」
その時、扉が開き、先ほどまでフォルタンと話していたアリステアが、ゼインと共に部屋へ入ってきた。
「おはよう。まさか俺が最後になるとは思わなかったぜ。みんな早起きだな。
それにマザラン、昨日までの強行軍で疲れ果てていたから、今朝は起きてこられるか心配したぜ」
「ゼイン、朝からそれですか。
確かにこの中で私が一番体力はありませんが、それでも四日程度の強行軍についていけないほどではありませんよ。
それより、アリステア殿に私たちを紹介していただけませんか」
「ああ、そうだな。
皆も揃っていることだし、そうしよう」
ゼインはそう言って振り返り、アリステアに自己紹介を促した。
アリステアが一歩前に出ると、皆も席から立ち上がった。
アリステアは丁寧に一礼し、挨拶を始めた。
「皆さま、おはようございます。
昨晩は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
おかげさまで、ゼインと昔のことをゆっくり話すことができました。
申し遅れましたが、私はアリステアと言います。
ゼインと同じナホトカ出身で、十五歳の時にゼインと一緒にナホトカを離れました。
今では草原の若き王と言われることもありますが、元々はゼインに付き従う者です。
そして、その立ち位置は今も変わっていないつもりです。
今後は皆さまと同じように、私もゼインと共にありたいと思っています」
アリステアが挨拶を終えると、ゼインがその後を引き継いだ。
「アリステアは、俺が小さい頃からの幼馴染だ。
よろしく頼む。
それじゃ、俺から皆を紹介しよう。
ビアトリクス以外は、全員ルグルスの大森林で共に過ごした仲間だ」
ゼインは、まずエルヴィスを紹介した。
「エルヴィス。剣の腕は一流だ。
こんな涼しげな顔をしているが商才もあり、サイラス商会でも活躍している。
それにルグルスの大森林では、仲間をまとめるのもうまく、盗賊団を任せることも多かった」
「マザラン。昨日話をしていたブランドンの弟子だ。
この中で一番歳が若いが、物事を一番よく理解している」
「エイナル。弓の使い手だ。
強弓も短弓も両方扱え、馬上からでも正確に的を射抜くことができる」
「ブーディカ。細身の剣を使い、鎧の隙間を正確に狙えるほどの腕を持っている。
元々は俺たちから商隊を守る護衛で、正反対の立場だったが、俺が彼女の剣の腕に惚れ込んで仲間になってもらった」
「セミラミス。元貴族だったらしい。
仲間になるのに詳しい素性は必要なかったから、詳細は聞いていない。
俺たちに比べれば剣の腕は劣るが、その辺りの男たちよりははるかに強い。
エルヴィスと同じように仲間をまとめるのもうまく、信頼に値する女性だ」
「最後だが、あんたは自分で紹介するか?」
ゼインがそう促すと、ビアトリクスは頷いて口を開いた。
「サイサリス公国の公女、ビアトリクスと申します。
現在はゼインたちと行動を共にし、公国の再興を目指しています。
縁があってアンドラ公国から救出してもらい、サイサリス公国の再興をゼインたちにお願いしています」
ビアトリクスの自己紹介を引き継ぐように、ゼインが口を開いた。
「アリステア。
ビアトリクスは昔、自分たちの先祖が挙げた功績で生き延びている貴族とは違う。
どちらかといえば、俺たちに近い人間だ。
俺は俺のためにサイサリス公国を再興したいと思っているが、ビアトリクスは俺たちの信頼を裏切るような人間ではない。
この面子で、サイサリス公国を再興するつもりだ」
ゼインは、まるで「俺の仲間の実力をお前に見せたい」と言わんばかりに、誇らしげにアリステアへ皆を紹介していた。
仲間たちを一人ひとり楽しそうに語るゼインを見ながら、アリステアは思った。
自慢の仲間なのですね。
私も、その一員に加えていただきます。
「ゼイン、現在の我々の状況と今後の方針については、手紙で確認しています。
昨夜は私のために時間をいただきましたが、こちらの出発準備はすでに整っています。
早速出発することも可能です」
アリステアが判断を求めるように視線を向けると、ゼインは答えた。
「ここで少々慌てたところで仕方ない。
せっかく用意してくれた朝食を、無駄にする必要はないだろう」
皆が席に着き、運ばれてきた朝食を食べ始めると、アリステアが話を続けた。
「このリューベックには、護衛として草原の民を二百騎ほど引き連れてきています。
ここからキール将軍がおられるアラモまでの道中は、我々二百騎が護衛します。
それと、草原中央の七つの部族、二万人を超える民も、アラモへ向けて移動を始めています。
その中には、戦闘に参加する四千騎も含まれています。
後日、アラモで合流することになると思います。
二万人を超える民を養う食料と住居の準備は、アラモで可能でしょうか」




