【094】アリステアとフォルタン、草原の未来を語る
「アリステア、私はまだ何もしていません。感謝されるには早いと思います。
すべての事情を知っているわけではありません。
ですが、ビアトリクス公女お一人を連れて、キール将軍の守るアラモへ入ったところで、どうなるのでしょう。
それだけで、サイサリス公国を再興できるとお思いですか」
「そのために、草原の民四千騎がいるのだと考えています。
これまで幾度となく我々と敵対してきた草原西部の部族は、キール将軍の守るアラモを攻め、そのたびに敗れたと聞いています。
彼らも同じ草原の民です。
結果だけを見れば、草原の民は平原の民よりも弱いということになるでしょう。
しかし私は、戦い方次第では、草原の民もアンドラ公国の軍に負けない力を発揮できると考えています。
フォルタンは、どう考えますか」
「我々草原中央の部族は、平原の国であるサイサリス公国と交戦したことがありません。
しかし、キール将軍が守るアラモを攻め落とせなかった草原西部の部族とは、長年争いながらも決着がつかなかった。
それを考えれば、我々がアラモを攻めても、結果は同じでしょう」
「確かにフォルタンの言う通りだと思います。
しかし、西部の部族がアラモで行ったのは攻城戦ではありませんか。
騎馬の特性を考えれば、城を攻める戦いには向いていないと思っています。
野戦に持ち込むことができれば、我々草原の民が平原の国であるアンドラ公国に勝つことも可能ではないか。
そしてそれは、他の国を相手にしても同じだと考えています」
「そうですね。
野戦であれば、我々草原の民が平原の民に打ち勝つことはできると思います。
しかし、アンドラ公国が野戦に応じるでしょうか」
「それは、やりようがあると思っています。
どうすればアンドラ公国を野戦に引き出せるのか、ゼインたちと相談していきたいと考えています」
ゼインたちと相談するのは自分の役割だと、アリステアは思った。
自分たちの強みを生かせる戦い方があるのなら、わざわざ不利な戦をする必要はない。
久しぶりに共に戦うゼインが、どのように考えるのか楽しみでもあった。
「それはそうと、西部の部族との連絡はつきましたか。
彼らの生活域を、我々草原中央の七つの部族、二万を超える民が通ることになります。
なるべく争わず、平和裏に通過したいと考えています」
フォルタンは、アリステアの考えを理解していた。
「先日、使いを出したところですので、結果はまだわかりません。
草原西部の部族は、これまで我々と争ってきましたが、今回の移動によって、草原中央から七つの部族が離れることになります。
我々が旧サイサリス公国領のアラモへ向かうと知れば、西部の部族にとっても、草原中央まで活動範囲を広げる機会になるでしょう。
それに、サイサリス公国の再興がうまくいけば、公国と草原との間で食料の取引を行うこともできます。
草原の食料事情も、今より改善されるはずです。
使いには、そういったことも併せて伝え、交渉するように命じています」
さすがフォルタンだと、アリステアは思った。
「こちらが西部の部族に対して、一方的に休戦を求める形になっています。
今後の草原のことを長い目で考えてもらえると、我々も動きやすいですね」
「確かにアリステアの言う通りです。
しかし、先ほど私は草原を統一したいと言いました。
我々がそう考えている以上、西部の部族が今回の申し出をどのように受け取るのかは、わからないところです」
「そういえば、フォルタンは草原の統一を望んでいましたね。
西部の部族にも、同じように統一を志す者がいると考えるのが自然でしょう。
ただ、彼らはキール将軍の守るアラモを攻め、そのたびに敗れている。それでも攻撃を繰り返してきました。
戦況や地形を十分に考えず、力で押し切ろうとする者が率いている可能性もあります。
そうである以上、こちらも備えを怠るわけにはいきません」
「そうですね。
しかし、草原中央の七つの部族、二万人を超える民が移動し、その中に四千騎がいるのです。
これだけの規模で移動する我々に、西部の部族が攻撃を仕掛けてくる可能性は低いでしょう。
ただし、隙を見せれば攻撃してくると考えておいた方が良いと思います。
それと同時に、今後の草原の在り方について話し合いの場を持つ。
それが落としどころではないでしょうか」
フォルタンの言葉に、アリステアは賛同した。
「サイサリス公国の再興後は、草原中央の七つの部族の者たちに、公国に残るのか、それとも草原へ戻るのか、それぞれ選んでもらいたいと考えています。
まだ先の話になりますが、その時が来れば、フォルタン、あなたが草原へ戻る者たちを率いてくれませんか」
「今より草原が暮らしやすくなっているのであれば、私が率いる必要はないと思います。
若い誰かに任せて、私はアリステアと行動を共にすることにしますよ」
「フォルタンにそう言ってもらえるとは、とてもうれしいです。
しかしフォルタン、あなたにはサイサリス公国再興まで、ゼインの護衛をお願いしたいと思っています。
私がゼインを知っているように、あなたにもゼインを知ってほしいのです」
フォルタンは少し驚いた顔をした。
「できれば断りたいところだ。
しかし、どうしても私に任せたいのだろう。
アリステアは顔に似合わず、一度言い出したら聞かない頑固者だからな」
「さすがに私のことをよく知っていますね。
今回リューベックに連れてきた一騎当千の強者たちは、ゼインの直属として、その護衛を務めてもらいたいと考えています。
あなたが賛同してくれれば、他の皆も嫌とは言わないでしょう」
フォルタンが、少し試すような口調で言った。
「途中でゼイン殿が嫌になって、草原へ帰ると言い出すかもしれんぞ」
「そうなれば、諦めます」
「まずはサイサリス公国の再興だな。
草原の民の力を、平原の奴らに見せつけてやろう」
まるで自分に主導権があるかのように、フォルタンはサイサリス公国の再興を口にした。
アリステアは素直に一言だけ答えた。
「はい」
フォルタン、あなたはゼインを知らないから、そのようなことを言うのです。
ゼインという男は、一日一緒にいれば一日分、十日なら十日分、離れがたくなる。
今回率いる草原中央の四千騎も、ゼインと共に戦えば、同じように離れがたくなる。
アリステアは、そうなっても何ら不思議ではないと思っていた。




