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【093】フォルタン、アリステアの決意を受け入れる

ゼイン一行は強行軍でリューベックの村に到着し、三年ぶりに草原の若き王アリステアと再会する。互いに言葉を探しながらも再会を喜び、屋敷で過去を語り合う。アリステアは、ゼインをブランドンのもとへ送り出したのは父代わりのザイドリッツの判断だったと明かす。ゼインはブランドンから学んだ日々や、ガラリヤ王国滅亡の背景に触れ、最もブランドンと近い仲間マザランの存在を紹介すると告げる。二人は馬乳酒を酌み交わし、亡きザイドリッツや母親代わりであったブレンダを偲びつつ、人から受けた好意を大切にするゼインの変わらぬ姿を確かめた。

翌日、アリステアは夜明け前に目を覚ました。

前夜はゼインと朝方まで語り合ったというのに、不思議と疲れはなかった。

久しぶりに胸の奥から湧き上がる充足感が、眠気を吹き飛ばしていたのだ。

身支度を整えた頃、部屋の外から控えめなノックと共に、フォルタンの声が届いた。


「アリステア王、おはようございます」


寝起きとは思えないほど、しっかりとした、いつもと変わらぬ優しい声色で答える。


「フォルタン、王と呼ぶのはやめてほしいと言っているだろう」


アリステアの言葉に、フォルタンは残念そうな声で返した。


「あなた様は草原の若き王と呼ばれるお方です。

広大な草原の中央に住んでいた七つの部族を統一した。

我々の支配者として王と呼ぶのが、なぜいけないのですか」


「その話は何度もしたと思います。

何度聞かれても、同じ答えしかできませんよ」


このやり取りは一度や二度ではなかった。

アリステアは彼らの言い分も十分理解していたが、自分にも譲れぬ理由がある。

だからこそ、毎回同じ話を繰り返すことになっていた。


「我々、草原の民よりもゼイン殿を選ぶとおっしゃるのですか」


「フォルタン、あなたはどちらかを選ぶと言いますが、それは違います。

私はブレンダに連れられて、あなたのいた草原中央の部族に合流しましたが、初めからゼインと共にあるつもりだとお話ししていました。

私にできることをした結果が、今の現状です」


「アリステア、その現状こそが我々草原の民の望んでいた結果です。

何卒、我々と共に草原の支配を目指してください。


この草原には、かつて王が存在したことがありません。


そのため、部族同士の衝突が頻繁に起こり、他国のように発展することもなかった。

あなた様が王となり草原に君臨すれば、草原は飛躍的に発展できます」


「フォルタン、何度言われても答えは同じです。

あなたはブレンダに連れられてあなたの部族に合流した時から、私によくしてくれた。

私は五歳年上のあなたを、他の方とは違い、兄のように慕っています。

草原で暮らしたことのない十五歳の私は、あなたを含めた草原の民の助けもあり、草原中央の部族を統一することができました。

昔、あなた方が私によくしてくれたように、今、ゼインと再び会えた私を手伝ってはくれませんか」


「アリステア、なぜ手伝ってほしいと言うのだ。

命令だと言えば、我々はあなたに従います」


「私がフォルタンたちに命令するのは、戦場だけにしたいと思っています。

フォルタンたちが私を上位者と見るのは構いませんが、私自身はフォルタンたちの上位者であるとは思っていません。

私はフォルタンたちと同格であると思っていますし、そうありたいと願っています。

戦場で私は皆さまの指揮を執っていましたが、それは部分的な事であり、七つの部族がどの方向へ進むかを決めるのは、私ではないと思っています」


アリステアの言葉を聞き、フォルタンは戦場でのアリステアの姿を思い出した。


「あなたの戦場での強さは別格だった。

私より五つも年下なのに、全体を見渡す能力、単独での突撃力、どこを取っても私は敵わなかった。


私はあなたに憧れていたのです。


あなたの指揮のもと、この広大な草原を統一することを夢見ていました。

それは七つの部族の皆が感じたことだと思います。

七つの部族の方針を決めるのはあなただけではないことは理解しています。


部族の代表が話し合って決めるべきだと思う。


しかし、七つの部族がアリステア殿を王にと懇願しても、引き受けてはくれなかったではないか」


「私の能力を評価してもらえるのは、とてもうれしいです。

それは亡きザイドリッツが褒められていることと同じだからです。

ゼインとナホトカを一緒に出て、ウルク王朝の港湾都市ドゥブロヴニクから今日まで連なっている縁だと思います。

私がゼインと知り合わなければ、ゼインと一緒にナホトカを出なければ、この出会いもなかったでしょう。


私は、フォルタンが納得してくれるまで話をするつもりです。

七つの部族から懇願されても王にならなかったのは、ゼインと共にありたいと思っているからです。


あなた方と草原を一緒に統一することはできません。


これまでの良好な関係に基づいて、私を助けてほしい。

ゼインがビアトリクス公女を手助けすることを、後押ししてほしい」


フォルタンは、アリステアと何度となく同じ話をしてきた。

いよいよ今日からゼインと行動を共にする上で、最後の説得を試みたが、うまくいかなかったことを悟る。


「わかりました。

我々草原の民があなたとご一緒できるのは、サイサリス公国の再興までというお話でしたね。

それまで我々はあなたを守り、あなたが成し遂げたいことのお手伝いをさせていただきます」


アリステアは、最後まで草原の統一を果たすために、草原中央の部族の長として王になってほしいと言い続けていたフォルタンが、最後には快く引き受けてくれたことを喜んだ。

今回リューベックに連れてきた二百騎の中にフォルタンを参加させたのは、最後まで説得したいと考えていたからである。

フォルタンは四千騎の中でも中心的な人物であり、サイサリス公国の再興を目指すゼインたちにとっても欠かせない存在だと、アリステアは考えていた。

フォルタンが納得すれば、他の草原中央の部族たちも賛同してくれるはずだった。


アリステアは、頭を下げた。


「フォルタン、感謝します」

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