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【089】レニーとの再会の約束

翌日、ゼインはティモール王朝の屋敷前まで来て、柄にもなく緊張していた。

あの坊やに別れを告げるという行為が、どうしても嫌だった。

しなくてよいならしたくはない。

しかし、レニーに会わずに王都サボーナを離れることは考えられなかった。


意を決してゼインは裏門から屋敷に入り、レニーの部屋へ向かった。

中では、いつも通りにレニーが待っていた。


この二十日間そうしてきたように、レニーは普段通り待っていた。

しかし今日だけは、ゼインの方が普段通りではなかった。

その様子に気づいたレニーが首をかしげる。


「ゼイン、どうしたの? 何か様子が変だけど?」


「レニー、言いにくいのだが、今日が最後だ。

明日、俺は王都サボーナを離れる」


他に言い方はなかったかと、ゼインはいろいろ考えた。

だが、どのように伝えてよいのかわからなかった。

ならば思い切って言葉を飾らずに告げたその瞬間、レニーの表情が揺らいだ。


「ゼイン、大丈夫。元から決まっていた話だから、気にしないで」


努めて平静を装おうとしたが、大粒の涙があふれ出した。


十一歳のレニーは、ケイシーから自分を取り巻く環境を聞いて知って以来、感情の起伏がほとんどなくなっていた。

笑うことも、怒ることも、悲しむこともあまり感じなくなっていた。

しかしゼインと知り合ってからは感情が揺さぶられ、うまく扱えなくなっていた。


「あれ、おかしいな。ゼインごめん、昨晩は自分で納得したつもりなのに涙が止まらない」


ゼインはレニーにかける言葉が見当たらなかった。

レニーを泣かせているのは自分だと知っていたし、悲しませているのも自分だと分かっていた。

自分がそうしたいと思っているわけではないが、そうせざるを得ない理由がある。


いっそ全部をレニーに伝えてしまおうかと思ったが、レニーがゼインの事情を知りたいわけではない。

むしろ、自分が何かを言いたいだけなのだ。


ゼインは細く白いレニーを強く抱きしめた。

折れてしまわないか心配だったが、自分の気持ちを表すには他の方法が見当たらなかった。


ゼインに強く抱きしめられたレニーは、ますます涙が止まらなくなった。

辛抱して嗚咽していたが、我慢できなくなり、大きな大きな声で泣いた。


ゼインはレニーの頭を優しく撫でた。

そうしたかったのではなく、自然とそうしていた。


ゼインは心の中で叫んだ。

レニー、今回は無理なんだ。

今はどうしてもやらなければならないことがあるんだ。

分かってほしい。


二人の時間が止まり、しばらくそのままの姿でいたが、レニーが泣き止み落ち着いてきたので、ゼインはレニーの顔を覗き込んだ。


「レニーは泣き虫か?」


「昨日も今日もだから、そうかもしれない」


「じゃあ、泣き虫レニーは昨日と今日で終わりにしよう」


ゼインの言葉を聞き、レニーはうつむいたまま尋ねた。


「ゼインは泣いたことないの?」


ゼインは遠い昔を思い返した。

ナホトカを出た時。

ザイドリッツと別れた時。

ルグルスの大森林で盗賊をしていた時。

そして盗賊団が壊滅した時。


しかし、それをレニーに語る気にはなれなかった。


「そうだな。ずいぶん昔に、そんなこともあったかもしれん。だが今すぐに思い出すことはないな」


「ゼインと同じようになれるとは思わないけど」


「当たり前だ。お前はお前だ。


他の誰でもない。


誰かと似てなくても、誰とも似てなくていい」


ゼインは少し間を置き、言葉を続けた。


「昨晩、ケイシーからお前を連れ出してくれないかと言われた。

お前にも事情があるのだろう。どういう事情かは分からないが、今回は聞かないでおく。

なぜなら、今回はお前を連れて行くことが出来ないからだ。


次に会った時に、お前が話をしたいのであれば聞かせてほしい」


ゼインはそこで一息つき、まっすぐにレニーを見た。


「そして、未来の話だ。お前はどうしたい。


ここから連れ出してほしいのか。俺はお前の気持ちが知りたい。


お前の気持ち次第では、すぐには無理だが俺にできることをしてやりたいと思っている」


レニーは、ゼインが誠意をもって言ってくれていると感じた。

事情を聞いてから断るのではなく、引き受けられないから事情を聞かないと言っているのだ。

自身の境遇をゼインに話すか悩んでいたが、悩む必要はなかった。


今ははっきりと自分の気持ちを伝えることだけを考えた。


「連れ出してほしいと心から思っています」


「わかった。今すぐは無理だが待っていてくれ。必ず俺がお前を迎えに来る」


「期待して待っています。


突然と思われるかもしれませんが、ゼインと会うのが最後だという日に渡そうと思っていたものがあります。少し待っていてください」


と言って部屋を出ていったレニーの後ろ姿を見て、ゼインは小さくつぶやいた。


「なんだよ、目に元気が戻っているじゃないか」


ケイシーにしてもレニーにしても、複雑な事情があるのだろうと容易に想像できた。

この屋敷から出られない理由があるのは明らかだった。

想像しようとも思ったが、やめた。

答えを導き出すには、レニーかケイシーに直接聞くしかないからだ。


そうした考えを巡らせていると、レニーが一振りの長剣を抱えて戻ってきた。

ゼインが受け取り、鞘から抜く。刃はこれまで見たことのないような輝きを放っていた。

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