表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
85/88

【083】王都サボーナの夜

ティモール王朝に着いた翌日の晩、エルヴィスはゼインを誘い、王都サボーナの歓楽街に足を運んでいた。


エルヴィスは歓楽街の賑わいを楽しみながら、ゼインに声をかける。


「ここ最近はずっとお姫様と一緒だったから、たまには息抜きが必要だろう。

色々と手を打って、今は短い休息と考えて良いはずだ」


ゼインもまた、雑踏の活気とごみごみとした雰囲気を味わっていた。

人がひしめき合う通りや、飲食と夜の店が立ち並ぶ光景に触れると、幼い頃を過ごしたナホトカの街並みが脳裏によみがえった。


「ああ、俺もこの雰囲気は久しぶりだな。うまそうな店を見つけるのは俺に任せてくれ」


ゼインは声をかけてくる女性におすすめの店を尋ねたり、軽くあしらったりしながら、腹を満たせる店を探していた。

エルヴィスにとっては、どこの店でも腹が満たせれば同じことだと考えていたため、店選びはゼインに任せていた。


しかし、予想以上にゼインの店選びは熱心で、時間がかかっていた。

しびれを切らしたエルヴィスが言う。


「おい、ゼイン、ここらでよいんじゃねえか?」


振り返ったゼインは、嬉しそうに笑った。


「ああ、エルヴィスは腹が減っていたな。わかった、さっき通った店にしよう」


エルヴィスは、やれやれといった様子で来た道を戻り、ゼインの背中について店に入った。


店内には丸い四人掛けの卓が三十ほど並び、ほとんどが埋まっていて、大勢の客でごった返していた。

ゼインは若い女性店員に二本指を立てて二人だと示し、空いている席に座れるか確認した。


女性店員は元気よく大きな声で応じたが、周囲のざわめきがあまりに大きく、言葉は聞き取りづらかった。


「二人だね、わかったよ。とりあえず酒とつまみを先に出すから、料理は選んでおいて」


「ゼイン、ここに来るのは初めてなんだろう。ずいぶん慣れたもんだな」


「こういうのは、どこの国でも同じだろう。エルヴィスこそ、こういう料理屋には来なかったのか?」


「俺は腹がいっぱいになれば何でもよかったからな。それに、酒が飲めりゃどこでも構わなかった」


やがて、酒とつまみがすぐに用意され、店員が気安げに尋ねてきた。


「料理は決まった?」


店員は遠慮なく、ゼインとエルヴィスを交互に見やった。

二人とも一般的な男より背が高く、肩幅も広い。


「あんたたち、傭兵だろう?いい体格をしてるからすぐわかるよ。

この時期にサボーナで職探しなんて、ずいぶん酔狂じゃないか。

最近、アンドラ公国がサイサリス公国を奪ったって話だ。そっちに行った方が稼げるんじゃない?」


店員の遠慮ない物言いに、ゼインは口元に笑みを浮かべて答えた。


「残念だが、隣のこの男はこんな体つきをしていても商人だ。

俺は昨日まで、この男に雇われていたんだ」


「へえ。それにしても二人とも、どう見ても傭兵にしか見えないけどね」


「さっきの話だが、この時期の傭兵なら普通はティモール王朝以外を選ぶだろうな。

だが俺は臆病なんだ。命の危険のないティモール王朝に仕官しに来たんだが、仕官の口はあるのか?」


店員は忙しい最中にもかかわらず、整った顔立ちのゼインとエルヴィスに興味を抱いたようで、足を止めて答えた。


「ないことはないけど、ティモール王朝じゃなくてトリポリ公爵の方だね。

うちの王様は貧乏だから、傭兵なんか雇えないよ」


「そうか、貧乏なら仕方がない。

だがティモール王朝に属しているトリポリ公爵は裕福だと聞くのに、なぜ王様が貧乏なんだ?」


「大きな声では言えないが、トリポリ公爵は王様に必要最低限の金しか渡していないらしいよ。

うちの王様は、なぜか若いうちに亡くなる方が多いんだ。

噂ではトリポリ公爵に暗殺されているとも言われていて、それもあって王様は怖くて文句を言えないそうだ」


店員は遠い目をしてつぶやいた。


「そりゃあつらいだろうな。そんな王様にはなりたくねえな」


「そうだね。でもあたしたち民は、トリポリ公爵のことを良く思っていないんだ。

今の王様は五歳で即位した子供だよ。

その前の王様も三歳で即位して、十八歳で亡くなった。

普通に考えれば、トリポリ公爵が好きに操っているって気づくはずだよね。


あたしたちはトリポリ公爵の民じゃなく、あくまでティモール王朝の民なんだから」


「そうか。ここの連中は同じような考え方なんだな。

それほどティモール王朝に愛着があるとは思わなかった。

他の国から見たら、そうは見えなかったな」


「そうだろうね。

もしトリポリ公爵が大公になって、トリポリ公国ができるなら愛着もわくかもしれない。

でも、自分たちの王様が部下の公爵に好き放題されていて、喜ぶ民なんていないだろう。

話が暗くなっちゃったね。すぐに料理を用意するよ」


「ありがとよ。

俺たちは傭兵として雇ってもらえるならどちらでもいいが、二度手間にならなくて助かる」


ゼインはそう言って、小銭を店員に渡した。

店員は少し驚いた顔をしたが、そのまま懐にしまい込む。


「えらく気前のいい傭兵さんたちだね。

ここらで一番うまいと言われているうちのおすすめを、一番いい状態で持ってきてあげるよ」


しばらくして、店員が料理を運んできた。


「王都サボーナの名物料理と、うちの店のおすすめだよ。ゆっくり味わって食べておくれ」


「おっ、待ってたぜ。それと、この店は常連ばかりなのか?

さっきから見ていると、他の客とずいぶん仲良さそうに話していたじゃねえか」


「そうだね、八割ほどが常連さんだよ。あんたたちも明日来れば常連さんだね」


そう言って、店員は片目をつぶってみせた。


「違いねえ、八割の客もそういうことだな」


ゼインとエルヴィスは笑い合った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ