【068】バーンズ、商都の立場を示す
ルーク王と話して、世間の評判以上の人柄である事を実感したバーンズは、姿勢を正し、深く頭を下げた。
「失礼しました。
ルーク王とのお話があまりに楽しかったので、お伝えするのを忘れていました。
こちらが、商都ハンザからのルトニア王国再興とご即位のお祝いの品の目録です」
ルーク王は、目録を手に取り、目を細めた。
「数種類の薬草も入っているのだな。商都ハンザならではの祝いの品だ。ありがたく頂戴しよう」
バーンズは、宝石や細工を施したガラス器、香木なども用意していたが、ルーク王の目に留まったのが薬草であることに満足した。
先の戦乱で医薬品が不足しているだろうと想定して準備したものである。
他の品に興味を示さず、薬草に注目したということは、アンドラ公国に対して戦の準備を進めているのかもしれないと感じた。
しかし、それを言葉にすることはなかった。
「お喜びいただけて光栄です。
その他にも、復興で出費がかさむと存じます。
資金の貸し出しをご希望であれば、即日融資の手配も整えております」
「それは助かる。詳細については、後ほどこのラルフ伯爵と話を詰めてほしい」
短い間を置いて、ルーク王は姿勢を正し、改めて口を開いた。
「それと、我が国はアンドラ公国に対して、すぐに宣戦を布告するつもりはないことを伝えておく。
これは、商都ハンザとルトニア王国が今後も良好な関係を結びたいと考えているからこそ告げるものであって、他意はない。
商都ハンザ経由でアンドラ公国に情報が漏れることを想定しているわけではない」
ルーク王は、物言いたげな視線をバーンズに向けた。
その視線を受け、ルーク王が薬草に強い関心を示したのを戦支度と勘繰ったことが顔に出ていたと悟り、バーンズは心中で後悔した。さらに、ここまで強気にルーク王が出てくるとは想定外だった。
「我々がアンドラ公国に対して、ルトニア王国の方針を伝えるとお考えでしょうか。
我々は商人であり、国家の存亡そのものに興味はございません。
それに、信用という二文字のために命を懸けております。
口が軽いなどと言われるのは心外にございます」
バーンズは、この場において自分自身が商都ハンザそのものであると考えていた。
ゆえに迂闊なことは言えないと思っていたが、それ以上に、信用を得られないことの方が重大だと感じていた。
ルーク王がこの話題を持ち出すということは、今この瞬間、ルーク王は商都ハンザをそのように見ているということだ。
言葉では「仲良くしたい」と言っているが、そのままうやむやにすれば、今後の関係は上辺だけの付き合いになりかねないという危機感を覚えた。
「商都と国家の立ち位置の違いということか。
しかし、商人は情報も金に換えるのではないのか」
「確かに、情報を金に換えることを否定はいたしません。
しかし、それはあくまで商売の一環であり、国家の存亡に直接関わることではありません。
先ほどの王の情報をアンドラ公国に流したとしても、彼らがルトニア王国との交渉を有利に進められるだけでしょう。
対して、我々が得る対価はあまりにも低いものとなるはずです。
我々商都は軍事力を持ちません。
だからこそ、軍事力を補うため、あるいはその代わりとして情報を集め、対策を考えるのは当然のことと考えます」
少し間をおいて、バーンズは口を開いた。
「極端な話をいたしますが、我々としては、ルトニア王国、アンドラ公国、フランク王国、どの国に対しても同じように商売をしなければならないと考えています。
アンドラ公国のみに有利な商売をすれば、ルトニア王国やフランク王国との関係が崩れてしまいます。逆もまたしかりです。
また、ルトニア王国の庇護を受ければ、その存亡と運命を共にせねばならなくなる。
しかし商都ハンザは、大陸全土に商圏を持つ都市です。
これまでも、そしてこれからも、大陸に存在するすべての国と友好的な関係を築くことを望んでおります」
ルーク王はゆっくりとうなずいた。
「なるほど、商都ハンザの大陸における立ち位置は理解した。
そのようにして、三百年もの間、商都ハンザを存続させてきたわけだな。
ということは、この場でバーンズ殿に我々の考え方、ルトニア王国の方針を話しても問題はない、ということか」
バーンズは思わず苦笑した。
「ルーク王、その言い方は少々ずるいと存じます。
はい、いいえで答えられるように見せかけて、実際には「はい」という選択肢しか残されていません。
それに、ルーク王がここで話されることが真実のみかどうかは、我々には判断できません。
さらに、方針の変更があるのも当然のことです。
ゆえに、私がこの場で聞いた話を絶対的なものとして受け取ることはできません」
バーンズの回答を聞いて、ルーク王は大きく笑った。
ルークが思っている以上の答えを聞くことができたからだ。
「ラルフ伯爵よ、商都ハンザのバーンズ殿は、なかなかのやり手と見えるな。
なるほど、この時期に商都ハンザが送る担当官としては、これ以上の人物はいないであろう」
「そうですね。後ろで聞いていましたが、彼はルーク王の話に答えているように見せて、自分の意見をつらつらと述べていましたから、これ以上ない回答をしたと思います」
目の前にいるバーンズを、二人で評価し始めた。
二人の会話に割って入るのも無粋なことなので、バーンズは黙って話を聞いていた。
黙っているバーンズを見て、ラルフ伯爵は口を開いた。
「では、ルーク王。後は私にお任せください。
詳細については、バーンズ殿と詰めたいと思います」
「そうだな、後は任せる。
バーンズ殿、短い時間であったが、とても有意義な時間であった。
嫌味ではなく、数ある国の一つとして、今後ともルトニア王国を宜しく頼む」
そう言って、ルーク王は入ってきた扉から出て行った。




