【067】バーンズ、ルーク王と再会す
商都ハンザを出発したバーンズがルトニア王国へ到着したのは、十六日後であった。
商都ハンザが所有する宿に落ち着くと、城から伝令が来たことに驚いた。
城門を通ってから、まだ二時間ほどしか経っていない。
まるで自分の動きが監視されているような気持ちになった。
バーンズは、自分がそこまで名が通っているとは思っていなかった。
そのため、本来は明日以降に面会を求めるつもりで、既に面会希望の書面を出していた。
希望した日も、明日以降であった。
展開の早さに、バーンズはこれまでのルトニア王国との対応の違いを強く感じた。
これまでのルトニア王国であれば、こちらから問い合わせをしなければ面会時間を設定してもらえなかった。
ファルジュ王からルーク王に変わったことで、王国の風通しが良くなったのかもしれないと考えた。
時刻はまだ昼過ぎであり、今から来られるのであればお待ちするとのことだった。
バーンズはすぐに伺うと返答した。
ルトニア王国に到着してすぐに、新たな王であるルーク王に面会できることとなった。
正直、展開の早さに気持ちが追いつかない部分もあったが、道中で何度もルーク王との面会を想像していたため、慌てることはなかった。
街中では、先の戦乱で傷んだ建物の修復が優先されており、あちらこちらで作業する人々の姿が目についた。
日常生活が完全に戻るまでには、まだしばらく時間がかかると思われる。
一方で、城内の修復は本当に必要な部分しか行われていないようで、前回訪れたときとはまるで別の城のような印象だった。
衛兵の誘導に従って進むと、一室の前に到着した。
そこで、バーンズはふと疑問に思った。
「こちらで謁見の間に呼ばれるのを待つのでしょうか」
バーンズが衛兵に尋ねると、
「いえ、こちらでルーク王との面会になります」
と、何の疑問もない様子で答えられたため、バーンズは思わず驚いた。
「前回、ファルジュ王にお目通りした際は、謁見の間で挨拶をした後に、このような部屋に案内されたのですが。ルーク王は、謁見の間での挨拶を省いて、この部屋で面会されるのですか」
「はい。謁見の間は、他国の方々が我が国を訪れた際の表敬訪問に使われます。
ですが、商都ハンザの方を招いての面会は、表敬訪問とは考えないのではないでしょうか。
実務的な話をされるつもりだと思います。
それに、こちらにお通しするようにと命じられたのは、ルーク王ご自身です。
どうぞご安心ください。すぐにお茶をお持ちしますので、腰かけてお待ちください」
と言って扉を開けて部屋の中に通された。
室内には机と長椅子があり、調度品も一目で素晴らしいとわかるものが数点置かれていた。
長椅子に腰かけると、想像通り非常に座り心地が良い。
机もよく見ると細かい意匠が施されており、非常に高価な品であることがわかった。
この簡素でありながら高価な品々が並ぶ部屋で面会されるということは、面会者に対して威圧感を持って接する意図を排していると感じられた。
謁見の間ではなく、この部屋に案内されたからといって軽んじられたわけではない。
むしろ、別の国の王と実務的な話をするために用いられる部屋なのだろうと思った。
女性の給仕が茶を運び、机の上に置いた。
茶器を見ると、これもまた見事な品である。
通された部屋の格調とあわせて、バーンズは自分が決して粗略に扱われていないことを実感した。
これまでは、謁見の間で通り一遍の挨拶をした後に、別室で家臣を交えて話し合うのが常であった。
しかし、今回はまったく違う対応を求められるのだと悟る。
その時、バーンズが入ってきた扉とは別の扉が叩かれた。
衛兵が顔をのぞかせ、ルーク王のお越しを告げる。
バーンズは立ち上がり、出迎えの姿勢を取った。
間もなく、ルーク王と、黒蜘蛛戦争の戦功によって子爵から伯爵に叙せられたラルフが部屋に入ってきた。
「バーンズ、久しいな」
王子時代に面識のあったルーク王が歩み寄り、握手を求めた。
バーンズはそれに応じ、握手を交わす。
ルーク王に座るよう促され、彼が長椅子に腰を下ろしたのを確認してから、バーンズも腰を掛けた。
ラルフ伯爵は、ルーク王の背後に静かに控えている。
「ルーク王もご健勝そうで何よりです。
この度はルトニア王国の再興と、ルトニア王へのご即位、おめでとうございます」
バーンズは、最後まで迷っていた。
祝いの言葉を先にするか、あるいは父王を失ったことへの弔意を先に述べるか。
どちらの言葉も胸の内に用意していた。
だが、これまでのルトニア王国の対応や、城内の雰囲気を見て、まずは祝意を伝えることを選んだ。
過去よりも未来を見据えていると感じたからである。
さらに、ファルジュ王を討ったのは商都ハンザであり、その件に触れない方が賢明だと判断した。
「そうだな。サイサリス公国の急襲から、わずか二か月で再興できたことは喜ばしいことだ。
ルトニア王国がこの大陸に必要である、ということだな」
ルーク王の言葉を受けて、バーンズは、自身の見立てが誤っていない事を実感した。
「商都ハンザにとっても、大陸にとっても、ルトニア王国がこれから果たす役割は大きいと思われます。
それに、フランク王国のご息女との婚約も整ったと伺い、誠に喜ばしい限りです。
実際のご結婚は、いつ頃をお考えでしょうか」
「そうだな。このまま何事もなければ、一年後になるだろう。
大陸のすべての国、サイサリス公国は除くが、北は、ドライゼン帝国、東はザルツ王国にまで招待状を送っている。
ルトニア王国の再興と復興を示す象徴として、盛大な結婚式を挙げたいと考えている」
「長年争っていたルトニア王国とフランク王国の懸け橋となり、二つの国が一つになる瞬間です。
ぜひとも、私どもも参加させていただきたいと考えております。
ルトニア王国は、ますますの繁栄が約束されることでしょう」
「そのようにありたいものだ。
元々フランク王国と争っていなければ、先日のルトニア王国滅亡もなかったと考えると、感慨深いものがある。
ちなみに、バーンズ殿はご結婚はまだかな」
「良い相手に巡り合うことができず、まだです。
今後の予定も未定です」
「そうか。
私は二歳年上で、しかも二度目の結婚になるが、同年代としては少し先を行っているな。
もし結婚していれば、夫婦の話などを聞かせてもらいたかったが、お互い様ということだな」
「そのようです。
お相手のフランク王国のご息女についてうわさを聞きました。
両親に愛されて育った、聡明な方だと伺っています。
まだお会いになっていないのでしょうか」
「まだだな。
会うのは当日になるかもしれん。
フランク王国と結婚するのだ、容姿と結婚するわけではない。気にしても仕方がなかろう。
それに、どのような容姿であっても気にすることはない。
私は決して見栄えの良い男ではないからな」
バーンズは、一国の王との会話とは思えないほど肩の力が抜けていることに驚いた。
同年代であり、王子時代に何度か面識があったことで親しみを感じてはいたが、まさかルーク王も同じ気持ちで接してくれるとは思っていなかった。
しかし、その人柄に触れたことで、いつもと違う饒舌な自分がいることに気づいた。
商都ハンザでも、世間一般の評判でも、ルーク王は常識人だと聞いていた。
だが、実際に話してみると、それ以上に強い意志を持ち、相手の話にきちんと耳を傾ける王であると認識を改めた。




