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【046】ローガン侯爵、チェド城に散る

サイサリス公国軍の騎馬隊が、チェド城に近づくと、城壁の上から一斉に矢が放たれた。

黒い雨のような矢が、駆ける騎馬兵の上に容赦なく降り注ぐ。

多くの騎馬兵が次々と矢に貫かれ、地面に崩れ落ちていった。


それでも、騎馬隊は突進をやめない。

騎兵の役目とは、本来そういうものだ。

振り上げた拳が血を流すことを承知で、敵の壁に穴を開ける。

その突破力こそが、彼ら騎馬隊の存在意義なのだから。


「副官!計略であったとしてもだ!」


ローガン侯は声を張り上げる。


「我々の背後には、ルトニア王都から引き上げてくる本隊も控えているのだ。

ここで我々がチェド城を落とさねば、誰一人としてサイサリス公国には戻れん。

今は城門が閉じる前に騎馬隊を突入させ、乱戦に持ち込むしかあるまい!」


副官は言い返すのをやめた。


もはや論理ではない。これは覚悟の問題だ。

ならば、自分がなすべきは命令に背くことではない。

その決断を、現実の勝利に結びつけることだ。


馬首を巡らせた副官は、一気に駆け出した。

先行する騎馬隊の後を追い、周囲の歩兵たちとともに城門へと突き進む。

砂煙を巻き上げながら、隊列がひとつのうねりとなってチェド城に迫る。


騎馬隊が城門を越えた瞬間、副官の胸からは自然と安堵の吐息が漏れた。


「よし、突破したか!」


副官はそのまま馬上から怒声を放つ。


「騎馬隊が突入に成功した!我らはサイサリス公国軍、ルトニア王都を一日で落とした精鋭だ!」


さらに声に力を込め、兵たちの背を押す。


「たとえ相手がルトニア王国軍であろうとも、我らの敵ではない!進め、突破せよ!」


罠があるのなら、食い破ればよい。

副官のその決意が、軍全体の勢いとなってチェド城へとなだれ込んでいく。


攻城戦ではなく、乱戦に持ち込めばまだ勝機はある。

騎馬隊が突入したのを確認し、続いて歩兵隊も次々と城門をくぐり城内へ雪崩れ込んでいく。


副官自身も馬を駆って城内へと突入した。


目に飛び込んできたのは、すでに激戦が始まっている光景だった。

城門付近ではなく、城内の各所で味方と敵が激しく交戦している。

おそらく先行した騎馬隊は、敵の布陣を突き破り、さらに奥深くへと進んだのだろう。

その姿は見えずとも、至る所から金属のぶつかる音や怒号が響いてくる。


副官は善戦していると判断し、続々と城内に入ってくる味方に向かって、即座に各所の制圧を指示した。


ほどなくして、城内へ遅れて入ってきたローガン侯が、副官のもとへ馬を寄せた。


「状況はどうか」


副官は即座に答える。


「騎馬隊の突入は成功し、歩兵たちも各所で善戦しています」


「他に何か気づいたことはあるか。罠の可能性は?」


問いながら、ローガンは頭上を見上げる。

城壁の上からは、いまだに矢が断続的に降り注いでいた。


二人は近くの建物に身を隠す。


「今のところは確認できません」


と副官が答えた、その時だった。

チェド城の外から、一際大きな喚声が響き渡る。


すぐに一人の兵士が駆け寄り、声を張り上げた。


「大変です!我々が突破した城門から、ルトニア王国軍が侵入してきました!」


その報を受けた瞬間、ローガン侯は言葉を失う。

副官は、これこそが敵の罠であったと悟った。


城門から、まるで無尽蔵に湧き出すかのように敵兵がなだれ込んでくる。

サイサリス公国軍は、前後を挟まれ、成す術もなく討ち取られていった。


「な、なんということだ!」


ローガン侯は顔を伏せ、震える声でつぶやく。


「攻め込んだ我が軍が、逆に閉じ込められるとは。こんな戦があっていいはずがない!」


それでも副官はあきらめなかった。

外へ飛び出し、乱れる隊列の中で逃げ惑う兵たちを必死に呼び戻そうと声を張り上げる。

だが、ルトニア王国軍の猛攻は容赦なく、兵たちは次々と倒れていった。


ローガン侯は顔を伏せ、小さくつぶやいた。


「アーロン将軍、すまぬ。どうやら、オリバー大公の遺骸を持ち帰ることは叶いそうにない」


混乱と絶望の只中で、ローガン侯は覚悟を固める。

そして、震える声を押し殺し、最後の檄を全軍に向けて叫んだ。


「ここに逃げ場はない!生き延びたければ前へ進め、突き破るしか道はない!」


ローガン侯の声が、瓦礫と悲鳴に満ちた戦場に響き渡る。

その檄に応じ、兵たちは残された力を振り絞り、ルトニア王国軍が押し寄せる城門へと突撃した。

もはや退路は断たれ、進む以外に活路はなかった。


激しい乱戦が続く中、いつしかローガン侯爵の姿は戦場から消えていた。

彼は、名もなきルトニア王国軍の一兵によって、静かに、しかし確かに討ち取られた。


その頃、同じ時刻。


王都を脱出したばかりのデレクとバイロンは、チェド城の戦況を知らぬまま急ぎ駆けていた。

先行していたサイサリス公国軍がリアム侯爵の手で敗れ、ローガン侯爵が討ち取られたことも、まだ知る由もない。


城まで残り三十キロ。今日中に到着し、今晩のうちに部隊の編成を整えるつもりであった。

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