↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
100/104

【098】マザラン、意地の同行

やがて二日目が始まった。

朝日が昇ると同時に、ゼインたちは移動を開始した。


「アリステア、草原の民は昨晩も交代で見張りをしていたのだろう。体力的に問題はないのか?」


「ゼイン、それこそ不要な心配です。

見晴らしの良い草原で天幕を張って暮らしているのが、我々草原の民です。

戦いが起こりそうな時には、交代で見張りをするのが当たり前なのですよ。

慣れたものです」


「そうなのか。慣れてくればエルヴィスとエイナルにも任せられるが、構わないのか?」


「ご心配なく。それより、マザラン殿が心配ですね」


マザランは、昼休憩になってもほとんど食事を口にできなかった。

朝から馬上で揺られ続けていたため、食べ物を受け付けられなくなっていたのだ。

顔は青白く、馬に乗っているというより、乗せられているといった方が正しかった。


その様子を見ていたフォルタンが、アリステアに耳打ちした。


「マザラン殿は無理かもしれません。ゼイン殿に言った方が良いでしょうか?」


しかし、アリステアは首を振った。


「ゼインもわかっているだろうから、言う必要はない」


マザランの様子を見ていたゼインが口を開いた。


「確かに顔色も悪いし、馬にも上手く乗れていない。

しかし本人はやる気だ。やる気がある間は付き合うとしよう」


ゼインがそう話していたとき、並走していたフォルタンがマザランの脇を抱え、馬を止めた。


「停止!」


その声に反応し、二百騎が一斉に足を止めた。

ゼインとアリステアは馬首を返し、マザランのもとへ駆け寄った。


「マザラン」


ゼインの切迫した声に、マザランは何が起こったのかわからない様子だった。

マザランを支えていたフォルタンが言った。


「気を失っていたようです」


マザランは薄く目を開け、かろうじて言葉を返した。


「そうですか。移動を止めて申し訳ありません。もう大丈夫です」


「大丈夫なんだな」


「はい」


「わかった。アリステア、移動を開始しよう」


フォルタンは抗議するような目をゼインに向けたが、ゼインはそれに応えず前を向いた。

そして、今度は助けを求めるようにアリステアを見たが、アリステアは短く告げた。


「移動開始」


アリステアの号令を受け、二百騎が再び動き始めた。

マザランは自分を支えていたフォルタンの手を振り払い、まっすぐ前を向いて馬を進ませた。


フォルタンは信じられないという様子で、ゼイン、アリステア、マザランを順に見やった。

それでも自身も馬を進め、マザランとの並走を再開した。


ビアトリクスはマザランに馬を近づけた。


「マザラン、無理をしなくて良いのですよ」


マザランは前を向いたまま答えた。


「ビアトリクス様、私は大丈夫です」


その後もビアトリクスは、少し休憩しましょう、水を飲みましょうと、何度も勧めた。

しかし、マザランは「大丈夫です」の一点張りだった。


夕暮れ近くまで移動したが、マザランが再び気を失うことはなかった。

やがて一行は足を止め、野営の準備を始めた。


天幕の準備が整うと、マザランは「すみません。今日もお先に失礼します」と言って、すぐに横になった。


その様子を見かねたビアトリクスは、ゼインに詰め寄った。


「ゼイン、なぜマザランにこれだけの無茶をさせるの。

どう考えても彼にこの移動は無理だわ。

あなたにとってマザランが必要な存在なのは理解できるけれど、体力的にここが限界でしょう。

これ以上無理をさせず、明日以降はもう少しゆっくり移動しても良いのではないの」


「ビアトリクス、奴の身体のことなら明日以降はもう少し良くなる。

心配するな。この二日間で身体も随分慣れたと思う。


それに奴のことを考えるなら、無理に合わせて行動しない方がいいんだ。

俺たちがマザランの移動速度に合わせて、奴が喜ぶと思うか。

そうした途端に、護衛をつけて自分だけ後から行くと言い出すだろう。


それに奴が気力を振り絞ってついてきているのは、アラモに着いてから仕事が待っているからだ。

奴はもう、そこからサイサリス公国再興をどう進めるかまで考えているはずだ。

そういう思いを無駄にすることは俺にはできん」


ゼインの話を聞き、ビアトリクスは何も言い返せなかった。


「今も、エルヴィスとエイナルはマザランの身体をほぐしてやっているはずだ。

マザランが諦めない限り、我々は見守るとしよう」


翌朝、マザランが目を覚ますと、同じ天幕で寝ていたエルヴィスとエイナルはすでに起きていた。

エルヴィスはマザランに声をかけた。


「身体の調子はどうだ」


マザランは身体を動かし、自分の状態を確かめてから答えた。


「昨日よりはだいぶ良くなっています。

今日も昨日と同じ速度で移動しましょう」


天幕を出ると、ビアトリクスが近づいてきた。


「身体の様子はどうなの」


「昨日より幾分楽になりました。この調子なら問題ありません」


二人の会話を聞いていたゼインは、何も言わず号令した。


「騎乗!」


マザランは慌てて馬に跨った。

その様子を見ていたアリステアが声をかけた。


「マザラン殿、まだ身体は辛いと思いますが、やれますね」


「草原の若き王と言われているアリステア殿から聞かれると怖いですね。やりますよ」


フォルタンがそっとマザランの隣へ馬を寄せた。

ゼインはよく通る声で告げた。


「出発!」


一行は人馬一体となり、速度を上げていく。

それぞれが替え馬を連れての移動だが、それを感じさせないほどの速さだった。


マザランは、今日も必ずついていくと心に決めた。

徐々に身体が慣れてきているのはわかっていたし、一団がまだ本来の速度を出していないことも理解していた。


今日も長い一日になるだろう。

マザランは前を見据え、改めて覚悟を固めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。