2回目の襲撃
館を出てすぐ、村へと降りる階段に村長の姿を見つけた。護衛に3人、武衛衆がついている。
そっと、その後をつける。気配を消して。
つかず離れず、村の中心部を横切り、村人たちが住む塀の近くへと向かう村長の一行を、決して見逃さないように。
やがて、大きな家が見えてくる。村長の家だ。
(……違ったか?)
もうすぐそこの、自分の家に入ろうとした村長とその護衛——その、後ろの、他の民家の壁際。
ラグヴィルが身を潜めたところから道をはさんで斜め前。
——闇と同化した、それのかすかなうごめき。
「……!」
武衛衆は気付いていない。
とっさに、持っていたナイフを、そのうごめいたなにかに投擲した。微妙に距離があいているが、ともかくやる。
カンッ、と小気味のいい音がした。
投げたナイフは弾かれたようだ。
だが、
「なんだ!?」
「何かいるぞ……」
「……っ!敵襲ー!」
壁から、黒っぽい服を着て剣を持った、おそらく刺客が数人。
それと村長の家の影からも数人。
(8人)
どうやら敵らしい。
仲間の声を聞きつけたらしい武衛衆が、村長の家からあと2人出てきたが、人数的には分が悪い。
ラグヴィルは剣を抜きながら彼らのもとに走った。
敵と思わしきひとりが、こちらに気づいた。その顔は覆面で隠れていて——いつかの何かを思い出す。
「ふっ!」
その刺客と剣を合わせた。交差した剣を力任せに押す。
何度か打ち合っているうちに敵が上半身をわずかにのけぞらせた。それを見計らい、柄を握る手をひねって下げる。刺客はバランスを崩した。
足を下げて退こうとするそれを、剣ごとすくい上げるように斬る。
「はっ!」
その手首をかすめて、わずかに苦鳴を上げた刺客。その懐に飛び込み、脇腹を刺した。肩に相手の剣がかすりそうになり体をひねりながら剣を払う。血しぶき。
そのまま左へと跳ぶように進むと、横から振り下ろされた別の刺客の剣が、空振り——そのままそれはラグヴィルの脇を狙う。それも飛び退き、さらにもう一撃もかわす。
速い、隙がない。ようやく軌跡をつかんで、剣を打ち付ける。
ぎんっと重い金属音、手がしびれた。
周りを見る暇がない。剣を打ち合い、ラグヴィルはふとバランスを崩してしまった。
「……!」
そこを逃さず、振り上げられる剣をとっさにしゃがみ込みこんで回避する。ついでにかかとを相手のすねに打ち当てる。
膝当てがないのは確認済み——ラグヴィルのつま先とかかとに、鉄を入れてある。
痛みを堪えたのだろう、ほんの少し揺れた刺客だったが、すぐにラグヴィルを上から突き刺そうとする。
地面を転がり逃げて——ナイフを投げる。
それは相手の太ももと腰のあたりをかすめた。切っ先がブレた。
そのわずかな隙にラグヴィルはショートソードを抜き、下から振り抜いた。敵の脇をざっくりと深く斬る。
「ぎゃ、あああっ」
悲鳴を上げ刺客は倒れた。
まるでそれと入れ代わるように、別の刺客が、ラグヴィルに斬りかかる。斜め後ろ。ワンテンポ遅れて気づき、わずか数センチでかわす。
びゅっと重い空気を切る音が耳元で鳴る。ショートソードでは、おそらく打ち合えないほどのスピードと重心。
剣はさっき転がる時に落として、手元にない。
「くっ……」
「加勢する!」
声が、聞こえた。
ばっと刺客が飛び退き、遅れて白い剣の軌跡。サッシュの武衛衆だ。
「……っ」
ラグヴィルはとっさに走って、剣を拾った。
そこに振りかぶられる攻撃。それを間一髪逃れて、ほとんど伏せるような姿勢になる。
やぶれかぶれだった。力任せに、背筋を使って跳ねるように上体を起こす——そのタイミングで片手に持っていたショートソードも一緒に上に放り投げた。放たれた刃が相手の顎に一筋の線をつける。
「ぐ、っ!?」
起き上がり、立て膝になり、当てずっぽうに上段に剣を振る。刺客の胸のあたりにラグヴィルの切っ先は引っかくだけだったが——見上げると首筋に別の剣が刺さっている。
血しぶきが、ラグヴィルの頬にわずかに飛ぶ。
「……使者殿か!」
サッシュがようやくラグヴィルの顔を見て気づく。
「ああ、ともかく、終わらせるぞ」
やっと周囲を確認すると、先ほどよりも武衛衆が増えている。村長は入り口に伏せて、その周りに武衛衆が戦っている。
これで、負けることはないだろう。
苦戦している手近な味方に手を貸し——
「怪我がひどい。応急処置をする、その間に知らせろ」
「ありがたい!」
武衛衆が2名ほど、かなり深手を負った。
ほかも多少の怪我をしていて、ラグヴィルも細かい傷を作った。
刺客は半分死に、半分は動けないほどの状態。1人取り逃がしたが、上々だろう。
巡回する武衛衆が騒ぎを聞きつけ、途中で加勢に入ったらしい。それがなければかなり危うかった。
おそらく刺客は、傭兵か暗殺専門の兵だ。
周囲の家の村人たちも出てきて、手当てを手伝ってくれた。
「助かった。心からお礼申す」
村長は無傷で、こちらに深々と頭を下げた。
先ほどの館のことがよぎったのだろう、バツが悪そうだがどうでもいい。
「偶然だ。実のところ、村長を疑ってつけた」
「疑う……ああ、そうか……仕方もない、か」
失笑する村長にいつもの勢いはない。
狙われたのが自分だとわからないほど、呑気ではない男だ。
(これではっきりとした)
村長に、邪念はない。
上手ならこの規模の自作自演もするだろうが、小さな村、それにどう見ても村長は一本気であるがゆえに難儀なタイプだ。隠し事をしようにもできないだろう。
——外に傾倒するな、疑われる。
そのままの意味だ、マイナイの立場上、外の人間に必要以上に接すれば、村の人間がいい顔をしない。そのことを注意したかったのだろう。
ただ、どうにも、いろんなしがらみがレストと村長にあるようだ。
「……数々の非礼をお詫びする。本当にすまなかった」
「いい、」
「そして、次からは儂のことなど捨て置いてくれていい、できることならマイナイ様を……あれを、第一に守ってくれ」
畳み掛けるような懇願と、切実な表情。
「……今のところは、マイナイに何かあったらまずい。そういうことだ」
もちろん、この村の最高指導者に何かあってはいけない。
村長の思いなど知らないが、それだけは否やはない。




