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お爺様が王都に向けて出発されて、少し寂しい毎日。わたしは採ってきた自分用の水晶、隅っこの端っこの形も少し崩れているものを、ちょっと加工してみた。じゃーん!前世に欲しかった、箱庭テラリウムというやつを作ってみた。ガラスで仕切られた小さな空間に、苔とか石とか入れて、作るあれ。苔の緑と黒々とした石の対比。小さな世界。美しい!
水晶がガラスのように薄く綺麗に伸びて入れ物になったのは嬉しい。ちゃんと硬化もして落としても割れないぐらいにしている。勿体ないから薄く薄く伸ばしたから、透明度も上がり、仕上がりはとても美しい。どこかの山奥の聖地を切り取ったようなイメージだ。いいぞ。めちゃくちゃ綺麗。癒されるー。苔も石も村には山ほどある。水晶も形の悪い端っこならば良いとお父様に許可された分だけど、こんなに薄く使ったからまだ残っている。
前世でこれ欲しかったんだよね。貴石や半貴石も良いけど、あまり価値の無いと思われている黒いだけの黒曜石が、この中に置かれるだけで、アクセントになり、引き締まるぐらいの美しさを醸し出す。価値の無いものに価値を与える空間がまるで自分が救われたような気がしたのかもしれない。
箱庭テラリウムを3個ぐらい作った日、お父様に呼ばれた。
「ジェマ、面白いものを作っているんだって?フィーナから聞いたよ。部屋に村の自然の一部が切り取られたようなものが置かれるようになったって。どんなのか見せて欲しい。」
フィーナお父様に報告したのか。まぁ隠すものではないけど、好きで作っただけなんだけどな。こっちの世界の人に箱庭テラリウムって、刺さるものなんだろうか。まったくわからない。
お父様と一緒に部屋に行き、箱庭テラリウムを見せていたところ、ぽかんとされた。これは一体何?っていう顔だな。
「ジェマ、この透明の部分は何で出来ているのだ?」
「お父様、水晶ですよ。前に端っこの目立たないところの水晶なら持って帰って良いと聞いて少し頂きました。それを薄く加工してみました!」
「そ、そうか。で、これは一体何なんだ?」
「これは、箱庭テラリウムといって、ミニ庭園です。本物は密閉されているものもあるそうですが、わたしは開放型にしてみました。苔の緑と石の黒さの対比が美しいと思いませんか?見ているだけで癒されるのです。こっちは苔だけではなくシダも少し入れています。こっちは四角い箱ではなく、水晶を丸くして球体で箱庭を作ってみました。」
「お、おう。ジェマが考えたのか。」
自分で考えたといえば、前世にあったもののパクリだ。そう言い切ってしまうのは恥ずかしい。でも、どこでそれを知ったのだと言えば難しい。こんなのこの世界にあるのかどうかもわからないし。さてどうしようか。
「お父様、西の川に遊びに行った時に、川の黒い石と苔がとても美しく見えたので、それを家でも見たいと思ったのです!」
可愛らしくこう答えておこう。箱庭テラリウムなんて概念もこっちの世界ないだろう。
「・・・子どもの思いつき?遊び?それにしては確かに美しい。不思議な魅力がある。ずっと見ていたくなるのは確かだ・・・それにしても水晶をガラスのように加工が出来てしまうのか。母さんに見てもらおう。」
お父様はぶつぶつ最後独り言のような感じになって、部屋から出ていったなと思ったら、お婆様と再度来られた。
お婆様は、箱庭テラリウムを見て、目を丸くされた。
「まぁ。何でしょう。これ。小さな箱庭なのね。とても素敵だわ。ジェマ、これはどのぐらい期間この姿を保てるの?」
「ええっと、苔さえ、ちゃんと育てることができたら、ずっと育てていけると思う。でも、苔は村にいくらでも生えているから、枯れたらまた違う苔を置いたらいいの。小さなシダも植え替えてもいいと思う。あ、前にお父様にいただいた、真鍮で小さなきのこのオブジェを作ったのを置いても可愛いと思う。」
そう言った後に、収納から取り出した真鍮で1センチぐらいの可愛いきのこを作ってみた。それを箱庭テラリウムにちょこんと置いてみる。思っていた以上に可愛い!!
お婆様がぶつぶつ言っている。最初に完成品の箱庭テラリウムを売って、その後に、苔とか小さなシダとか、きのこのオブジェが売れる?!
「マルク、村にある今まで何の価値もなかった。黒曜石や苔や小さなシダに価値が出るかもしれないわ。どうしましょう。水晶の透明の板の価値は、これはわたくしにも先が読めないわ。」
「母さん、どうしよう。」
「とりあえず、お婆様のお友達に、お試しで貰っていただいたらどうでしょう。うちの村の様子を切り取ってみましたって。」
「そうですね。最初はお譲りして様子を見てみましょうか。見たことが無いものを前に、わたくしとしては恥ずかしいですが、少し興奮してしまいました。」
「そうだよね、村には当たり前にある、黒曜石と苔と小さなシダに何か価値があるとは思っていなかったが、こうして小さな箱庭として作られてみれば、美しいと思える。ずっと見ていたくなるぐらい綺麗だよね。不思議だ。」
「この黒い石は黒曜石ね、厄除けや癒しがあるわね。護符の力もあるのね。でも、それだけじゃないのね。黒曜石と緑が目に優しいというのか、当たり前の素材がこうも美しいものになるとは・・・。
わかったわ、これをわたくしの実家の兄嫁のリーテお義姉様に贈りましょう。あちらは少し都会です。この箱庭を彼女が気に入ってくれたら、また考えましょう。水晶のガラス化は指摘されるまで黙っていましょう。」
お婆様のご実家はお隣の領地だ。それが縁で嫁いでこられたのだ。まぁお爺様がカッコ良すぎてこんな田舎の男爵領だというのに、お嫁さん候補がたくさんいたとも聞く。最後は幼馴染という縁を使ったと、ハンスから教えてもらったことがある。ハンスから聞いたことは内緒だ。お婆様が恥ずかしがるからね。
お婆様に頼まれて、水晶の器を2個作って、1個は苔と黒曜石で基本の箱庭テラリウムを作ってみた。お婆様からそれとは別に、土と苔と小さなシダとカッコの良い黒曜石数個と小さな真鍮のきのこ数個を別で用意しておき、自分で1から箱庭テラリウムを作れるようにして欲しいと依頼された。これは作成キットだ。お婆様面白いことを考えられる。
早速梱包し、リッシャが馬で運ぶようだ。馬車だと半日で着くらしい。馬ならもう少し早く着くだろう、馬車で半日で行けるのであれば、わたしも着いていきたいな。またお婆様にお願いしてみよう。
わたしは作り方をお婆様に伝え、お婆様は箱庭テラリウムの取扱説明書みたいなお手紙を書いておられたようだ。
後ちょっとカッコいいかなと、真鍮でピンセットも作ってみた。小さなシダとか、これで置くとそれだけで、何だかカッコ良いのよ。まぁわたしがそう思っているだけなんだけどね。素手で苔とか触ることがないようなお貴族様にはいいのではないだろうか。土を入れるように小さなスコップもつけておいた。ミニの道具は全部可愛く見えるのだ。
リッシャが戻ってくるのは夜になるだろう。向こうで泊めてもらえるかもしれない。お礼の手紙を持って帰ってこないといけないしね。
お婆様の兄嫁のリーテ様はわたしからみたら、大おば様だ。前世でいえば親戚のおばちゃん程度の距離だ。もちろんお会いしたこともない。どんな方なんだろう。お婆様に聞いてみると、さっぱりした良い方よっておっしゃっていた。サバサバ系女子なんだろうか。
リッシャはやはり次の日に戻ってきた。その大おば様とご一緒だ。何故?
「マルグリット!素敵な箱庭をありがとう。とても素敵だったわ。2個目の自分で作る箱庭は、息子のリヨンに横取りされちゃったの。だから、わたしが作りたくてやってきたのよ!」
大おば様は物凄く元気でアグレッシブな方だった。お婆様のお兄様のお嫁さんなのよね。わたしとは血は繋がっていないけど、少し7歳の自分に似た性格を感じる。
好きなことに猪突猛進してしまうあれだ。
「それにしても、この村はいつ来ても長閑ね。風も気持ちよいわ。あなたが贈ってくれた箱庭は、この村の良いところを切り取っているのがわかったわ。とても綺麗で見ていると癒されて、ほっとしたの。あなたからのお手紙で、2個目は自分で作れるとあったので、チャレンジしようと思ったら、息子が面白がって、母上は完成されたものがあるから、こっちはわたしが頂きますと持っていっちゃったのよ。酷いでしょ。」
大おば様は饒舌だ。お話が止まらない。そしてとても楽しそうだ。前世でいう大阪のおばちゃんみたいだ。陽気で悪気はなく、豪快で、元気で楽しい人なのだ。
お婆様は時々相槌をし、わたしに目で、新しいキットを作って持ってくるように指示する。ここは40歳まで独身でばりばり働いてきたわたしが空気を読みましょう。お婆様の目はいつも雄弁である。
自分の部屋に戻って、水晶の残りで入れ物を作る。15センチ四方ぐらいが可愛いと思うんだよね。高さは10センチぐらいだ。それに黒いカッコ良い姿かたちの黒曜石と、苔と小さなシダに、苔の下に敷く土とスコップ、真鍮のきのこと、真鍮のピンセットのセットだ。土と石と水晶製の入れ物と真鍮製の小物は収納できる。苔と小さなシダだけ大理石の器にいれて手に持ち、お婆様の部屋に向かう。苔とシダはまた自分用を作ろうと器の中で多めに採取して育てていたのだ。大理石の器で苔を育てるのも結構素敵なんだよね。
持ってきたものをテーブルに並べる。苔と小さなシダは大理石で作った器に入ったまま全部持ってきた。
「全部、使わなくても大丈夫です。すべて多めに持ってきていますから。」
「あらあら、可愛らしいわね。マルグリットの孫のジェマちゃんね。リーテおばちゃまよ。リーテおばちゃま!準備してくれてありがとう。」
「リーテおばちゃま?ジェマです。よろしくお願いします。」
お婆様に教えていただいたカーテシーでご挨拶する。お婆様の目が『ヨシ!』と褒めてくださっている。良かった。
箱庭テラリウムキットはリーテおばちゃまの分と、お婆様の分と2個用意したので、お2人で少しはしゃぎながら作っているようだ。わたしはそっと自分の部屋に戻った。
あんなに喜んでもらえると嬉しいね。自分と同じように綺麗だって思ってくれて嬉しい。ただの黒曜石とただの苔、ただの小さなシダなのに、なんで箱庭に入れると綺麗で心が和むのだろう。お婆様は使っている黒曜石が厄除けと癒しのパワーがあるとおっしゃっていたね。
黒曜石はわざと磨ききってつるつるにしていないけど、その素朴さが村の森の中の一部に見えて良い。
リーテおばちゃまにもっと材料が欲しいと言われたが、水晶が品切れだ。薄く薄く伸ばしたけど、端っこの目立たないところで、少ししか採ってきていなかったからね。ティオやネオにあげた水晶を採り上げるのはしたくない。
お爺様が王宮からお戻りになったらまた採りに行けるのでは。王宮に届け出出せば自由に使えるようになるのよね。お爺様は北の辺境伯の山でもかなり大きな水晶が採れる場所があるとおっしゃっていた。うちはホールぐらいの大きさだ。そんなに特別扱いされないだろう。




