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そこから冬の社交シーズンに入った。王都にタウンハウスのないわたしたちは、最初王都の宿に泊まろうとしたが、寄り親の辺境伯様に王都に行くことがばれてしまって、王都滞在中は辺境伯家のタウンハウスに泊まることになってしまった・・・。に、逃げられなかった。
王都まで5日間馬車に乗る。うちの馬車は2台しかないので、マティアスさんに頼んで1台は借り馬車だ。1台目にお爺様とお父様とお婆様が乗りハンスが御者、2台目にお母様とフィーナとわたしとティオとネオが乗りリッシャが御者をする。3台目がお婆様の侍女エレーヌとお母様の侍女のリーゼとドレスなどの荷物がいっぱいだ。御者は借り馬車なので今回臨時で雇った村人だ。王都に行けると手を上げる者が多かったと聞いた。
初めての遠出にティオもネオも大はしゃぎだ。馬車の窓から外を眺め、走る大きな車輪の音に驚き、お尻が痛くなってしゅんとするまでがセットだ。
途中の町で宿泊し、その町の特産物を食べる。うちの芋の方が旨いとお爺様はどこへ行っても言う。今回は大型の石焼き芋器と大量の赤芋を持ってきた。当然だ。ただし干し柿はお披露目程度だ。実は干し柿はお婆様がお好きだから、家の在庫を根こそぎ持ってくることは出来なかったのだ。
ようやく王都について、ハンスが辺境伯家のタウンハウスに馬車を移動させる。えー。大きい。お城みたいに大きい。これがタウンハウス?城じゃん。
みんなお披露目パーティのドレスは作ったけど、移動用はいつもの簡易ドレスだ、気後れしてしまいそうだ。
馬車が止まって、玄関に近づくと、扉が開き辺境伯様自らが出迎えて下さった!びっくり!!
「グラニット卿、グラニット子爵、よく来た。ご家族もお疲れだろう。応接間で休憩すると良い。ジェマ嬢、よく来てくれた。後で話をしよう。」
そのまま辺境伯様にご案内されて、大きな部屋に辿り着いた。お城の中も広くてどこを歩いているのかすぐにわからなくなってしまった。
応接間でお茶を出していただいて、クッキーのようなお菓子もついていた。
食べてもいいのかなときょろきょろしていたら、辺境伯様に話かけられてしまった。あう。
「ジェマ嬢、視察の時はガラスの材料の発見とガラスの製造までしてもらって、感謝する。うちの領地でガラス工房が出来て、先日試作のガラスも出来上がってきた。とても良いものだった。王宮へも献上し、国内外で売って良いと許可をいただいたところだ。
辺境伯領は北に位置して、これといった特産物もない魔物の多いだけの土地だったが、これで産業が出来た。これから発展していくだろう。本当に感謝している。」
いえいえいえ、ガラスの材料の山はそこにずっと在ったわけだし、わたしはただ、ガラスが作れるなと思っただけなのだ。そんな大したことしていないんだけど。
「今は、ガラスの板をメインに作っている。そのうち、ガラスの瓶を作る予定だ。ジェマ嬢なら、ガラスでどんなものを作ろうとするのか、ちょっと聞いてみたい。」
「ええっと。そうですね、ガラスの板が出来るのであれば、次は鏡ですね。銀をコーティングするだけなんですぐに出来ますよ!」
「え?鏡ですか?ガラスを鏡に???」
「ええ。じゃ見ていてください。これは前に頂いたガラスの原料の珪砂と石灰岩と灰です。これを板ガラスにして、楕円にしてみました!そしてこれが銀。王妃様に頂いたものです、これをガラスの後ろにコーティングします。ほら、出来上がり!!」
「え???」
お爺様、お父様、お婆様、お母様はわたしが鏡を作れることは知っているからか、顔を見合わせて全員で苦笑している・・・。
「本当に鏡だ。目の前で作った鏡だ。ガラスに銀のコーティングは難しくないのか?!」
銀のコーティングって、メッキのことだよね、こっちの世界の技術力じゃ難しいのかな。
「えっと。ガラス職人さんにはちょっと難しいかもしれませんね、ただ、錬金術師の人がいれば、作れると思いますよ。現物を見て材料が揃っていれば、錬金術で作れるはずです。見本のこの鏡は差し上げます。」
「そうか・・・だが、辺境伯領に錬金術師はほぼいないと思う。北の貧しい領地に来てくれる人はいない・・・。」
「あの、錬金術師さんのメインのお仕事ってポーション作りですよね。あれガラスの入れ物、ポーションの瓶が必要です。だから、錬金術師さんは、自分でガラス作れちゃうわけです。絶対にガラスの材料を必要としています。もし、ガラスの材料をタダであげるというお話ならば、来てもらえるんじゃないですか?」
みんな目が点になっている。でも、そうでしょ。うちの領地のラングレー先生の家にもポーションの入れ物あったもの。うちの村は薬師はいるけれど、1,000人規模の村全体をミリーおばあちゃんとケインだけでは無理だ。だからその隙間をラングレー先生が初級ポーション作ったりして助けてくれていたのだろう。
「そ。そうだな。錬金術師はポーションを作る前に、必ず入れ物の瓶を作っている。そう言われてみればガラスだ。あれは。そうか、だったら。うちの山、ひとつは珪砂で、もうひとつは石灰だった。他にも探せばそういう山はあるかもしれぬ。山だけなら売るほどあるからな。は、ほんとそんなことで王都の錬金術師を呼び寄せることができるのか・・・。」
少し思案顔の辺境伯様だ。お爺様がうむと咳払いし、
「うちの領地のラングレー先生は王都でも有名な優秀なお方だ。でも、人付き合いが苦手で村に来てくださった。王都の派手な場所が得意な人もおれば、苦手な人もおるだろう。探せば辺境伯領に来てくれる錬金術師も出てくると思われます。」
「そうか、では、王都の錬金術ギルドに声かけしておこう。」
「辺境伯様、王都の錬金術ギルドに行かれるなら、珪砂と石灰を売るほどあることをお伝えしておくと良いと思います。絶対、錬金術ギルドは珪砂と石灰と灰をギルドメンバーに売っています。ポーションを作るために絶対必要ですから。」
「おお。そうか。領地でガラスを作れば特産になるかと思っていたが、その材料の珪砂と石灰岩すら商品になるのか。それは考えたことがなかったな。ジェマ嬢感謝する。」
「いえいえいえいえ。わたしの家がのんびり村で過ごせるのは、寄り親の辺境伯様のお陰です。」
「そうです。辺境伯様にはいつもお世話になっております。非常に助かっています。」
お父様も今言うんだ!今だとばかりに感謝の言葉を伝えている。だって、あんな田舎の辺鄙な男爵領だった場所で自由自足でまったり暮らせていたのは、寄り親様の力だよね。感謝感謝。
なんだか辺境伯様には感謝されて、夕食までは部屋で休憩となった。わたしはまだ子どもだから、ディナーに出なくてもいいのだ。やったー。ティオとネオと子ども部屋で食べることができる。ディナーまで偉い人と一緒じゃ食べた気にならないもんね。
ディナーの会場では、辺境伯様がわたしのことをそれほそれは褒めてくださっていたみたいだけど、気に入ってもらえたのならいいんだろう。
お婆様とお母様は辺境伯家が用意したドレスを着たらしい。お婆様がそれは素敵だったと教えてくださった。お母様は緊張したそうだ。騎士爵からお嫁入してお婆様にマナーを仕込まれたとはいえ、本場の本物のお貴族様の前で実践するのは厳しいだろう。
わたしは本当に子ども部屋で良かった!基本普通のお貴族様のおうちではディナーは10歳までは子ども部屋だもんね。助かった!
次の日、マティアスさんが辺境伯家のタウンハウスまでやってきた。お茶会の披露パーティの調整にきたのだ。なんだか怪しい空気感だ。だって、マティアスさんの横に辺境伯様が立っているよ。
「グラニット子爵のお披露目はうちでしなさい。ちょうど良い部屋もある。規模も10家族程度の小さなものだったら、十分だろう。招待状は既に出しているかもしれぬが、場所の変更のみであれば、王都ならどこでも同じだろう。」
「幸い、使おうと思っていました場所は、グラニット子爵様に現場を見ていただいてから正式に契約するつもりでしたので、キャンセル料は取られません。場所変更は充分間に合います。」
「使用人も使ってくれて構わない。どんな感じにするのだ?」
そう問われて開き直ったお爺様がお答えする。
「村の小麦を使ったパン、特産品のチーズにワイン、蒸留酒に、燻製肉、野菜スープにサラダ、鹿肉のステーキ、石焼き芋と干し柿をお出しする予定です。」
「グラニット子爵家らしい村の恵みだな。ただ、石焼き芋と干し柿とはなんだ?」
「それは村の甘味ですね。最近うちで流行っているのです。後でお出ししましょう、マルク準備してくれ。」
お父様が辺境伯家の使用人と一緒に石焼き芋器の準備をしだす。もううちの家族はティオとネオ以外は全員石焼き芋が作れるのだ。お父様はどこからか取り出した黒い手袋をきゅっと手にはめると慣れた手つきで赤芋を石焼き芋器の上に並べていく。
「おお、これが石焼き芋なのか。石が並んでいるだけではないか?」
「いえ、この石が魔石でどんどん熱くなっていくのです。その熱でゆっくりじわじわ芋が温められて焼けていって、美味しくなるのです。」
「そうなのか。熱くなるのか。なんか凄いな。」
「ほんと熱くなるので、直接触れないようにお気を下さい。」
「その黒い手袋みたいなものはなんだ?」
「これは熱耐性のある手袋で、これをはめていると熱さが手に伝わらないのです。」
「な、なに!?熱耐性だと、付与されているのか?」
「いいえ、これは炭素繊維もどきというもので、炭から出来ているのです。うちの村の錬金術師のラングレー先生が作ってくださっているのです。」
「ほう。さすが!王都にこの天才ありと言われたラングレーか。炭から作れるなんてまったく想像もつかぬが、凄いものだ。わたしも欲しいぐらいだ。」
「あ、在庫持っていますからお渡しできますよ。」
黒い手袋は炭から作っているから、わたしのインベントリは鉱石だと判定していて、入れることが出来るのだ。取り出して差し上げる。
「おお、これは良いな。革製の手袋と違って柔らかくて指が動かしやすい。こうして芋を転がすのか。」
あ、辺境伯様に石焼き芋作らせてしまって良いのだろうか。お父様も目が点だ。辺境伯様は喜々として芋を転がしている。いいんだろうな。きっと。
干し柿はエレーヌが荷物から運んでくれたようで、辺境伯家の使用人が綺麗なお皿に載せて運んできてくれた。綺麗なお皿の上に干し柿がちょこんと載っている、なんだかちょっとシュール。
「辺境伯様、干し柿は真ん中に大きな種があるので、それは食べられないので気をつけてください。」
ちゃんとお伝えしておかないとね。お婆様とお母様、ティオとネオはお上品に座ってお茶とクッキーをご馳走になっている。わたしも隣に座っているんだけど、ついつい口が出てしまう。お婆様が目で少々はしたないですわと訴えている。ごめんなさい。
お皿の上に載った干し柿に気づいた辺境伯様は黒い手袋を外して、席に座られた。フォークとナイフも当たり前のように準備されている。干し柿をフォークとナイフで食べるのか!?
丁寧に小さく切り取られた干し柿を口に入れられる。と、目が丸くなっている。
「ほう。これは・・・。甘いな。ねっとりとした甘さなのに、嫌ではない。砂糖の甘さとはぜんぜん違う。ドライフルーツなのか。」
「ええ、これは柿という果物を干したものです。柿はうちの村の雑木林で自生しているものです。」
「そうなのか。これはしみじみ旨いものだな。」
「辺境伯様、石焼き芋も出来上がりましたよ。」
お父様が声をあげると、辺境伯家の使用人がわらわらと出てきて、お皿に載せ、少し毒見されて、辺境伯様の前に差し出された。
「ほう。これは赤芋だな。グラニット子爵家からいただくから知っておる。赤芋はスープに入れるのだと思っていたが、石の上で焼くとは本当変わった調理方法だ。どれ。物凄く熱そうだが・・・。ん。あついが旨い。これはなんだ。本当に赤芋か。驚くぐらいに甘い。さっきの干し柿も甘かったが、これも非常に甘い。驚いた。」
これはやられたというようなお顔をされた。お爺様をはじめうちの家族は全員、してやったりの顔だ。
「この石焼き芋器はいただいていないぞ。いつ作ったんだ?」
「これは今年の収穫祭で村人に披露しました。」
「そうか、作って間がなかったのだな。毎年赤芋をもらっておる。この石焼き芋器は我が家でも活躍するだろう。」
「今回、披露パーティで使うため、1台持ってきた石焼き芋器をそのまま辺境伯家に進呈いたします。」
「おおそうか、それは良いな。この大きさなら一度に30本は焼けるだろう。今回は10本か、セバスも味見で食べておきなさい。あと、リンナとカナンたちにも食べさせておくように。そうでないと主催のうちが食べて驚いていたら恰好がつかぬからな。それにしても旨い!!」
辺境伯様は始終ご機嫌だ。うちの披露パーティは辺境伯様のおうちで恙なく終わると良いな。干し柿も石焼き芋も手ごたえ良かったしね。




