43
今日は、ハンスが採ってきてくれた柿を干す準備だ。
村の南のアルノーおじさんのところのワイン農家にまずは行く。おじさんが蒸留器で作ったブランデーを買うのだ。一番アルコール分が高いものがいい。こっちの世界では、酒精が強いっていうんだよね。
「おお、ジェマ久しぶり、今日はなんだ?お使いか?」
「アルノーおじさん、このワイン農家で一番酒精が強いのを下さい!!」
「酒精が一番強いのは、実験で作っているブランデーだな。」
「じゃ、それを1本下さい!」
「なんだ、これはまだ実験段階でそんなに旨くないぞ。」
「いいんです、いいんです。そのまま飲んだりしないから。」
「そうか、じゃ。また、美味しいものが出来たらたくさん買ってくれよ!」
一緒に着いてきたリッシャが自分用にワインをこっそり買っている。お爺様とお父様にもお土産に買って帰ろうか。ワインはインベントリに入らないから今回は干し柿用だけでいいや。
帰りにリュシアンに見つかった。
「ジェマ、リバーシをもう少し作って欲しい。俺とコレットだけで遊んでいたんだけど、おやじも、じいさんも遊びだして、南地区のみんなも対戦しているのを見に来るんだ。俺が遊べなくなってきた。頼む!!」
リュシアンには最初から親戚だからあげようと思っていたんだ。リバーシは全部石で出来ているからインベントリにも出来上がったものが収納されているので、2組渡す。
「おお、いいのか。助かった!!ジェマともまた遊んでやるよ!」
「また今度ね、わたしも今日は忙しいの。」
「ああ、わかった。ありがとうな!!」
リュシアンに手を振って別れる、リュシアンは大事にリバーシを2組持っているから手を触れない。笑顔で、またなーと声が聞こえた。
家に戻ってきたら、ハンスが柿の実をたくさん採ってきてくれたようだ。籠にたくさん入っている!柿だ。柿。本当に柿!!
オットーに麻紐を用意してもらって、マルタに小刀を借りようとしたら、お嬢様危ないからわたしが代わりに剥きますと言ってもらった。
7歳の手は小さい。お願いしようか。
まずへたを麻紐で括って柿はニコイチでセットするサクランボみたいだ、マルタにしっかり石鹸で洗った手で皮を剥いてもらう。
軒下に棒を下げてもらって、柿を吊るす。吊るした柿をブランデーで表面を拭いていく。こっちの世界焼酎はないもの。ブランデーでいいや。
たぶん、これで大丈夫。3~5日干して、もみもみして、更に干してを繰り返して、柿が透明な感じになって、表面に白い粉がふいて2週間ぐらいたてば出来上がりだ。
外も随分寒くなってきた秋は一瞬だな。
干し柿はハンスがたくさん採ってきてくれて、マルタが皮を剥いてくれたから、大量にできた。出来上がったものは先に2人に食べてもらいたい。
石焼き芋の時と同じように、試食会をすることにした。
「じゃーん!干し柿です!!」
「ジェマ?大丈夫なの。これはシブイ木の実よね。ジェマがここ何日か何かやっているとは思ったけど、食べられるの?」
「おお、これが前にジェマが言っていた干し柿か、出来たのか?!」
「ええ、出来たのです。干し柿です。甘いですよ!」
「なに?甘いの?本当に?」
村の子どもは一度は食べてこりごりした経験があるシブイ木の実だ。なかなか食べようと思えない。そこは主人思いのハンスがえいやっと口にした。
「あ?甘いです。これ。渋くありません!!なんて上品な甘さなんだ。」
「え、ハンス本当か!」
「はい、旦那様、とても美味しいです。」
「ほらほらほら。みんなも食べてみて。」
まだ一度も渋柿を口にしたことがないティオとネオが姉さまが美味しいっていうのならと手を出した。
「あ、姉さま、美味しいです。甘いです!!」
「ねえたま、これもおいちいです。」
「まぁティオとネオまでも美味しいのなら、美味しいのでしょう。」
お父様とお母様も手に取る。お爺様とお婆様もとりあえず恐る恐る手に持った。
凄い覚悟の顔をして口にしてみると、
「なんだ、これは。美味しい。甘いよ!」
「まぁ美味しい。ほんと、美味しいわ。」
「ジェマ、凄いぞ、食べられなかった木の実が食べられるようになったぞ。」
「あら、これは確かに美味しいですね。」
「へへへ。マルタも食べて、マルタがいっぱい皮を剥いてくれたから出来たんだよ。」
「ジェマお嬢様、とても美味しいです。あのシブイ実がこんなに美味しくなるなんて。」
「ハンス、あの木の実はどのぐらい残っておった?!」
「木の半分以上は残っていましたね。」
「あの木は雑木林の左側に大きなものが1本あるだけか?」
「いえ、お義父様、山の奥にも何本かあるのを見たことがあります。」
「ジェマ、この干し柿はどのぐらいで作れるのだ。」
「干して2週間ぐらいです。でも実がジュクジュクになったら皮が剥けなくなるから、実が熟してしまう前に採ってこないとダメかも。」
「そうか、ハンス、今から柿の実を採りに行くぞ!!マルクもこい。リッシャも行くぞ。」
美味しいとわかってからもぐもぐ食べていたお父様とリッシャがお爺様に連れていかれる。
「お爺様、柿の木は折れやすいから気をつけてね。」
「ああ、わかった。ジェマ大丈夫だよ。ハンスは風の魔法が使えるから、登らなくても採れるのだ。」
え、知らなかった!ハンスは風の魔法なんだ。
「こんなところで役立つとは思っていませんでしたけど。」
ハンスは苦笑しながら、お爺様の後を追う。お爺様めちゃくちゃ急いでいるけど、かなり気に入ったのかな。
残ったお婆様、お母様、ティオにネオ、オットーやフィーネ、マルタも残りゆっくり食べる。
「このねっとりした感じ、甘すぎないけど、甘いのがいいわね。」
お婆様が一番気に入ってくださったかも。そうでしょ。そうでしょ。干し柿は大人の甘味だと思う。まぁこっちの世界甘味が少ないから、子どもも喜ぶんだろうけど。
お婆様とお母様に何故シブイ木の実が甘くなったのだと聞かれて、石焼き芋みたいにじんわり日に当てれば美味しくなりそうな気がしたから実験してみたと答えてみた。
ジェマは思いついたら行動する子だから、そうね、ジェマは何にも考えたりしてないわねと苦笑された。いや、ちゃんと考えていたよ!
その日はお爺様主導で、新たに採ってきた柿の実を全部干す準備をした。マルタだけではなく、お爺様もお父様もお母様も刃物の扱いは上手い。オットーやリッシャ、ハンスはへたを紐で括る方を担当し、わたしは吊られた柿をブランデーで拭いていった。途中、干す場所がなくなって、新たな干し場所を増設したりで大賑わいだ。
ティオとネオはフィーナと一緒にこの様子を見ながらずっともぐもぐと干し柿を食べていた。
そして、2週間家族使用人も総出で干し柿作りに邁進した。いや、お父様は畑仕事もしたし、お爺様は岩塩の見回りに行っていたし、お母様は害獣駆除もしていたけど、それでも空いた時間で干し柿を作った。
そして2週間後、領主館の入り口ホールに干し柿が吊られて揺れている。いいのか、貴族のおうちなのに。日本家屋と違って、軒下がないから仕方がないんだよね。出来上がったら紐を取ってもいいとは思うんだけど、皆、出来上がってたくさん吊り下がっているのを見るとご満悦のようだ。
石焼き芋と干し柿がこの冬、2大甘味として我が家に定着したね。お芋はお昼ご飯代わりに、お父様やお爺様が黒い紙に包んで胸元に入れて持っていき、お昼に取り出して畑の横で食べたりしているそうだ。それをもちろん村人が真似をする。
黒い紙は丈夫だから、1人1枚あればこの冬ずっと使える。ラングレー先生に頼んで作ってもらう村人が増えたそうだ。石焼き芋器もどんどん村に浸透しているようだ。
朝に焼いた石焼き芋を黒い紙に包んで胸元にしまい、お昼に食べるというのがこの冬の村のトレンドとなった。平和な村だなぁ。




