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王都へ向かう前夜、応接室で大人4人が久しぶりにワインを飲んでいた。
机の上には布に包まれた問題の品・・・ジェマが作ってしまった鏡が置かれている。
磨き抜かれたそれは、はっきり人の顔を映している。
「まったく・・・」
「その言い方だとジェマが悪いことしたみたいじゃないですか。」
「悪いことどころじゃないわ。」
「この鏡、王都の職人が見たら卒倒するわね。」
「私も目を疑いました。」
「本人は、『小さなものだとちょっとしたお小遣い稼ぎになるかなと思ったの』と言っていたわ。」
マルグリットが似てないジェマの物真似をしてみる。
次の瞬間皆で苦笑した。似てない物真似もそうだけど、ジェマの能天気さが笑える。
「わしは、正直に言えば、『石好き』など、外れに近いスキルだと思っていた。石を集めるだけの変わった娘になるかもしれぬと。」
「わたしもです。」
「だから、せめて家族だけでも味方でいようと思っていました。」
「貴族社会で役に立たぬと思われようが、しょせん田舎の男爵家だ。ジェマは好きに生きれば良いと思っていた。」
「ええ、綺麗な石を並べて喜ぶジェマを見てそのまま幸せでいてくれるのであればそれで良いと思っていました。」
「それが、蓋を開けてみれば飛んでもないスキルだった。」
「水晶を伸ばし、銀を貼りつけ、いとも簡単に鏡を作り上げてしまった。」
「職人なら何年かかるかしれぬようなものを。」
「翡翠の勾玉のアミュレット、箱庭テラリウム、真鍮の装飾品、香炉に、サンキャッチャー、栞に鳥型の鋏に磁器、卵焼き器、蚊取り線香、石畳にボーリング・・・」
「アミュレットも、テラリウムも欲しい方の声が途切れない。装飾品も香炉も、ジェマの作るすべてのものが高品質で画期的なもので美しくて欲しい人が多すぎる。ジェマ1人が作っているのも限界だ。」
「磁器は村の陶工が、卵焼き器や蒸留器はゴンゾが作ってくれるし、蚊取り線香は薬師、アミュレットの組み立てや、テラリウムの苔やシダは村人が手伝ってくれて、それで村も少し潤ってきた。だが、サンキャッチャー用の水晶やフローライトの美しいカットは村の細工師には真似が出来ないと断れた。」
「ボーリングは村の娯楽に位置付けられて感謝されている。あれは売っていないが、今後どうなるかわからぬ。」
「石畳も、村を歩きやすくなったと評判が良い。土や雑草は残っているが、そこが村らしくて良いという声もある。わたしも雨上がりの泥だらけの道を歩くことが無くなって楽になったと思う。」
「本当に、ジェマは自分が好きなことだけしていると言いつつ皆のためになっていることが多い。」
「たった数か月の間にこれだ。次は何を作るのか、見当がつかぬ。翡翠の原石、銅鉱脈、水晶、蛍石、銀鉱石まで見つけてしまった。」
「ジェマはうちの宝だ。もしかして国の宝になるかもしれぬ。」
「あの子の価値は計り知れない。」
「家族で守るしかないですね。」
「本人は、大したことしているつもりなんぞないんだろうけどな。」
「今回、ジェマが今まで作ったものをすべて献上することにする。ジェマを守りたいが、ここまで事が大きくなってしまったら、こそこそ隠して良いものでもない。田舎の男爵領内であれば良かったが、王都でもものが認知されてしまった。こうなったら、正々堂々と乗り込むつもりだ。」
誰が合図したわけではないが、互いの目があう、皆手に持ったグラスを掲げる。
「石好きのジェマに。」
「我が家のとんでもない宝物に。」
「これからも健やかで幸せでありますように。」
「そして、もう少し加減を覚えてくれますように。」
「「「「乾杯」」」」
だが、その願いが多分叶わないことを、この場の全員がなんとなく理解していた。
願わくは、この先も家族で飲む酒が、美味しいお酒でありますように。




