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もう日差しが夏めいてきた日、ケインから蚊取り線香が出来たと家まで持ってくれた。ありがとう!お代を多めに払うと、最初は恐縮していたけど、至急で作ってくれたから、その分上乗せさせてもらったといえば、受け取ってもらえた。
「ジェマ様、この蚊取り線香というものを使うところを僕にも見せてもらえませんか?」
そうか、それでうちまできたのか。いいよ。リッシャも見たいって言っていたし、一緒にどう。あらティオもネオもくっついてきた。じゃ、わたしの部屋ではなく応接室にして、部屋から蚊遣り豚を持ってきた。みんな豚を見入っている。可愛いと思うのはわたしだけかもしれないけど。
リッシャに蚊取り線香に火をつけてもらって、そのまま豚の中に設置してもらった。すっと煙が立ちたなびく。ああ。これこれ。蚊取り線香の香り。懐かしい夏の香り。
「わかりました!お嬢様、この煙が虫よけの効果を持っていて、この煙が漂っている範囲で虫よけができるんですね。」
「煙が出ています!」
わかってすっきりしたリッシャに、ケインは何か考えているみたいだ。ティオとネオは煙が出てくるのが不思議みたいで、近くに見に行って、煙を少し吸い込んでけほけほしている。体に悪い成分は入っていないけど、ちょっと近づきすぎだね。蚊遣り豚は火のついているところをうっかり触ってしまうことがないように、奥の方に仕舞っているからいいんだけど、火がついていて危ないことを可愛い弟2人に念を押しておく。
「ジェマ様、これはたくさん作って村人に売っても良いでしょうか。家で虫よけを小さな袋に入れて使ってもらっていましたが、煙の方が効果がありそうです。この豚?の置物は豚ではなくてもいいのでしょうか?」
豚が可愛いんだけどね。万事に受けないのはわかっている。わたしは収納から白い石と水晶を出してきて、香炉より少し間口の広いものを作ってみた。ちゃんと蚊取り線香がぺたりと底にひっつかないように器の底は、とげ付きだ。
「ああ、こういうのもあるんですね。蓋が透かし模様でとても綺麗です。これはたくさん作れますか?」
「石はたくさん収納しているから、10個20個はすぐに作れるよ。」
「ジェマ様、とりあえず1個、師匠に見てもらおうと思います。」
作ったばかりの香炉風の蚊遣りをケインに渡すと、ケインは喜んで帰っていった。役に立ちといいんだけど。
その日、応接室で蚊取り線香の香りが残っていることにお爺様が気づき、蚊取り線香の話をすることになった。
「虫よけか、それは良いな。」
「ミントの精油も作りたいのですが、ゴンゾさんが忙しくて、こっちは薬師の弟子のケインに作ってもらいました。」
「除虫菊を渦巻きにするとはびっくりだ。煙も嫌な香りじゃない。これで虫がこないのであれば、部屋で過ごす時に使っても良いな。」
お婆様も渦巻きの蚊取り線香を鑑定して、ちゃんと虫よけの効能があることを調べてくださった。
「面白い形だこと。でも、効能はちゃんとあるわ。さすが薬師のお弟子さんね。」
「この夏、うちで使ってみましょう。ジェマ、もう少し欲しいとお願いしてみてね。蚊遣り豚は、ジェマの豚の形のもの、母様は好きよ。わたしはこれにするわ。」
「わしは、香炉風が良いかな。透かし模様が香炉と同じでとても綺麗だ。」
「ティオとネオはどちらが良い?」
「豚さんはお腹の中に渦巻きを入れるのは、なんか可哀そうなので、お爺様と同じものにします。」
そうか、お腹の中が暑くて煙まみれになるのか可哀そうなのか。ティオは優しいな。
「それにしても、この磁器というものも美しいな。ジェマの作るものは全部綺麗だ。」
お父様は蚊遣り豚をしみじみ持ち上げて撫でて見ている。つるつるの磁器はひんやりした肌につやつやで綺麗だと思う。『鉱物の加工』がこんな風に使えるとは思っていなかった。やはり何でも試してみるべきだね。
「これと同じで他に何か作れるのか?」
「お皿とか、ティーカップとかの食器に、あと花瓶とか、作れると思うけど、わたしのスキルは加工だけで、着色はないから、全部石の元の色のままなの。全部真っ白になってしまんだけど。」
「白くても良いものを作ってもらおうか。村の陶工に色付けで模様書いてもらっても良いしな。ジェマの磁器?というものは村の陶工でも作れるのか?」
「お父様、陶器は土が材料で、磁器は石の粉と水晶の粉が材料です。後、焼く時に陶器より磁器は高温になると思います。この石は北の鉱山の近くのもので、たくさん採れます。」
「そうか、陶工のモーリスに試してもらおうか。陶器の温かい雰囲気も好きだが、この冷たくてすべすべした肌の磁器も素敵だと思う。こんなつやつやの器見たことない。母さんの実家ではどんな食器だった?」
「わたくしの家では、銀器か陶器でしたね。このような石の器は見たことがありません。確かに美しい。村で作れるようになったら、リーテお義姉様に見ていただいても良いわね。」
「石と水晶を粉にするのは大変かもしれないね・・・」
「お父様、北の鉱山で、石が粘土になっていた場所がありましたので、スキルの加工がないのであれば、そっちを使うと良いと思います。水晶の粉はわたしが言っていただければ準備できます。釉薬も水晶の粉で行けると思います。高温で焼くことになるので、ゴンゾさんに協力してもらうといいかも。」
「ゴンゾとモーリスにジェマの作った器を見てもらって、試してもらうか。」
「鉱山から粘土を採ってくるなら、わしも協力するぞ。それにしても石が器になるとは、不思議だな。石なのに、重すぎないのが良い。蚊取り線香も村で量産するのであれば、まずはモーリスには村で蚊遣り豚を作ってもらうのもいいかもしれんな。」
「お爺様、ケインにはわたしが蚊遣り豚を作ると約束したので、村で使う分は作れると思います。夏はすぐそこなので、早くいると思うのです。」
「そうだな。確かにモーリス達はしばらくは試作になるな。わかった。村の分はジェマに任せた。」
みんながにっこり見てくれたので、わたしも笑顔で頷いた。磁器がまだこっちの世界で身近に作られていないことを初めて知ったけど、『石好き』スキルのお陰で作れてしまったというのでつき通そう。
磁器がないなんて知らなかったんだものー。どうしても蚊遣り豚を作りたかったんだもの。あ、わたし前世に比べたら結構自分勝手に生きられているかも。以前なら諦めていたことを実現できているなんて。
7歳のジェマの感謝しつつ、とても可愛くできた蚊遣り豚をこの夏は活用するのだ。




