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お爺様から、北の鉱山の近くに白い綺麗な石があると教えてもらったので、リッシャと一緒に鉱山まで歩いて行くことにした。子どもの足で1時間ぐらいの距離だけど、この田舎の村で日頃遊んでいる子にとってはなんともない距離である。
石の前まで行けば、わたしのスキル鑑定も使える。磁器が作れそうだ。良い石。どのぐらい切り取って持って帰ろうか。近くに粘土っぽいところも見つけた。これもいけそうか。自分の収納に注目してみる。
わたしの収納は鉱物しか収納できないが、その分多く入る。翡翠の原石も河原の黒曜石も大理石も水晶も結構収納しているけど、まだまだ入りそうだ。
前世の体育館ぐらいははいるんじゃないかな。今の収納している分はすかすかのイメージである。よし、ちょっと山の端っこをもらおう。
まるで豆腐みたいに、山を切り取る。さすがわたしのスキル。鉱物しか対象じゃないけど、鉱物にはすこぶる凄い。
充分な量を切り取って収納したので、リッシャと山を下りるが、ふと、蚊遣り豚を作りたいだけで、何故こんなに石を切り取ったのだろう?と気づく。馬鹿かわたし。
いや、このすべすべの白い石は良いものだ。
大理石までいかないが、磨いたらかなり美しくなるはずだ。
家の床材にできそうなぐらいだ。
床材?石畳?そうか、家の前の道を石畳にしてみようか。この白くて美しい石を敷いてみようか。いつも雨が降ったらどろどろになる田舎道だ。せめて家の前から街道あたりまで整備してみようか。馬車も走りやすいだろう。
家に戻ったらお父様から許可をとろう。あ、村の薬師に除虫菊のこと聞かなくっちゃ。
思考があっちにいったり、こっちにいったりしたけれど、夏場に蚊取り線香が絶対欲しいという気持ちに嘘はないので、薬師の家に行ってみた。
「ミリーお婆ちゃん、ジェマですー。」
「おや、ジェマ様、どうなさった?」
家の奥から白髪をきちんと纏めたいつもにこにこしている優しいミリーお婆ちゃんが出てきてくれた。手も服も薬草の匂いがしている、村の薬師だ。
「ミリーお婆ちゃん、虫よけの薬草ってある?」
「虫よけかい?あるよ。今、準備していたところさ。これからよく使うからね。」
「どんな薬草か見せてくれる?」
「では、作業場に移動しようか。」
ミリーお婆ちゃんが家の奥に歩いていく。奥の間に作業場があって、そこで虫よけを作っていたようだ。いろんな薬草が乾燥して吊り下げられていたり、瓶に入れられていたりで、わくわくする光景だ。残念ながらわたしに薬師の才能はないのだけど、本物の薬師の作業場を見せてもらえるだなんて異世界転生の醍醐味だと思う。
「ほれ、これが虫よけの薬草だよ。」
どこか前世の除虫菊っぽい。蚊取り線香を作って欲しい。ミリーお婆ちゃんに、こんなのが欲しいとお願いしてみる。
「そうさの、わしは村の虫よけと虫刺され薬を作るのでいっぱいなんで、弟子に任せても良いかの?」
ミリーお婆ちゃんは、小さな木の器に軟膏みたいなのを入れているのを見せてくれる。木の器は村で作ってもらっているそうだ。わたしなら磁器か真鍮で小さくて綺麗な薬用の器が作れそうだけど、村の木工細工の人の仕事を取るのは嫌だな。お父様に相談案件だよね。
「お弟子さんでも、作っていただけるのであれば是非!」
「じゃ、ケイン。ジェマお嬢様からのご依頼だよ。」
作業場の奥で薬草を粉々に潰していた少年がこっちを向いた。少年は無言でぺこりと頭を下げた。10歳ぐらいだろうか。真面目そうな雰囲気をしている。
彼に、虫よけ薬草を粉にして、タブの木の皮を粘着剤として1対1で混ぜて、こんな渦巻きにして、乾燥して欲しいの。と説明してみると、渦巻きが難しいと言う。
あ、じゃ、収納から銅を取り出して渦巻きの型を作る。ケインに、これで渦巻きを型抜きしてくれないかと再度お願いしてみたら、型があるならやってみると言ってもらえた。
ちゃんとお小遣いからお代は払うからね。
リッシャに、渦巻きの虫よけってどう使うんですか?と聞かれたので、香炉のようなところに入れて燃やして煙を出すのよと言ってみるが、想像できないようだ。今まで無かったんだものね。完成したら披露するからっていうことで納得してもらった。
家に帰って山で採ってきた磁器用の石と水晶の粉で、蚊遣り豚を作ってみる。残念ながら色はついていない。真っ白だ。スキルに加工はあるけれど、着色はないのだ。村の陶工に釉薬をかけてもらって、色付けしてもらおうか。白くても可愛いからこれでもいいか。
大きく口を開けた豚の胴体に、蚊取り線香が吊り下げられるように銅で吊り金具をつけ、蔓で持ち手を編む。村の子どもなら蔓で籠を編むのもお手の物だ。
お父様にお願いして、家の前に石畳を敷くことは許可を得られた。つるつるに仕上げたら滑ってしまうから、少しざらざらにしてみた。
上手くズレないように設置できるか心配だったけど、わたしのスキルは鉱物全部に使える。石畳の下の岩盤にも影響するのだ。しっかり接着することができた。ヨシ!
ヨシ!と言うたびにわたしの頭の中の現場猫がぴしっと指さし呼称してくれている。前世の職場での現場で出会った現場猫。好きだったんだよね。現場猫。
「ジェマ!」
お父様が畑仕事からお帰りだわ。
「お父様、お帰りなさい。」
「ジェマ、家の前の道が白い石畳でびっくりしたよ。あんなに早く設置できたのか?」
「お父様わたしのスキルは石には万能なのです。」
「そうか、ありがとう。とても綺麗だった。本当にびっくりしたよ。いいね。石畳。玄関の前だけ町のようだったよ。」
「お父様がそんなにお喜びならば、村の道も石畳にしても良いですよ。この前、お爺様に教えていただいた鉱山で山ほど白い石を切り取ってきたのです。」
「え?いいのか?そりゃ、石畳になれば雨の日どろどろのぬかるみを歩かなくて済むから楽になるけど、ジェマが大変だろう。」
「一気に村全部は無理ですが、少しずつなら大丈夫です。それに村の全部の道じゃなくて主要なところだけで良いでしょう。」
「そうだな。主要な道だけにすればそんなにないか。はは。ただ、ジェマが倒れるようなことはしないようにな。」
「はい!無理しない範囲で楽しみながら敷いていきます。お父様は全部白い石畳で良い?」
「ん?白じゃない石畳ってあるのかい?」
「黒曜石も使えば、白と黒で模様になるかなって。」
「ああ、それも面白いかもしれないけど、白だけで良いよ。あんまり目立つのはね。」
苦笑するお父様の顔を見て、そうかさすがに黒と白の格子模様はまだ早かったかと残念に思う。前世は都市で暮らしていたから、ヒールにこつこつと響く御影石の敷かれた道路を少し懐かしく思うが、草の匂いが強い、土の元気な香りがするこの田舎の村がたまらく好きだ。虫が少なかったらもっと大好きになれるだろう。だからこそ蚊取り線香だ!頑張ろう。




