46 放浪者、知らない魂人と出会う。
無限回廊では魂の放浪者の後を小人のマッシュがついてまわっていた。
ホウロウが樹海に降り他者の魂戦に突然介入したり、思い立ったように魂にポイントを分け与えたり、マッシュは、それを近くで見てあたふたしていた。
そして、回廊ですれ違う魂人にホウロウが絡まれると、その小さな体で彼女を守るように前にでて、かばおうとする。
今も樹海に降りて、気になる魂草に腕を切り血をたらしてポイントをあげていると、マッシュは手拭いを取り出して、その血を勝手に拭きホウロウの身を綺麗にしている。その行動に何も彼女は感じないのか無言でされるがままにしている。
一方、ポイントをもらった魂草は羽の生えた鼠になり空を飛んで逃げていく。
「あっ、行っちゃった。話しかける間もないか…」
空を見ているとマッシュが心配そうに、そのホウロウを見ていた。彼は何故、彼女がこのような行動をするのか分からない、でも、その気まぐれな行動により自分も過去に救われた。だから、止めることはできない、ただ見守るだけを続けていた。
ホウロウはマッシュが自分に恩を返そうと頑張っている姿を冷めた目で見ていた。
そして、決して「ありがとう」とも言わない。もし言ってしまったら、彼も、たんぽぽちゃんのように恩を返したと満足して、その場を去ってしまうことを知っているから…。だから、絶対に感謝の言葉や恩返しができたととられるものを口にしない。
恩返しなんてさせない。ずっと恩を返せないまま、僕から解放されなければ良い。彼女の心の歪みは少しづつ強くなる。
ホウロウのこれまでの事情を知っているものが、それらを見ていたなら、何故彼女はマッシュに一緒に転生してくれと言わないのか不思議に思うだろう。言えば、きっとそれは叶ったかもしれない。
でも、マッシュの行動と言動のはしはしにみえるポポナ・フルールの影がそれをよしとしない。
恩を返せばいなくなる。
歪んだ暗い瞳は素直な判断を鈍らせた。
放浪者が昔のように無限回廊をさ迷う姿は、時が戻ったように感じるかもしれない。
また一見、前に戻ったように見えるが昔と違う事が二つあった。
一つは、彼女に魂の記憶スキルがあること。
一つは、地球で死ぬ直前に心から、もっと幸せを感じたいと願って全魂ポイントと引き換えに強引に「小さな幸せスキル」を無意識下で取ったこと。
この二つが彼女を放浪者のままにさせないように作用していた。
魂の記憶スキルで他者との縁を忘れず、小さな幸せスキルで新たな他者を引き寄せ縁させる。
この二つのスキルがホウロウを決して独りにしない。そう、だから彼女は救われる。
今だってマッシュが彼女の後ろをそっと離れずついてくる。
※※※※※※※
ホウロウとマッシュが何時ものように回廊を扉や樹海を眺めながら歩いていると、前から美しい白い翼を持つ男が歩いてきた。
それは天使のような姿で頭に冠のような物を乗せ、しずしずと歩く。揺ったりとした服装が樹海からの風になびき、そのハーフアップにされた長い髪もサラサラと揺れる。
美しさと威厳を備えもった姿の魂人、翼人族か鳥の獣人の王なのか?それとも、本当に天使なのか、その男がホウロウとマッシュの脇を通り抜けようと近づいてくる。
すれ違い様に男はホウロウの顔をチラリと見て目を見張る。
彼はすぐに足を止め振り返った。
「おい、ボークじゃないか!久しぶりだな!!」
美しい姿からは思いもしない乱暴な言葉が投げかけられた。
ホウロウは知らない魂人に話しかけられ気だるそうに振り向く。その二人の間に素早くマッシュが入る。
「誰?僕、あなたのこと知らないけど」
ホウロウは、また魂の記憶スキルを取得する前の自分に会ったことのある魂人だと思い答えた。
「はぁー!お前、薄情だな、魂の記憶スキルがないから俺のことも覚えてないってことかよ。あれほど、取得しろと言ったのに!」
男が呆れたように溜め息を吐く。
「魂の記憶スキルは今はあるっ!」
僕は知らない魂人にムッとしてしまう。
何だろう、このやりとりの感じ…僕を馬鹿にする相手の態度に怒っていいはずなのに…嫌な感じがしない。何か少し懐かしいような。でも、こんな姿の魂に知り合いはいないはず。
マッシュは二人の間でオロオロして様子を伺っている。知り合いなのか、そうでないのか。
「そうか、いつ魂の記憶スキルを取ったか…いや、それでもボークっていう名は刻まれているはず、俺が言霊スキルで名付けたんだからな、名付け親のことも忘れるとは酷いやつだ!」
「まって、名付け親? しかも僕をボークと呼ぶひとは…あまりいない…」
男はニヤニヤ笑いながら髙身長のため僕を見下ろす。
僕は彼の言葉にまさかと思う。
だって姿は見たこともない魂人だ。
こんなに近いから超視力スキルだって必要ないけど、僕の知っている彼とは容姿が似ていない。背中の翼だって黒じゃない白だ。でも、もしかしたら。
彼の姿を隅々まで観察する。
何か何かないのかと。
そこにそれはあった。
長い髪に目を奪われていて見落としていた。
金の翼をモチーフにした大降りのイヤーカフ、そこには青紫の美しい宝石が数個輝いていた。
それが彼の耳についている。
覚えている。
知っている。
あれは!
「レイ、レイブン!?」
僕は嬉しくて白い翼の美しい男に思わず飛びつく。目からは嬉しい涙が自然と流れる。
そして抱きついたまま、ずっと離れなかった。
「おいおい、そんなに俺に会いたかったのか?泣く程かよ!」
レイブンは呆れながらも、ぐずぐず泣いている僕を仕方ないなと受け入れて落ち着くのをひたすら待ってくれた。
「ふふふっ、戻ってきた。レイブンが戻ってきた」
僕は嬉しくて腕の力を少し強める。そして、もう絶対に逃がさないと心に固く誓った。




