45 繰り返される皮肉な出会い。
中庭街の大きな酒場、魂人達が1日の終わりの鐘に誘われて、酒とつまみを楽しみにここに集まっていた。
「おい、無限回廊に魂の放浪者が戻ったらしいぞ!」
「ああ!知ってる、少し前まで中庭街にいたらしいが…三賢人の1人だって、言うじゃないか」
「それより、地震だ!また、何処かの世界が滅んだらしい!」
「そうなのか?最近、多いいな…」
酒をあおりほろ酔い加減の魂人が思い思いに近況を語り、お互いに情報を交換する場。今日も多くの魂が酒を飲み口を軽くする。
※※※※※※※
無限回廊の住人、魂の放浪者は今日も回廊を独りぶらぶらしていた。
その側の樹海では度々魂戦が繰り返されていて、それをぼーと回廊の縁に腰掛けながら眺めている。
今日は巨大な鹿と熊ぐらいの大きさのダンゴ虫が近くで戦っている。
ドゴーン、バン、ババーン!
鹿は、転がりながら体当たりするダンゴ虫を角で救い上げ上手に森の木めがけ放り投げる。
飛ばされた魂虫は木をなぎ倒しながら遠くまで行ってしまった。
しかし、めげずに遠くから助走をつけて先程よりも勢いをまし、回転しながら猛スピードで鹿に体当たりを食らわす。鹿は避けることもできず無限回廊の見えない壁に激突し、そのまま地面に落ち動かなくなった。
大きな鹿が鈍く光出す、魂獣から一気に魂石に姿を変える。そして、それと同じくして巨大ダンゴ虫は、紫の毒々しい針ネズミに変化する。
敵から魂のポイントを奪い取り無事に魂虫から魂獣にランクアップした。
毒針ネズミは、その場でクルクルと回り自分の状態を確認してから森に帰って行く。
残された鈍く光る石。倒された魂石は身動きすることもできずに、その場に転がっている。
その様子を見ていた放浪者はムクリと動きだし、回廊から中庭にジャンプして地面に降りる。
大きな鹿であった石を拾い彼女は手のひらで転がして遊ぶ。
「君、負けちゃったね?」
物言わぬ魂石に話しかけながら石を地面に戻す。
「助けてあげるよ、動きたいでしょ」
放浪者は頭の髪留めの琥珀に触れ、中から美しいナイフを取り出す。そして石に話しかける。
「このナイフはね、決して磨耗しないナイフなんだよ。切れ味が最高なんだ。どう?素敵でしょ!切れ味を見てみたいよね?!」
彼女はポンチョのフードをかぶり顔に影が落ちていて、その瞳の色は濃い青に見える。その目が不気味に光り石を見つめている。
「遠慮しないで、よく見てね」
彼女は鋭いナイフを自分の腕に突然当てる、そこからは赤い血が下に流れ落ち、魂石は真っ赤な血に浸る。
すると、魂石だった石は光りと共に大きくなり人の形をとる。
「これぐらい、あげれば魂人になるんだね…ふふふ、面白い」
自分が他者から魂のポイントを無条件に貰った事が信じられないのか、頭に大きな鹿の角を生やした女が尻餅をついたまま放浪者を見ていた。
その顔は恐ろしい者を見てしまった時の表情をしている。
「どう?動けるようになったけど」
「ひっ、ひぃーっ!!!」
放浪者が話しかけると、鹿の角の女は悲鳴を上げて樹海に走って逃げて行った。
「あれ?また、失敗かぁ~仲良くなったら、一緒にいってくれるかもと思ったんだけど…難しいなぁ~」
彼女はナイフについた血をハンカチでぬぐい、もう治ってしまっている腕も拭く。そして、回廊部によじ登ろうと手をつける。
すると、回廊から手を差しのべてくれる者がいた。
誰だか分からないがその手を掴み上に上がる。
そこには銀髪をした小さな男が立っていた。その腰には二本の短剣がぶら下がっていた。
「放浪…やっと、見つけた!」
140㎝ぐらいの小さな男、だが子供ではないようだ。顔は大人の男の顔をしていた。
「わし、恩人をずっとずっと探していた。前に無限回廊で魂Pコインを沢山もらった小人族で、あの時は本当に本当に助かった、無事に群れにも帰れた。あっ、ありがとう」
銀髪の小人は、森に紛れてしまうような保護色の服を着ていた。
短剣があることから身軽な体格をいかして戦うタイプなのだろう。それがニコニコと笑っている。
「ふーん、恩人ね、悪いけど僕、魂の記憶スキルを最近とったから、分からないんだよね」
放浪者は小人に冷たく言った。
「あっ、前回、名前も覚えていないって言ってたような…!はっ、わしはマッシュ、マッシュと言う」
マッシュはフサフサの銀髪を揺らしながら嬉しそうにしている。
「マッシュね。僕は今はボーク・ホウロウ・ルチルかな」
「わしは何と呼べば?」
「好きに呼べばいいよ」
「それでは、ホウロウと」
ホウロウの瞳が鈍く光る。
「たんぽぽちゃんと、同じ呼び方だね…しかも、恩人か……」
彼女は小さな声で呟いた。
そして、回廊に戻ったので進行方向に足を進める。それにマッシュも慌ててついてくる。
「それで、何の用なの?用事がなければ僕は行くよ」
「あっ!わし、ホウロウに恩返しをしたい、何か困っている事とか、あったら言って欲しい!」
ホウロウは足を止めマッシュの目を見る。
「恩返し…ね、特にないよ、困っていること、何もない」
「うっ、確かに魂のポイントも沢山持ってそうだし、でも、わし頑張ってホウロウの役に立つこと探す!」
「そう」
彼女は感情のこもらない表情でそれに答え、前を向いて歩み始めた。
ただ暗い色の瞳だけ悲しげにゆれていた。
マッシュは勿論、それには気づくことは無かった。
そして、ホウロウの一時の新たな同行者となる。




